見出し画像

今日からSuicaの季節

もうすぐ夏が来る。暑い以外とりえのないアレだ。

ところで、ウチね、思うの。変な人が多い町ってなぜかところどころにあるなぁって。
ウチの親友、まぁ男なんだけどコイツがホント変わっている。
「ちょっと待って、切符買う」
と待たされる。
この世で、もとい東京で、いまだに交通ICカードを持っていないヤツがいるとは……。意味もなく女性を待たせてヘラヘラしている男がいるとは……。
んで結局、その切符を無くして駅員に無駄な時間を使わせる愚か者がいるとは……。
でも、もっと変なのはそんな人間と付き合っているウチだろう。
付き合っているといっても、親友としてつるんでいるという意味だ。ま、セックスはしたことあるけど。

彼はセミパチプロ。ウチはフリーの舞台照明。はぐれ者で金のないモノ同士、気が合うし、行く場所も一緒なのだ。
「白髪増えてない? 抜いてくれない?」
「悩みなさそうなのに! ……てゆーか抜かない方がいいよ、はげるし」「はげていい。今、みっともないのがイヤなの」
「いや、今みっともないよ、あんた」

安い居酒屋を2軒はしごし、久々にウチらは結ばれた。
「クーラー寒い」と言って、彼はクーラーを切った。
この関係は切っても切れないのに――。

あと1週間後に、大きな舞台がある。下北沢の中間ぐらいのランクの劇場で初めて照明をできることになった。3年かかった。でも、早いのか遅いのか、分からない。だって大体みんなすぐに辞めちゃうか、めっちゃベテランか、だから。

小田急線の切符を改札に入れた後、京王線の切符を買っている彼。
今更だけど、真田宏之助という。侍みたいな名前だ。
「なぁ、舞台行っていい?」
「え?」
初めて真田が舞台を見に行きたいと言った。
「もう関係者席とかないけど」
「まぁ、稼ぐ。明日のスロットで」

がんばろう、って素直に思えた。そんな気持ちはじめてだった。


この記事が参加している募集

#仕事について話そう

109,902件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?