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ヒライス ~帰りたい場所にはもう帰らない~ そんな言葉

世の中には、死にゆく言葉があるという。使う機会がないからか、それを使う人々が消えていくからか、理由はあるが、とにもかくにも絶滅していった言葉がある。メッシーとかオバタリアン、ドドスコスコスコとかとはまた違う風情のある”消えゆくことば”だ。
アタシが好きな消えゆくことばがある。『ヒライス』だ。意味は、もう帰れない場所に帰りたいという気持ち。ウェールズ語。イギリスのほう?

アタシ、茅島渚は新潟県は糸魚川という難読すぎる町で生まれた。ちなみに、いといがわって読む。まぁ、忘れてもいいよ。多分耳にする機会ないしね……。
「渚は良いよね、地元があって……」
「……まぁ」
と千葉や埼玉の人に言われるけれど、良いと思ったことがない。
捨てたつもりもないけれど、私にとっての地元は、故郷はもう帰れない場所になってしまったから。帰りたいけど帰れない――。ってやつ?

とまぁここまではよくある上京アラサー娘の与太話を綴ってみたが、アタシは故郷も両親も好きだし、頻繁に帰省する。なんかごめんね。

2月の3連休。アタシは例によって地元・糸魚川にいた。
家族と一緒にファミレスで食べている。
「チーズハンバーグ分けて」
「何よ。端っこのね」

実は、地元には帰ることはへっちゃらだけど、友達はもういない。
5年前までは1人だけ仲良しの子がいたけれど死んでしまった。オーバードーズだったって。
確かにあまり明るい方ではなかったけど、まさかそんなふうになるなんて。
周りのクラスメイトは何があったかも知らなかった。雅子のこと。アタシのことも覚えていないぐらいだったし。
「ヒライス」。アタシは雅子に会いたくてももう会えない。
5年経って、日に日に糸魚川が、雅子が恋しくなった。
でも、東京でやらないといけないことがある。
料理人になることだ。


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