<SOCIAL GREEN TALK 2>「GROW NEXT NATIVES 次世代へ繋ぐ、次なる在来種」ゲスト:ジョン・ムーアさん
ジョンさんは笑顔に溢れる一方で、語気を強めて語りかけます。
次の在来種はどうするの?
この100年で食べ物の遺伝子の約94%が消失したと言われています。
多様で栄養価に富んだ、健康的な食べ物を確保することが難しくなった今日。食の安全性の問題に真っ向から取り組み、種や土を見直すことが必要です。これは今、誰もが解決しなければならない人類規模の問題でもあります。
2020年12月18日、SOCIAL GREEN TALK(※)の第2回が開催されました。今回のゲストはジョン・ムーアさん。アイルランドのご出身で、パタゴニア日本支社長などを歴任。現在は、一般社団法人SEEDS OF LIFEを設立され、種子の保護や育成活動に従事されています。今回、「次世代に繋ぐ次なる在来種」と題して、トークとディスカッションが行われた記録をお届けします。
<SOCIAL GREEN TALK2スケジュール>
19:00~19:15 イントロダクション
19:20~20:00 ジョン・ムーアさんのトーク
20:00~21:00 質問・ディスカッションなど
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※SOCIAL GREEN TALKとは?
みどりに関する多分野のゲストをお招きし、みどりに対する考え方を学ぶとともに、アイデアをどう実践して社会を変えていくかを考える試みです。全6回の講座となっており、庭師やランドスケープデザイナー、環境活動家の方など様々な分野の方がゲストとして登場します。詳細は下記ホームページをご確認ください。
また、SOCIAL GREEN TALKは、SOCIAL GREEN DESIGNのオープニングイベントの1つです。SOCIAL GREEN DESIGNという取り組みが生まれた背景について知りたい方は、1本目のnoteの記事もご覧ください。
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ゲスト ジョン・ムーアさんのトーク
ジョンさんはトークを始めるにあたり、「次の在来種はどう育むか?ここから議論を始めなくてはいけません。」と語りかけました。急激な気候変動と二酸化炭素の増加により植物中の糖分(炭水化物)が増加したそうです。また、環境汚染が進むなか、土壌微生物や植物の多様性も失われ、食物の栄養価も低下してきているのだとか。
ーーF1種が増えて、野菜の栄養価は大きく低下
ジョンさん:ここ60年で野菜の栄養価は大きく低下しました(※)。現在生産される野菜のほとんどが、F1種に切り替わりました。F1種は(次の世代が一定の形質を持つように品種改良されているため)種の多様性を育むことができません。そして、種は採取するものから、買うものに変わりました。あるリサーチでは、野生のタンポポの方が購入するキャベツより約7倍の栄養価が含まれていることもわかっています。(※)日本食品標準成分表の『初訂(1950年)』と『 5訂増補(2010)』を比較して算出するとその差は歴然です。
私たちは種だけでなく、ライフスタイルもF1種のようになりました。F1種のような考え方は、成長せず停滞を意味します。F1種の考え方は、成長しません。なぜなら、同じ考えをリピートするからです。そして、F1種だけの単一的な農業では、周りの微生物や植物の多様性を育むことはできません。多様性のある世界は、次世代を育みます。私たちは繰り返しの世界から、次へと成長するためにも、もう一度多様性を育むことが必要なの大事です。
ーー植物に含まれる過剰な糖分、農薬による病気の可能性
ジョンさん:植物には糖分が含まれています。昔から「りんごを食べると医者いらず」と言われています。現在は品種改良が進み、甘みが強いリンゴが作られています。しかし、甘いりんごほど、糖分が入っているのです。そのため、オーストラリアの動物園では、動物たちの糖分による疾患が増えたため、果物を与えることをやめたケースもあります。また、除草剤などの農薬の使用量は年々増えています。除草剤グリホサートが、自閉症や心臓病、セリアック病、老年性認知症など様々な疾患の増加と相関していると言われています。
ーー健康な土作りの重要性
ジョンさん:そして、種だけでなく土も大事です。種子と土はセットで考えねばなりません。今、土壌のミネラルや微生物の多様性は低下しています。まずは、侵食された土壌を、微生物が豊かにいる土壌に復元しなくてはいけません。豊かな土壌は根っこが育みます。根っこには、見えない微生物たちが共生しているのです。
ーー農業と多様性
ジョンさん:農業は多様性を壊す側面もあります。現在行われている農業のほとんどが1つの品種だけを栽培しています。でも、昔の里山の様に、森の中で様々な野菜を作る方が多様性は育まれるでしょう。森が元気になれば、川も海も町も元気になります。
ーー環境破壊と開発
ジョンさん:今までは、自然環境を破壊して、そこに建物を建ててきました。でも自然を減らしてしまうことは、結果的に赤字です。新たに建物を作るときは、自然があるところではなく、既に開発された所に建てるのが良いと思います。自然と経済を両面から考えねばなりません。
活動の紹介
ジョンさんは、次世代へ種をつなぐべく、「Local Seed Library」という地域で地域の種を育む仕組みを作っています。地域の人々にとって、健康的な生活を送り、地域経済の循環を作ることにも繋がるそうです。
ジョンさん:種から未来を創りましょう。地元の種の交換会はとても楽しいです。種だけじゃなくて、情報も交換します。例えば、「この村だけの大豆」というのが商品になります。植物の多様性は増えて、栄養もたっぷりです。笑う顔も増えます。
福島県いわき市では、伝統野菜を守るプロジェクトを3年に渡り支援。シェフと農家の交流イベントを行い、地元の種から新商品の開発を行なったそうです。
また、SOCIAL GREEN DESIGNの仕掛け人の一人であるプロデューサーの神木直哉さんは、ジョンさんと一緒に九州で「サスティナブルクリスマスツリー」を作ったそうです。
©︎John Moore
神木さん:2020年7月に九州で豪雨災害があり、皆の心が繋がり笑顔になれるきっかけづくりができないかということで製作したのが「サスティナブルクリスマスツリー」です。オーナメントの素材はアップサイクルできる天然素材で、今まで廃棄処分されていた材料などを使いました。イベント後も構造体につかった電線ドラムはリユースしています。みんなで学び、後世に伝えること。これがSOCIAL GREEN DESIGNで大事なことです。
ジョンさん:全部地元九州で完結していて、とっても良い話ですよね。林業をやっているチームとのトークショーも行いました。今までの林業だと、多様性を壊します。だから、新しいアクションをしましょうということになりました。ツリーは街の中の森でもありました。この森から自然とのつながりを意識する良い機会になりました。スケールの大きさは関係ありません。小さくても意識が変わるのがSOCIAL GREEN DESIGNなのです。
ーー最後に、ジョンさんにメーセージを頂きました。
ジョンさん:大自然はこの地球という惑星のために毎日頑張っていますよ。お金も休みも誰の手伝いもない。毎日頑張っています。できれば、SOCIAL GREEN DESIGNを一緒にやりましょう。色々なレベルで、色々な人が参加できます。(力を合わせて)頑張りましょう!
▼ジョンさんの立ち上げた一般社団法人SEEDS OF LIFEの最新情報はこちらのfecebookページからご覧いただけます。日本全国で、様々なプロジェクトを展開されているようです。
▼一般社団法人SEEDS OF LIFEのHPはこちら。
コーディネーター・聞き手の3人(小松さん・三島さん・神木さん)と合わせたトークセッション
小松さん:まずはジョンさん、お話ありがとうございました。SOCIAL GREEN DESIGN立ち上げメンバーとして、いつもお世話になっています。食べているものが健康的でなくなって、環境そのものが失われている現状を変えたいというメッセージが伝わってきました。
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三島さん:ジョンさんの活動は、人類にとって大事なトピックで、そのど真ん中の種子という部分にアプローチされています。キャリアの中で、いつ頃これをやろうと思ったのか、きっかけを教えてください。
ジョンさん:4歳の時におばあちゃんの家に引っ越しました。おばあちゃんは優しい人でしたが、食べ物を自分で作らないと、食べさせてもらえませんでした。だから私は庭に入るようになったのです。その時から、種から食べ物を育てるようになりました。そして、自然と対話をすることを、おばあちゃんから学びました。
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小松さん:健康的な食生活のためには、農家が変われば良いのでしょうか?どこにいけば良い種が手に入るのでしょうか?
ジョンさん:JAとそこに出荷する農家の多くは方向性を変えるための選択肢を持っておらず、何でも自由にできる訳ではありません。それならばお母さんと子供、家庭から変わることもできると思います。お母さんは健康についてよく考えますし、自分の子供に良い食事を出したいはずです。だから家庭菜園を始めるのも良いと思いますよ。最初は種や土から意識を変えるのが良いでしょう。SEED EXCHANGE、種の交換会に来れば、良い種も手に入ります。コミュニティーガーデンも良いかもしれません。近隣の人とみんなで一緒にやるのです。
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神木さん:私はモノを生み出す時に、いつも逆算で考えます。ジョンと出会って、その考え方に確信が持てました。ぜひ皆さんにも、新しいモノを生み出す考え方をジョンからお伝えしてください。
ジョンさん:今あるものではなく、新しいものを生み出すには、意識を作り直すのが大事なことです。今回ツリーでご一緒した九州の林業の人も、意識が変わり始めました。私は「林業」という言葉ではない新しい言葉を見つけてくださいと提案したのです。マインドよりもイマジネーションが大事。マインドだけでは繰り返しチェックすることになります。イマジネーションを使えば、先を見ることができるのです。
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ジョンさん:私の夢はクレジットカードや現金を使わない、種がお金のような価値になる世界を作ることです。これが実現すれば、地域の経済が動きます。例えば、日本人は昔、コメを交換していました。銀行ではなく、昔の神社がそうだったように、地域の種を交換する場所を作りましょう。その種をベースに種(価値)を育て、増やし、さらに地域同士がネットワークでつながれば、対価を交換し合うことができます。
三島さん:すごく良い話ですね。今地域通貨がアプリ化されてますが、タネは実体のあるもので、伝承していけるもの。そして、価値が下がらないもの。だから、通貨との相性が良いと思います。
参加者からの質問タイム
ーーどうやったら良い土が手に入るのでしょうか?
ジョンさん:現在、サスティナブルで環境にも配慮した、安心安全な土を、一般社団法人SEEDS OF LIFEで開発中ですよ。近々に発売する予定です。
ーー具体的なパラダイムシフトのためのアドバイスはありますか?
ジョンさん:これは大事な質問ですね。自分の心や人生、家族の中で、少しずつステップアップしていかねばなりません。例えば、食を見直すために、毎日弁当を買っていたコンビニを、6ヶ月間使わないとします。それを、明日から急に続けるのはとても難しいです。でも毎日だったのを週3回に減らして、別の場所から食べ物を買うことはできるでしょう。そういった小さな取り組みも、東京で100万人がやったら、すごいインパクトですよ?自然と近くなりたいなら、住まいに緑を取り入れるとか、意識を少しずつ変えるのです。小さなことから始めてみて、毎日、物事をもっと深く見る練習が必要です。
ーー地域の種子を一般社団法人SEEDS OF LIFEに預けたいのですができますか?
ジョンさん:こういう話はお手伝いしたいです。ネットワークが大事です。情報が交換できますし、勉強ができます。ホームページからメールを送ってください。
ーー学生にできる取り組みはありますか?
ジョンさん:まずは何でもいいので、自分で種から植物を育ててください。種、土、水、遊んでください。植物は賢い。だから、植物に聞いてください。道に生えているタンポポの種を植えるとか、そういうことから始めれば良いでしょう。自然ともっと、遊んで、遊んで。
本日のまとめ
参加者の質問タイムののち、今回のトークイベントは21:00で終了。中身の詰まったとても濃いディスカッションが行われました。
小松さん:種や土、根っこなどが次の世界を作っていると再確認できました。ジョンさんや参加者の皆さん、本日は長時間に渡り、ご参加いただきありがとうございました。
ーー今後の予定としては、1月13日(水)にトークが開催されます。詳細は以下をご確認ください。
\SOCIAL GREEN TALK、申し込み受付中!(無料)/
1月13日(水)のゲストは園藝探偵の松山誠さんにお越しいただき、「花壇の事件簿~人は「花どろぼう」を許せるか」というテーマで議論を行います。
▼お申し込みはこちら
▼SOCIAL GREEN TALKのスケジュール
SOCIAL GREEN TALK2 ゲストのプロフィール
ゲスト
ジョン・ムーア
社会起業家。ソーシャルビジネスアドバイザー。アイルランド生まれ。英国シェフィールド大学卒。教師を経て、広告代理店に勤務。その後、電通に入社し日本へ移住。コピーライターとして活躍後、パタゴニア日本支社⻑などを歴任。現在は一般社団法人シーズオブライフを設立し、種子の保護・育成活動に従事。オーガニック教育プログラムやオーガニックガーデンの推進をベースに、地域で持続可能な経済とフードシステムへの改革を進めている。
コーディネーター・聞き手
小松正幸(こまつ まさゆき)
株式会社ユニマットリック 代表取締役社長 / (一社)犬と住まいる協会理事長 / NPO法人ガーデンを考える会理事 / NPO法人 渋谷・青山景観整備機構理事 / (公社)日本エクステリア建設業協会顧問 / 1級造園施工管理技士
E&Gアカデミー(エクステリアデザイナー育成の専門校)代表。RIKミッション『人にみどりを、まちに彩を』の実現と「豊かな生活空間の創出」のために、エクステリア・ガーデン業界における課題解決を目指している。
三島由樹(みしま よしき)
株式会社フォルク 代表取締役 / ランドスケープ・デザイナー
1979年 東京生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。ハーバード大学大学院デザインスクール・ランドスケープアーキテクチャー学科修了(MLA)。マイケル・ヴァン・ヴァルケンバーグ・アソシエーツ(MVVA)ニューヨークオフィス、東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻助教の職を経て、2015年 株式会社フォルクを設立。 芝浦工業大学、千葉大学、東京大学、日本女子大学、早稲田大学非常勤講師。Tokyo Street Garden 共同代表。八王子市まちづくりアドバイザー。加賀市緑の基本計画策定委員。白山市SDGs未来都市推進アドバイザー。IFLA Japan委員メンバー。登録ランドスケープアーキテクト(RLA)
神木直哉(かみき なおや)
KAMIKIKAKU代表
目的:人と人を繋げて新しい価値ある空間と時間の『間』を提供するユニットです。
強み:30社以上に及ぶネットワークと実現を可能にするディレクションチームをプロデュースします。
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