エレベーターガイ

ほぼ毎朝エレベーターで顔を合わせるサラリーマンに本気で恋をした。
ほぼ毎朝会えるのはアタシが時間とタイミングを見計らっているからだ。世の中に偶然とか運命なんてものはそうはない。
こちらが仕掛けないと何もないのだ。
彼は澤村という名前だということが分かった。
一度電話に出たときに名乗っていたのだ。細身でスラスラとした最高級の体からは想像も付かない、野太く、かすれた低い声。子宮に響くその心地よい音を聞くことはまずないが、また聞けるよね? ねぇ。

澤村さんはここに住んでいるわけではない。
不倫相手の家に行き来しているのだ。どうやら関西からひとり単身赴任しているらしい。
知り合い(バーで出会った)の探偵に嫌々ながらも調べてもらった。

なぜ自宅に呼ばないんですか。
と探偵に尋ねてみたが、口を濁された。

そして今日、エレベーターに澤村さんと不倫相手のオンナが乗ってきた。
胸だけやたらとデカくてアピール全開の! 賢さのカケラもない茶髪巻き髪の!

は? ひ? ふ?
こんなの澤村さんの不倫相手にふさわしくない。本気で思ったから、あたしはすぐに行動に移した。

この記事が参加している募集

一度は行きたいあの場所

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?