『ブルーハワイは瑠璃色に』作:飴玉 【5分シナリオ】
「ブルーハワイは瑠璃色に」 作:飴玉
★登場人物★
山田 万結〈まゆ〉(26)
四ノ宮 珠里〈しゅり〉(26)
朝倉 桃子(26)
鈴木 千夏(26)
○道
夏。蝉の声、昼下がり。
陽炎の中、山田万結(26)、四ノ宮珠里(26)、朝倉桃子(26)が歩いてくる。
珠里、手で日差しをさえぎりながら、
珠里「いいこと教えてあげよか」
万結「……いらね」
珠里「『つまんなくない男』って、1割だから」
万結「まあそれな」
珠里「つまり、世界の9割が恋愛対象から消えます。はい死んだ」
万結「わかるけど、程度ってもんがあんでしょ。ちょっとつまんないのか、クソつまんねーのか」
珠里「男に面白さ求めてる時点で終わってんのよ。と、到着!」
と、建物を仰ぎ見る。
汚い建物の一階が『喫茶ミッキー』である。
○喫茶ミッキー・外
3人、雪崩れるように店に入ってゆく。
○同・内
ボックス席に座った3人。
他に客はいない。
珠里「あぁぁあぁ天国~、生き返るわ」
万結「えっ、死んでたの? とか言うやついるよね」
珠里「あー」
万結「捕まったら良いのに」
昭和のような古びた店内。汚い水槽があって、音の出ないテレビに甲子園が映っている。
白髪のマスターがメニューを持ってくる。
3人、メニューを開いて会議。
珠里「桃ちゃんどれする?」
桃子「私いちご~」
万結「だよね~。私もいちご、白玉入り」
珠里「てめえずるいぞ。じゃあおいらレモン」
万結「珠里いっつもレモンじゃね。いい加減おとなになれよ」
珠里「いちごの方がガキだろ」
マスターが呼ばれて、
珠里「えっと、かき氷で――いちご2つ、ひとつ白玉入り。それとレモン。あとブルーハワイください」
マスター「4つでいいですか」
珠里「ひとりは――後で来るんで」
マスター「あ、はい。少々お待ちください」
と、カウンターへ。ワンオペのようだ。
× × ×
かき氷が4つ、テーブルに並ぶ。
3人、サクサク食べながら、
万結「そいつさ、『好きなもの何?』って聞いてくるんだよ」
珠里「別にいいじゃん」
万結「いや、ジャンル絞ったりするでしょ普通」
珠里「(声を作って)えっとお、好きなゴリラはニシローランドです!」
万結、桃子、笑う。
万結「『好きなゴリラは?』って聞いて来る奴いたら合格だろ」
珠里「1割だな」
万結「好きな季節、もアウトだけどさ。でも季節はギリ許せる。わかる? このライン」
珠里「まあ」
万結「好きなもの何、って言われてもな」
桃子「私はいちごかな~」
万結「はいはい、可愛い可愛い」
珠里「で、なんて答えたの?」
万結「え、サボテン」
珠里「(笑って)好きなの?」
万結「いや別に(笑)。ただこっちはその先の展開を期待してるわけ。パス。会話のキャッチボール」
珠里「知らんけど」
万結「面白くしてくれるならセーフだけどさ。そいつ……『え、なんでサボテン? トゲあるから?』って」
珠里「うわ」
万結「トゲがあるから好き、ってなるわけ無いじゃん! じゃあウニも栗も好きなんかって。脊髄で喋ってんだよ」
桃子「いちご好きってゆって『赤いから?』って聞かれたらヤだな」
万結「でしょ。サボテンって聞いて、トゲって発想しか出ないのマジ無理。余裕の帰宅コースだったわ」
珠里「あー、おつかれ。マッチングアプリってさ、もっと事前に会話できるでしょ。そこでわかんない?」
万結「私あんまメッセージのやり取りできないんだよね。だるくて」
珠里「万結はアプリ向いてないのかもね。アプリ婚のパイセン教えてくれよ。桃ちゃん」
と、桃子に向かって、
珠里「うまくいくアプリの使い方」
桃子「えー、うまくいかないよ?」
万結「結婚できてんじゃん」
桃子「ああー。離婚したんだ」
かき氷を食べていた珠里、むせる。
万結「した?『する』じゃなくて?」
桃子「した、先月」
珠里「言ってよー。マジ最初に言って」
と、笑う。
万結「いや笑い事じゃないけど」
と、つられて笑う。
桃子「そーだよ、笑わないでよ」
と、笑う。
いつの間にか、鈴木千夏(26)も席についていて、ケラケラ笑っている。
千夏、笑いながら、
千夏「え、原因なに?」
桃子「浮気だよ。普通に」
万結「普通かは知らんけど(笑)人間のクズだなそれは」
桃子「そーだよ、不倫する人の歯、全部折りたい」
千夏「なんで歯(笑)」
万結「よし、指も折ろう、全部」
珠里「……」
桃子「まあ、また誰か探すよ」
千夏「てかさ」
万結「何?」
千夏「珠里ちょっと怪しくない? いま不倫ってワードに反応してた」
桃子「うそ」
千夏「ほんと。絶対怪しい!」
と、珠里を指差す。
珠里「え、何? ぜんぜん、私あれだから。進めて」
万結「(笑って)何を進めるんだよ」
桃子「え、珠里ちゃん不倫してるの?」
珠里「いや、不倫ってか、過渡期ってか」
万結「何いってんだこいつ(笑)」
桃子「歯、折っちゃお(笑)」
珠里「あー、わかったわかった(笑)。話す。話すけどさ……」
万結「けど、何?」
珠里「なんか今。千夏がいたような気、しなかった?」
と、千夏の席を見る。
そこにはブルーハワイがあって、だいぶ溶けている。
千夏はいない。
万結、桃子も千夏の席を見て、
万結「それは、まあ……今ってか」
桃子「うん……いっつもそんな気がするよ」
テレビの高校球児がガッツポーズで走っている。
珠里「溶けちゃうからさ。食べよ?」
と、千夏のブルーハワイにスプーンを差す。一口食べる。
万結「ま、そっか。もったいないし」
と、一口食べる。
桃子も一口。
○墓地(少し前)
万結、珠里、桃子が手を合わせている。
『鈴木家之墓』と書かれている。
お菓子などが供えられていて。
蝉の声がうるさい。
手を合わせて、汗ばむ3人。
○道
陽炎の中を歩く3人。
珠里「あじいいぃぃぃぃぃ」
万結「ねえ、ミッキー寄って帰らない?」
珠里「うわ、それだ。まじそれだ。かき氷食べよう」
桃子「まだあるのかな」
万結「あるでしょ。あーゆー店は」
珠里「千夏いっつもブルーハワイ食ってなかった?」
二人、笑って、
桃子「うんうん」
万結「それ」
○喫茶ミッキー・内
万結、舌を出して笑っている。舌が青い。
珠里、より目で舌を出す。舌が青い。
桃子、ぺろっと舌を出す。青い。
千夏、笑顔で舌を出す。青い。
四人、少女のような笑顔で笑い合っている。
雲ひとつない夏の空。
(おしまい)
********************
作者より→
大好きな映画「サニー」の雰囲気。最近観た「デデデデ前章」のムードもある。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?