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自己紹介

6社目の仕事をやめたとき初めて「これからどうしよう」という不安に襲われました。

新卒で就職した会社は1年と経たずに辞めてしまいましたが、次の職場では12年続いていました。しかし、ずっと「何か違う」という感覚があったのです。会社という組織、そして事務という仕事そのものにも向いていないと感じていました。そこで大学院へ進学し、中高の教員か研究者になれればという展望を描きました。結果は、そのどちらも自分の実力では及びませんでした。

それでも気を取り直して企業に就職しました。どこかに情熱を傾けられる、やりがいのある仕事があると信じていたからです。引越しまでして慣れない旅館の仕事も経験。それも失敗。一人暮らしで仕事をしなければ生活をしていかれない事情もあり、その後も短い間に転職を繰り返し、ついに6社目になっていました。

仕事を辞めるときは、仕事内容が合わない、会社の方針に不満、人間関係の問題、そして残業や休日出勤が多いなどの理由があります。しかし自身には、理由付けできない部分、「何か違う」という感覚がどの仕事にもついて回ったのです。我慢をしていても、ある時突然「やめる時がきた」という信号のようなものが体にはしります。そうなるともう続けられません。

その頃には、周りの人にも仕事を辞めたことを言いにくくなっていました。「また辞めたの?」と言われるのが恥ずかしかったからです。

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「どうしてうまくいかなかったのだろう」とこれまでのことを反省しました。

稼げないのだからこのまま死んでしまってもいい、とまで考えたこともありました。

「転職から何も学習できていないのではないか」「これからどうしよう」、そう思い巡らせているうちにある本の言葉が思い浮かんだのです。アンドレ・ジッド「地の糧」の一節。メナルクという想像上の人物は、旅をして「町々を通り過ぎ、どこにも留まりたくなかった」と言う場面で次のように語りかけています。

「幸いなるかな、この世の何ものにも執着せず、常に動いて永遠の情熱を運びゆく者は」※1

この作品で作者は、外国の旅の経験から「自由」と「生の歓び」を発見し、その開放的な感覚を語りかけているように思います。私は、はっとさせられました。後ろを振り返ることなく、情熱の生まれるところで努力をすればよい、この一文にはそんなメッセージに読めました。

また、改めてこの作品を読んでみると、次のような言葉もありました。

「苦しみながら仕事をしたからそれに価値があるように思う人が、私はきらいだ。苦しかったのなら、他のことをするほうがよかったのだ。仕事に見いだされる喜びこそは、その仕事が自分に適合したものであったことの証だ。」※2

苦しみながら仕事をするのが当たり前と思わなくていい、と許してもらえたような楽な気持ちになりました。

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そして気づいたのです。自分は「その時に情熱を傾けられる何かに向かって生きてきたのだ」と。そんな生き方を恥じることはなかったのだと。
確かに、いろいろな仕事をしてきたわりに、次に活かせていないのは力の至らないところだと思います。それでも未来をよくしたい熱意は誰よりもあるし、失敗をしても次に向かう勇気や意気込みがあるのはある種の特技なのかもしれないと、とらえ方を変えたのです。

すると、おかしな顔をされてしまうと思って今まで言えなかったことを言えるようになりました。

「今の会社も嫌になったら辞めるよ。そして次を探すから」

周りも「そんなに転職しているのだから、転職コンサルタントになれば?」とか、「転職相談で相談料とれば?」など前向きな意見に変わっていきました。それは意外な反応でした。

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転職といっても、特技があるわけでもなく、またキャリアアップといえるものでもありません。けれども、同じ会社に10年いたときよりも、転職をしてきた10年は2倍くらいの経験ができたという印象があります。

新しい環境だからこそ、楽しかったこと、大変だったことはたくさんあります。そう考えると、転職は「旅」ともいえるのかもしれません。一つのところに滞在するのも旅ですが、移動をしながら新しいものを見るのも「旅」です。

旅先での体験はどれも日常とは違う特別なものがあります。すると、転職して嬉しかったこと、悲しかったことなど、そのすべてが愛おしいとすら思えてきました。そして、今までのことを受け入れて前に進んでいこうと力が湧いてきたのです。

そうこうするうちにいつの間にか10社目になっていました。これまでの旅路で苦しかったとき、本だけでなく、ある人の存在や直接掛けてもらった言葉に救われることもありました。辛いときに寄り添ってくれる人の「温かさ」ほどありがたいものはありません。

これからは、今までの経験を基に、仕事だけでなく人生の中でさまざまな「旅」をしている人に向けて、その「温かさ」になれるようなものを「書く」ことで伝えていきます。

そしていつか「これだ!」と思える仕事を見つけて、これまでの長い旅をしみじみと味わいたいです。旅にもいつか終わりがあり、家に着いてほっとする瞬間があります。その時を楽しみに、今は書きながら旅を続けます!

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※1 二宮正之訳『アンドレ・ジッド集成』Ⅰ、筑摩書房、2015、481頁
※2 同書455頁


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