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C7が世界を救うかも

わたしの高校の軽音学部の部室は夏は暑くて冬は寒い。

今に始まったことじゃないけれど、校舎の奥の奥においやられたその場所の温度は異常だ。
部員が口々に言う。

夏ならば。
サハラ砂漠よりサハラ。
マヂで盆地なんだけど…。 
これを乗り越えたらフジロックも余裕。

冬ならば。
手、凍るぞ。
白い息で前、見えない。
弦イテェ。

ブーブー言いながら、みんな、なんだかんだでここに集まる。わたしもその一人だ。

でも今は違う。
ここに集まってコソコソし合うにはワケがある。

街中がゾンビに支配されて、日本中を困らせていた。生き残ったのがわたしたち軽音部の7人だけになったのだ……。
ゾンビは暴力性を増し続ける。

7月末。
本当ならば夏休み真っ只中の今日。
炎天下のアスファルトを這いつくばるゾンビが窓から見える。うめき声が聞こえる。

そのおぞましい光景が近づくたびに、わたしたちは生命の危機が迫ってきていることを肌で感じる。

「早く! アンタのギターで、C7かき鳴らしてよ」

ゾンビを倒す方法が唯一あった。
わたしがギターでC7のコードをジャラジャラ弾くと、ゾンビは緑の血を吐いて倒れていったのだ。

しかしながら、わたしはギター初心者。
演奏は上手くない。
ちゃんとリズムを奏でないとゾンビに効果はない。

「.…わかった。やってみるよ」

わたしはバンドを組みたいだけだった。この部室でたむろしたいだけだった。
でも、今は人類を救うミュージシャンだ。

「行くぞぉぉぉ」
飛び上がる部員たち。

ジャーーァァァン♪
わたしは、頭を下げてギターを思い切りかき鳴らした。




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