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また新たな素材に向き合う、かもしれない。

鉄、石材、木材と、これまでに多くの「素材」とサーカスを掛け合わせてきた「マチエール(素材)」と名づけたプロジェクトですが、

今日、またこれまでと違うMatièreマチエールを手にしてしまいました。


透明な、さまざまな映り込みをする。

以前より知っている素材ではありましたが、世界でもトップを誇る技術・クオリティに、今日初めて触れる機会を得ました。
工場の中で、特異な技術の一端を見て、あらためて「ものづくり」の奥深さと、同時に、初代が本当に小さな一歩から始めたストーリーは、どんなものづくり企業でも、熱く胸を打ちます。


なぜ、舞台芸術と直接かかわりのない業種との”掛け合い”が重要なのか。


これまでに、瀬戸内、香川で関わってきた主な業種は「鉄道」「建設」「鉄工業」「石材業」「木工業」などです。

こうした業種と行動をともにしようとしたきっかけは、地方ゆえ、舞台芸術専門の会社もなく、大道具をつくるにも、技術者を頼むにも、人材も材料も、いわゆる舞台業界に頼ることができなかったからです。
「その代わりになる、近隣業種はないか?」と、血眼で探した最初が、建設業の鳶職でした。

サーカス器具設置の専門スタッフ、つまり、高所でサーカス器具を確実に設置できる技術者が、(瀬戸内はおろか、日本にもですが)見つからなかったので、建設足場を扱う会社の鳶さんたちに話をもちかけました。

結果は、サーカス専門で働いてもらうには仕事量が不十分なので、このプロジェクトは3年ほどで一度休止してしまいましたが、その間に、普通は入れない、鳶の仕事現場に立ち会うことができました。
いわゆる、建設現場のシートの中で、彼らがどのように働いているか?
それはそれは、格好良かったのです。釘付けになるくらい。
鳶さんからいろんな話も聴き、ドラマが生まれました。そこから創作した現代サーカス作品が「OLA!」でした。


本物の?!鳶さんたちに組んでもらった美術。サーカスアーティストが鳶さんを演じる。

次には、鉄工所にお世話になりました。
日本製で、きちんと強度が数値で表せる安全な器具を!と願い、工業用巨大クレーンのトラス部分や基部をつくる会社と連携ができたのです。
私たちの空中芸用躯体が小さなおもちゃに見えるほど、大きな工場で、何人ものエンジニアの方々が知恵を絞って、ともに製作してくれた、私たちの活動の土台になるような素晴らしい構造体が完成しました。

次に石屋さん。
Nouveau Cirque JaponーXIO

空中に浮く、空中芸用の庵治石。この美術の製作には、なんと庵治の3つの会社が関わって実現しました。

そして最も最近が木材会社です。
「Workersワーカーズ!」

山一木材の工場敷地内に新築された、現代サーカスのための練習場!


1つの「業(なりわい)」に、歴史と技が積みあがる。


クレーンの会社と協働したときにまず感じたのは、圧倒的な規模と、多様で大規模な設備、そこで働く人々の専門知識と経験です。

石材も、木材もそう。
細部にまでこだわり、隙のない成果物が提案されます。
その製品を1cmの近距離で日常的に見て、触って、生活する、あるいは仕事する器具をつくるのだから、とことん追求した性能と美は限りなくイコールに近づいていきます。

「舞台でしょう?そんなに細部まで見えないのに、そこまで完璧につくり込むのは無駄では?」

と、以前は私も思っていました。

それが、違うんです。

それは、実際に、それらを使うサーカスアーティストたちと、製品の創造から取り組んだ経験から見えてきました。
プランニング、ゼロから参加する。
一般企業の職人の、エンジニアの話を聴く。
何十年、時には何百年と続けてきた伝承の技術やこだわり、新規性、革新性、それは、一般社会の市場で認められ、勝ち抜く必要があったものです。
見えないから良い、なんてありえない。

だから、私たちの舞台道具をつくる際にも、ひとつも手抜きをしないのです。

その「モノ」たちに触れたサーカスアーティストは、それはそれは貴重なものを有難く扱う、そこから学ぼうとする、何かを発見しようとする、
職人さん、エンジニアの仕事と同じだけの真摯さを持たざるを得ないのです。

「アート」という小さなコミュニティから飛び出そう!

これも、この数年来、たびたび呼びかけていることです。
残念ながら、日本ではアートのコミュニティは極めて小さい。
その中でぐるぐる回っていると、その円はどんどん小さくなっていきます。

そのサークルから飛び出し、一般社会の、あらゆる業種に飛びこむのです。

全く容易ではない道のりです。
私個人も、もう14年間、プライベートそっちのけでのめり込んで、ようやくこの数年で、そうした「他業種」に認めてもらえるようになってきました。

そうした一般企業ときちんと話をするためには、言うなれば、瀬戸内サーカスファクトリー自体が「信頼される企業」と見なされる必要がある、というのも同時にわかりました。
文化団体が自立し、他の業種と対等に話し合える、
…それは長い、長い道のりです。
ですが、達成したときには、見たことのない創造的な世界が待っていたのです。

「企業と話し合える関係に」なれたら、9割達成したようなもの。

なので、個人的な経験値ですが、社会で信頼されて、企業と対等な関係で、話合いに入るところまでが、プロジェクトの9割と言ってよい、と思います。
その後のクリエーションは、水を得た魚のように進むことが多いです。なぜなら、相手は高度な専門性をもったプロなのですから、驚くような、かつ信頼のおける提案を次々にしてくれます。

でも間違ってはいけないのは、そういうコラボレーションが容易いと勘違いすること。
あくまで、信頼関係に基づいているし、企業は基本的に会社としての何らかの利益を考えます。当然のことです。
だから、相手にも同じだけか、それ以上に良いことがもたらされるよう、こちらも必死で考えて、誠心誠意、提案して実行するのです。

冒険譚=オデッセイとしての、瀬戸内サーカスファクトリーの活動


新しい素材との出逢い

いつもいつも、挑戦だし、肝が冷えるし、不安になることも多々あります。

誠心誠意って、身を守るための最善の防御法でもある。

それは、たった一人で瀬戸内に移住して、存在しなかった芸術分野を立ち上げる、クレイジーな挑戦にまつわる、経験値でもある…。

独りでは超えられないから。


企業や、移住してきてくれたアーティストたちと、あるいは、近くに住んでいなくても「同志」と思えるひとたちと。
境目をつくらない。
なかったものを怖がらない。

伝わったか、わからないけど、大事なこと。
Push the boundaries.


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