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映画『抵抗 (レジスタンス) - 死刑囚の手記より』/これは映画ではなく、ある種、傍観である。

 『抵抗 (レジスタンス) - 死刑囚の手記より』(1956)は、フランスの映画監督であるロベール・ブレッソン監督の作品である。

 以下、あらすじです。MOVIE WALKER PRESSより引用。

フランスのアンリ・ドヴィニ大佐の手記に基き、我が国初登場のロベール・ブレッソンが脚本を書き、自ら監督した異常な物語。ドイツのゲシュタポに捕えられ、死刑の宣告を受けたフランス軍人がモントリュック監獄から脱獄する経過を、記録映画的にレジスタンス精神をこめて描き出す。

https://moviewalker.jp/mv12659/

 そう、こちらの作品、実話なのである。

 第二次世界大戦時のドイツに占領されていたフランスのリヨンで、ある一人の男が監獄に捉えられていた。彼はフランスの諜報員で、橋を爆破した罪に問われていた。それがドイツ側からも認められてしまい、彼は死刑判決を下される。その執行前になんとか逃げようと画策するが…?というのが、より詳しいあらすじといった感じ。

 この映画、やはり66年前の映画ということもあり、フォロワーが多い。Wiki情報で恐縮であるが、あのクリストファー・ノーラン監督も、『ダンケルク』(2017)を制作する際に参考にしたらしい。そのほかにも多くの監督がフェイバリットに挙げる名作である。


 そもそもこの映画、言ってしまえば脱獄劇であり、それに尽きるのだが、脱獄劇あるあると言ってもいいものが、意外と見当たらないのが斬新なのだ。僕の中で、過酷な牢獄から脱獄する映画といえば、『パピヨン』(1973)がパッと浮かぶ。スティーブン・マックイーン主演の犯罪映画で、彼の場合はギアナの離島で牢獄に入れられ、そこで不当な扱いを受けるが、それに屈することなく抵抗し、最後には仲間の力を借りて脱獄する。

 僕の場合、『パピヨン』を先に観ているからか(というかほとんどの人がそうだと思うんだけど)、『抵抗~』の主人公のフォンテーヌに強い違和感を覚えたのだ。彼は劇中で一度しかボコボコにされないし、髪はキレイに整えられているし、疲れているように見えないし、目は殺気立っていないし、何よりあまりに落ち着きすぎている。

 僕の中で「脱獄」といえば、汗水を垂らし、看守に迫害を受けつつ、そして見つかりそうになりながらも脱獄の準備を着実に重ね、本番には大ピンチになりつつも、九死に一生を得てなんとかそれに成功する、というのがやはり「脱獄」なのだ。


 ここまで静かながらも、観客の目を奪う緊張感に包まれた映画を観たのはこれがはじめてだ。そして僕は思った、これはある種、「映画」ではなく、「傍観」なのではないか、と。

 この映画には、「映画的表現」があまりになさすぎる。ご都合的な展開をなければ、無理のある描写もない。「当時のドイツ軍はこんなことしてない!」みたいなことは僕の知識量では判断できないが、少なくとも、映画的な表現は、あまりに少なかった。それが一番の印象だ。

 もちろん先ほどから言っているように、衣服の劣化がないだとか、囚人全員の風貌が変わらないとか、そういう指摘もできる。しかし、この映画の監督であるロベール・ブレッソンの手法に注目すると、これに対して満足できる回答を得ることができる。


 これまたWiki情報で恐縮だが、彼は「芝居がかった演技を嫌い、初期の作品を除き出演者にはプロの俳優の人工的な演技行為の意味や感情をあらわすことをひどく嫌ったため、その作品限りの素人ばかりを採用し、出演者を「モデル」と呼んだ。音楽はほとんど使用せず、感情表現をも抑えた作風を貫くなど、独自の戒律に基づいた厳しい作風が特徴」だったという。

 これを読んですべてが府に落ちた。華美な装飾を排除した彼の映画作りは、映画そのものの価値を、僕に疑問視させる。なぜならこの『抵抗~』は舞台でだって上演できるような題材だ。

 しかし、この作品は映画である必要がある。看守が近づいてくる様子を、足音だけで表現することで、我々観客は異常なほどの恐怖感を覚える。それが自分自身を殺しに来る人間かと錯覚するかのように。舞台などではこれが表現できるだろうか?BGMはいらない。生々しい質感の音が、その場で聞こえるべき音が、ただ聞こえれば十分なのだ

 それにWikiにも載っているように、誇大演技もこの映画においては不要なのだろう。囚人たちは声を荒げることもなければ、派手なことをすることもほとんどない。彼らは淡々と自分たちの毎日をこなすだけだ。「映画的表現」を用いれば、スティーブン・マックイーンのように、足掻き、狂っていくことだってできた。しかし、それは映画だという前提で我々は感激しているのかもしれない。徹底的なリアリズムに基づくと、脱獄囚はただただ淡々と「その日」を待っているだけなのかもしれない。


 僕はこの作品を通してはじめて、ロベール・ブレッソンの作品に触れたが、彼の作風には強い衝撃を受けた。「映画ってこうでもいいんだ…!」というようなもの。ただただ圧倒された。

 静かながらも、緊迫感のある演出。音楽や派手な演技に頼ることなくそれを演出する様は見事であった。ぜひ体感してほしい映画です。また明日!

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