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ここは働く人や来る人々にとっては眩しすぎる気がする。
西新宿から徒歩5分。ビル風にただただ流されていくと、私が勤めるビルにたどり着くようになっている。

階段を上って2階に上がると
ようこそ、ここがハローワーク。意外と広いんですよ。

ハローワークで働き始めてから4年。ちょうど前の彼氏と別れた次の日に内定が決まった。名の知れた商社勤務だったけれど、だらしない性格と浮気性が問題だった。

「ハローワーク? マジで言ってんの……?」
「いつかお世話になるかもよ」
「なわけ」
そんな会話をした翌日、ゴリゴリの3股浮気をしていたことを知って、スマホを洗面台に流して、部屋を去った。
今頃あいつは何をしているだろう。あの巨乳女と続いている? あのラウンドガールと結婚? まさか。どうせまだぐだらない遊びに興じているんだろう。先輩の真似をして生きるだけのしょうもない人生。

「事務系の仕事で定時終わり……まぁあるはありますよ」
「ホントですか? やった、ハロワ穴場って聞いたの嘘じゃなかったんだ」
「いくつか求人あるんで、とりあえず見られますか?」
「選べるの? ぜひ!」

ハローワークに来る人は悲哀を帯びた人ばかりだと思っていたけれど、意外と楽観的な人が多いのに驚いた。もちろん、そうじゃない人も多いけど。
あと、若い人も多い。シュッとした男性もいる。

一つだけ。就職が決まっても感謝の言葉を言う人は少ない。まぁ感謝されるためにやっているわけじゃないし、ノルマも必要ないからどうでもいいけど。

ある日、髪の長い若い女性がやってきた。といっても30歳すぎ?

美和子だ。
高校時代に吹奏楽部でフルート担当だった後輩だ。確か、国立の教育学部に入って、音楽を続けている。までは聞いていた。

瞼の下の半分を覆うクマとハリのない毛先に目が行く。
美和子は私に気づかない。

「あの……」
「あ、番号札――」
「!」
美和子はじっとじっと私を見て、ゆっくり笑った。
「先輩、だ」

その晩、私は美和子と飲みに行った。
いろいろ聞きたかったけど、何も聞いちゃいけない気もして、あてもなく時間が過ぎた。
美和子はねずみ講に騙されて塾講師を辞めて、借金を背負って今に至るらしい。
「先輩。逃げたい」
「どこへ」
聞くもなく私たちは店を飛び出していた――。



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