途上国支援で活躍できるスキルを見据えて。私が大学・大学院で「環境」を学んだ理由
途上国支援や国際環境問題に興味のある高校生のみなさん!大学選びは順調ですか?
海外での活動を念頭に、まずは語学を学ぼう!と考えている方も多いかもしれません。でも同じような夢をもちながら、別の分野の学びを選んだ人がいます。
今回は、幼いころから途上国支援に興味があったという小山友梨子(こやまゆりこ)さんをご紹介します。滋賀県立大学環境政策・計画学科で学び、大学院(地域環境経営研究部門)での研究を経て、建設コンサルタントの上下水道部署で働いています。
小山さんは、大学入学時には「環境に興味はあったけれど具体的な研究分野が決まっていなかった」のだとか。大学を選ぶうえで考えたことや大学で身についた知識やスキル、働くなかで役立っていることについて伺いました。
環境に興味をもったきっかけは、幼いころに訪れた東南アジアの光景
ーー滋賀県立大学の環境政策・計画学科を選んだ理由を教えてください。
幼いころから憧れていた途上国支援や国際協力に取り組むうえで、自分の武器になる知識やスキルを身につけたいと考えて選びました。
小学生のころに両親が海外旅行に連れて行ってくれたのがきっかけで、海外と日本の生活環境の差や環境問題に興味があったんです。進学先の大学を探していた時、はじめは外国の語学や文化を学べる大学も視野にいれましたが、せっかくなら自分の強みになるスキルを身につけたいと考えて、海外の環境問題にアプローチできる大学に絞って探しました。
国際環境などのキーワードで調べていたときに、滋賀県立大学の環境政策・計画学科を父が見つけてくれて。現地調査などのフィールドワークが多い点に魅力を感じて選びました。
ーー進学する前から、この分野を勉強したい!というのは決まっていたんですか?
明確には決まっていなかったです。入学前に大学のことを調べたところ、環境政策・計画学科は地球温暖化やごみ問題などの自然環境に関する問題も、過疎化や獣害などの人間生活に関する問題のどちらも扱うことができる大学だということを知りました。あらかじめやりたいことが決まっていなくても、さまざまな環境問題への興味を育てることができる場所です。私の場合は人間生活に密接に関わる生活環境の問題に対する興味が強かったので、最終的に水道インフラの分野を扱うことになりました。
課題を見つけて、議論を進めていく力
ーー大学ではどんな力が身についたと思いますか?
議論を進めて、答えを見つけていく力が身についたと思います。環境問題は研究を通して出てきた数値だけで答えが出せるような問題ではありません。人間の行動が密接に関わるので、これが絶対だ!という答えを導けることは少ないんです。だからこそ、さまざまな意見があるなかでどうやって話し合いをおこなえばいいか、どうすれば話をまとめることができるかを考えることはとても重要なスキル。大学での学びを通して議論を進めて結論を出すためのプロセスを、知識としても実践スキルとしても身につけることができたと思います。
ーーどんな授業で議論する力を身につけていきましたか?
「社会システム分析設計・演習」という、ある社会問題に対してアンケート調査や情報収集を経てグループワークを行い、プレゼンテーションをする授業が特に印象に残っています。
授業でグループワークをおこない話し合いを重ねるなかで、出てくる意見に対してどの視点からまとめ、妥協点を探っていくのかを実際に体験することができました。
会社に入社した後も、複数の意見をまとめて合意をとる場面は多いので、合意形成までのアプローチを学ぶことができたのは大きな財産になりました。また、議論を通して1つの課題を複数の視点から考える力も身につけることができました。授業で身につけた力を使って、卒業論文のテーマとして扱う課題を自分で見つけることができたこともいい思い出です。
自分で課題を見つけて取り組んだ卒業論文
ーー卒業論文のテーマはどのように選ばれたんですか?
担当教員である平山奈央子先生に相談したり、自分で既存論文を読んだりしながらテーマを絞っていきました。東南アジアの環境問題に興味がありますと先生に伝えて、「ベトナムの水問題はどう?」と提案を受けて、研究テーマを水問題に決めました。
さまざまな論文を読んでいくなかで途上国と日本の大きな違いである生活用水の普及について注目しました。ベトナムは水供給源の水質汚染が深刻で、公共下水道はほとんど普及していない場所です。日本人からするとどうしても水道設備を整えるべきだという気持ちを持ってしまいますが、実際に現地の人はどんなことを感じているのかが気になって。現地に住む方々の生活用水に対する意識調査やその結果をどのように政策に反映するべきかというテーマで研究をはじめました。
ーー小山さんは卒業研究を経て大学院に進学されていますが、進学しようと考えた理由はなんですか?
途上国の水道インフラの現状について、もっと詳しく研究したいと思ったのがきっかけです。卒業研究の時期はコロナ禍でベトナムで現地調査をするのは難しい時期だったので、ベトナムの大学に協力してもらって学生向けのアンケート調査をおこなったんです。やはり現地に足を運んで、途上国のインフラ設備の状況をもっと深く知りたいという思いで、大学院への進学を決めました。
大学院では、卒業研究をもとにアンケート項目をブラッシュアップしたり、研究対象を農業用水まで拡大して調査を行ったりすることができました。卒業研究よりもさらに広い視点で研究をおこなえたことはやりがいがありましたね。
大学院に進学したから得た経験とスキル
ーー研究を進めるなかで、印象に残っていることはありますか?
大学院生のときに5日間かけておこなったベトナムでの現地調査が印象に残っています。実際にご自宅を1軒1軒訪問して、アンケート調査をしました。具体的には、今の水道設備にどんな印象を抱いているか、健康への影響を実感しているかなど、水道インフラへの意識調査をおこないました。
都市部だけでなく農村部まで足を運び、現地の暮らしを見ながら直接話を伺った経験は深く心に刻まれています。水道というインフラ設備が人間の健康にどんな影響を与えているのかを実感する機会にもなりました。
ーー大学院に進学したからできた経験があったんですね。
そうですね。学部生のときよりもアンケート調査の方法や分析手法といった点で研究のレベルを上げることができたと思います。長い時間をかけて一つの問題にじっくり取り組むので、より深く課題に向き合う力を養うことができました。研究室で行われるゼミではお互いの研究に対して、意見を出し合うことが多いので、幅広い視点で物事を捉えることもできるようになったと思います。
また、大学院の授業は学部生の時よりも自分で調べてまとめて発表をする機会が多いのが特徴です。調べてわかりやすくまとめることを繰り返すうちに、レポートを書くときの文章能力やプレゼンに向けてわかりやすくスライドをまとめる力も身につきました。会社に就職してからもとても役に立っているスキルで、実際に社内でお褒めの言葉をいただいたこともあります。
健康に直結する水道インフラを支えられる人に
ーー就職先はどのように選びましたか?
上下水道部門がある建設コンサルタントに絞って就職活動をおこないました。
ベトナムでの水道に関する住民の意識調査をするなかで、水道というインフラ設備がどれだけ人間の健康にダイレクトな影響を与えているのかを実感したんです。人間に密接に関わる環境問題の一つである水道に関する専門性をもっと高めたいと思いました。
ーー途上国支援ができるような会社に入社しなかったのはなぜですか?
まずは世界でも高水準な日本の水道技術を身につけたいと考えたからです。日本は蛇口をひねれば水が出て、下水の処理をする浄水設備も整った国。ベトナムでの調査を経て、改めて日本の水道インフラのすごさを実感しました。今の自分は途上国に伝授できるような技術は持っていないので、建設コンサルタントで日本の水道技術を身につけたうえで途上国支援ができればと考えました。まずは日本の水道技術をしっかり身につけることが目標です。
進路選択を控えた高校生へメッセージ
ーー滋賀県立大学環境政策・計画学科はどんな人に向いていると思いますか?
知的好奇心旺盛で、さまざまなことに興味関心を持てる人は楽しめる場所だと思います。学びたいことが明確に決まっていなくても大丈夫。授業を通して、この問題を解決するためにはどうしたらいいかをきちんと考えていけば、おのずと考える力を身につけることができます。
ーー小山さんの経験をもとに、あらためて滋賀県立大学環境政策・計画学科のおすすめポイントを教えてください。
1学年の人数が少ないので、先生と1対1でお話しできる機会が多い点がおすすめです。専門的なことを学ぶうえで、1人の研究者である先生と話す機会が多いのは、特別なこと。研究室に配属される前でも、自分のやる気次第で研究のきっかけを作ることができる環境です。
環境問題は、アンケート調査の多数決だけで関係者全員が納得できる答えをを出すのは難しい。だからこそ議論や合意形成までのプロセスが大切です。滋賀県立大学環境政策・計画学科は環境問題についての知識を身につけながら、課題との向き合い方、解決に向けて議論する力も身につけられる場所。環境問題に漠然と興味があるという方にぴったりだと思います。
ーー最後に、途上国支援や国際環境問題に興味がある高校生のみなさんへ、メッセージをお願いします!
まずは語学を身につけようと考えている方も多いかもしれませんが、自分の興味ある分野の知識やスキルを身につけるのも一つの方法です。
滋賀県立大学には海外の環境問題を扱っている先生もいますし、東南アジアへ行く集中講義もあります。意外と国際的なことを学ぶ機会が多い学科です。過去の私のように国際的な環境問題に興味があるという方にもぜひおすすめしたいです。
具体的にやりたいことが決まっていないけど、環境問題に興味がある、国際協力などもやってみたいという方はぜひ滋賀県立大学環境政策・計画学科のホームページをのぞいてみてください。
(取材:2024年1月)