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嗚呼、魚心あれば恋心

水族館デートの後に、鮨屋に連れていかれて萎えた。

「こうやってさ、カウンターで出てくる鮨は違うでしょ」
とおじさんは自慢げに言うが、いわしの大群ショーを見た後に食べる青物はなかなかしんどい。
「いくらでもウニでも、なんでも食べていいからね」
とおじさんは通風を促すが、魚卵は好みではない。
パパ活女子がみな、魚卵LOVEと思われるのはなかなかしんどい。
でも、今日はいい日だった。

私は運命の出会いを果たした。

水族館の飼育員・丸田君だ。高校の同級生でその後消息不明だった丸田君がアシカちゃんに餌をやっていたのだ。

こちらをちらりと見た気はしたが、クラスで目立つ存在ではなかったあたしに気が付いたはずがないだろう。
ましてあんなドスケベな服を着て中年男性と歩いているなんて想像もつかないだろう。
丸田君はスポーツ刈りのような髪型でほっぺの赤いあどけなさを残したまま。4年前となんら変わらない。
丸田君って魚とか好きだったんだ。いや、好きだからその仕事しているとは限らない。あたしだってそうだ。

2週間後。派遣切りにあったあたしはもう一度、水族館に行ってみることにした。
その日、丸田君はいなかった。

――と思ったら、水槽を優雅に泳いでいた。
こちらに向かって手を振っている。
当然、あたしがあたしだと気づかずにやっているのだろうが、うれしかったし、ドキドキした。

22歳にして、これがあたしにとって初めての恋だった。

だからこそ余計にショックだった。
同級生で数少ない友人のまどかに、丸田君がお年寄りを騙す詐欺に加担していたことを知ったときは…………。

もちろん今は反省してまっとうに飼育員として生きているのは知っているけれど、どうしてそんなことをしているのか聞きたくなった。
と同時に、あたしも似たようなことをしているなとも思った。

だから水族館の最寄り駅で、偶然を装って会うことにした。
丸田君は同僚のかわいらしい女の子と歩いてきた。

まさかこの再会が、水族館から逃げ出した魚たちを巻き込んだ、とんでもない騒ぎになるなんて思いもしなかった。

そして丸田君を突き落とすことになるなんて――。


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