【雄手舟瑞物語#9-インド編】旅行2日目、ジャイプルに着く。マハラジャも知らない僕(1999/7/28④)

ニューデリーから4時間くらい走っただろうか。その間、バンの中は僕と運転手のラジャの二人だけ。内容は全然覚えていないが、「結構英会話行けるじゃないか」と思ったのは覚えている。適当な会話をしながら目に入ってくる景色は全て刺激的である。海外どころか国内でも出身地の東京をほとんど出なことがない僕には全てが真新しい。途中、ラジャがいきなり「ブレーキがおかしい」と言って車を停める。ラジャは車から降りたり、戻ってきたり、何やらガンガンやっている。しばらくすると「直った」と言って、車を走らせる。

さっきから何度も車同士で接触しているし、ー特に町中で一旦停まった車やバイクが一斉に走り出す時はF1のスタートのように我先にと車をぶつけながら進んでいく。ー道沿いではラジャと同じく車を停めて、直しているインド人を何人も見かける。ここでは車は精密機械というよりも道具感が強い。全くそれまで車や鉄道といったメカメカしいものに興味がなかった僕だったが、この道具感に、何かカッコよさを感じた。

「ここが宝石の町、ジャイプルだ。」

車で街中に入っていく。赤い石でできた壁のような建物が見えてきた。「ここには昔マハラジャが住んでいたんだ。」僕は「マハラジャ?」と聞くと、王様のことだと教えてくれた。「着いたぞ。」ラジャは車を停め、僕たちはホテルに入った。ラジャがフロントに声を掛けると、ボーイは僕たちを部屋に案内した。

「ツイン!?」

事態が飲み込めなかった僕は「ツインなの?」と聞いた。ラジャは「一部屋しか空いてなんだ。明日は二部屋取るから。」と当たり前感を全面にして答える。空いてないならどうしようもない。僕はバスツアーの運転手と相部屋になることを了承した。納得は行かないが仕方がない。

「宝石店を見せてやるから外に行くぞ。」僕たちは荷物を置いた。荷物といっても僕は小さなバックパックのみ。ラジャはスーツケース。どっちが主人なのか分からない。二人はホテルを出てすぐ牛車を拾い、乗り込む。全く興味のない宝石店に連れて行かれる。ラジャは言う。「アイツらから買う必要はないからな。」僕は思う。「じゃあ、なぜ連れてきた?」

一軒どころか三軒も連れ回された。ただ、ラジャのおかげで押し売りにあうこともなく、無事宝石を買わずに乗り切れた。グルではなかったということだ。「じゃあ、なぜ連れてきた?」だ。ラジャいわく「ジャイプルに来たら宝石屋を巡るのが定番ルート」だからだそうだ。道の途中、「おい、お前カメラ持ってるか?写真撮ってやるから御者の席に座ってみろ。」とラジャが言い出した。日本から持ってきた使い捨てカメラを渡し、言われるがままに僕は御者の席に座って、写真をパチリ。

「一体、僕は何をしているんだ?」と一瞬頭をよぎった。しかし次の瞬間、かすかに日本語の声が聞こえた。既に懐かしい響き。牛車に乗った日本人二人組とすれ違った。彼らは明らかに不審そうな感じで僕を見た。僕の血が騒ぎ出す。「日本人でつるみやがって。」この邂逅のおかげで僕は僕を取り戻した。「This is India.」

ラジャは淡々と仕事をこなす感じで宝石店ツアーを終わらせ、他にはどこにも寄ってくれず、まっすぐホテルに戻った。僕たちは、少しだけ高級感のあるホテルの食堂で夕食をとり、ビールを一杯だけ飲んだ。ラジャが支払いを済ませる。僕たちは車の中で十分話したし、ハーモニカもなければ、他にも特にやることがなかったので、その日はシャワーを浴びてすぐに寝てしまった。

翌朝、起きると久しぶりにゆっくり寝れたという感じがした。実際、久しぶりだった。僕たちは食堂で朝食を済ませ、ラジャが支払いをする。僕たちは一旦、部屋に荷物を取りに戻り、ラジャがホテル代をフロントで支払う。チェックアウト。再び車に乗り込む。

「さあ、アーグラに向かうぞ」

淡々とラジャは仕事をこなしていく。そう、ジャイプル観光は本当にこれだけ。そして、僕のインド旅行は3日目に突入していった。


(前後のエピソードと第一話)

※この物語は僕の過去の記憶に基づくものの、都市伝説的な話を織り交ぜたフィクションです。

合わせて、僕のいまを綴る「偶然日記」もよかったら。「雄手舟瑞物語」と交互に掲載しています。


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