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アイドル飛んだ、屋根まで飛んだ

地下アイドルをクビになった。パパの前科がバレたからだ。
もちろんパパはちゃんと罪を滅ぼしている。
10年前、おんぼろのワンボックスで青信号を通り過ぎようとしたとき、おばあちゃんを轢いてしまったのだ。普通なら過失致死やらなんやらで情状酌量の余地もあったし、むしろアタシからしたら絶対無罪だったけど、そのおばあちゃんが偉い人の奥さんだったらしく、結局豚箱に入れられた。
おばあちゃんは屋根まで飛んだらしい。

そこからアタシは何度も何度も転校をして、そのたびにこの抜群のルックスと大きな胸を目当てにクラスメイトに紅白された。けど、すぐに前科モンの娘だと分かり、アタシはその街を去るしかなかった。
アイドルの曲だけがアタシの青春だった。青春は人それぞれだ。

高校生になって、アイドルグループに受かった。一度も聞いたことのない、地下も地下に潜むグループだったけれど、憧れの存在になれてうれしかったし、なんか安心した。何よりアタシの顔をみんなかわいい、かわいい、えろい、イケそうとか言ってくれるのがうれしかった。
途中、何度かプロデューサーが粗相をおかして変わったけれど、アタシたちは順調に観客動員を増やしていった。何度も何度もファンとヤリまくった。でも、ステージで歌って踊って、アイドルをできれば幸せだった。

毎日がこんなふうに続けばいいのに。アイドル最高。と思っていた矢先、メンマ工場で働くパパの前科がバレた。
パパは吹き飛んでいくおばあちゃんの顔を今でも思い出すらしい。
「笑ってた……」とか言ってた、酔ったとき。

CDが出せるかもしれないちょっと前、アタシはまた、違う場所に引き裂かれた。
おばあちゃんの偉い旦那さんは去年死んだらしい。その息子も偉いんだって。

偉い人がそうしたか分からないけれど、なぜかアタシのでたらめな履歴書が嘘だと分かってしまい、プロデューサーに泣かれた。
一番新しいプロデューサーは、マジメだった。この世界では珍しいぐらい。
だから申し訳ないとほんの少し思った。
「わかりました。辞めます」
一身上の都合でアタシはステージを降りた。

パパはアタシにそっくりの凛々しい顔を歪ませて黙っていた。

人生は、

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