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僕はハリー杉山じゃない。

だからさ、何回も言うけど僕はハリー杉山じゃない。
バナナマン設楽が司会をする朝の番組とか出てなかったし、テレビは昔、西武遊園地でインタビューされたぐらいだし。
そもそも英語も話せないし、ハーフじゃないし、あんな陽気じゃない。
日本生まれ、日本育ち。両親ともに東北人、学生時代は卓球部の補欠だった陰キャなんだよ、僕?
ハリー杉山のわけがない。

23歳だけど彼女もできたことないし。顔の彫が深いだけじゃモテないってこと、これで証明されたでしょ。

女の子の裸だってお金を払わずに見たことないし、会社でも空気みたいな扱いを受けているんだよ。

絶対、ハリー杉山じゃないでしょ。

こないだのプレゼンも顔が引きつって手足が震えてさんざんで、上司にこっぴどく怒られたし、その帰りにココイチでカレー食って悔しさを食欲に変えて発散しただけで終わった。

ハリー杉山は、こんな人生なんかに満足しないよ。ヘローヘローとか言えないよ。カメラで俯いているだけだ。

で、今向こうでハリー杉山が食レポのロケしているんでしょ。
僕はハリー杉山のドッペルゲンガーじゃないから時空は歪まない。

似ているのになんでこうも違うんだろうって劣等感に苛まれるだけだよ。
いや、あの陽気なオーラを浴びたらそんな気すら起きないと思う。

僕は、僕で慎ましく生きていくだけなんだと思う。

「あれ?」
「!」

目の前にいたのはロケ隊を引き連れたハリー杉山本人だった。
スタッフがざわついている。ディレクターらしきおじさんがにやりと「これは面白い」みたいな顔をしている。
ハリーは僕を見つめていた。いつもの陽気な笑顔で――。
あー最悪。なんかロケ中のひとネタに使われる~。
「ヘローヘロー!」


夜のバーは静かだ。
「そんなお前が今ではねぇ」

僕はハリー杉山のそっくりさんとしてデビューし、ものまね番組を一周したのち、この考えすぎキャラがオードリー若林の心を掴み、芸能界に独自の地位を得ることになった。
こないだはエッセイまで出したし、ラジオのパーソナリティをしている。たまに「五時に夢中」にも出る。

僕はレジに向かう。
「大丈夫。今日はおごりで。――君は恩人だから」

僕は、今日もハリー杉山と飲み歩いている。




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