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平下茂親(SUKIMONO代表取締役社長) - 楽しい「暮らし」の提案が新しい観光を生み出す

editor's note
暮らしに根づいたまちづくりや観光のあり方の模索。解体された家屋の建具や、自然そのままの素材を活かした建築と家具づくりをおこなうSUKIMONO株式会社の平下茂親さん。
さまざまなものづくりの職種を経て、ニューヨークでの家具制作会社に勤め、地元島根に戻ってきて会社を立ち上げた平下さん。素材がそのままで価値であるという彼の言葉は、窯跡を活かしたオフィスひとつを見ても明らかでした。こんなもの見たことないという驚きに対して、そこにあったものを使っただけと平下さんは言うのです。価値を見出せるものは目の前にすでにあるのかもしれません。

そこにあるものをそのまま使う

古民家を改装したHÏSOM(※1)も、窯跡を改装したSUKIMONO(※2)のオフィスも、そこにあるものをそのまま使っただけです。改装に使うのも、もともとそこにあった素材や、解体された家屋から回収してきた建具を使います。建築家としてのエゴはいらないと思っていますし、建築それ自体には興味がないんです。素材はもともと自然にあるものじゃないですか。製品加工されればされるほど、どんどん自然っぽくなくなります。行き過ぎると素材感もなくなってしまいます。ただあるものをそのまま活かして機能を入れるだけで、情緒も生まれて、暮らしは変わっていきます。
一緒に仕事をする人にも何も要望しません。相手に任せます。話を引き出して壁打ちしながら作っていくと、自分一人だけでは出てこなかったけれど、それを求めていたという潜在的な願望、自分で考えるよりも上のものが相手の中に見えてきます。それを引き出すだけです。要望しないことで、相手は考えるし自分でやろうとし始めます。つくったものに対しても自分のものみたいな感じで思うようになります。

SUKIMONO家具工房

昔の大地主のようなまちづくり

そのままでいいという考えは、地域に対しても同じです。たとえば城下町と宿場町の関係が昔からあります。人が集まって集中しているところと、道すがら立ち寄るところとの関係です。城下町への道中に宿場町に寄るわけですが、そこは宿場なので観光するものはなにもありませんし、観光地になろうとしても仕方がないです。観光名所をつくろうとして頑張って水族館を建ててみたりしても、経営がしんどいだけなんでやめたほうがいいと思うじゃないですか。
中継地点である僕らがつくらないといけないのは、観光名所ではなく、次の日も元気に朝起きてまた出発してもらうための、滞在中のクオリティをむちゃくちゃ上げることです。気軽に地元の料理が食べられるレストランがあったり、一息つける立ち飲み屋があったり、気分を変える床屋があったり、そういう元気になるサービスをぎゅっと凝縮して置いておくことです。目指すのはそういうところだと思います。目的地にならなくていいんです。そもそも目的地なんてないんですから。
昔の大地主のようなまちづくりをしたらいいんです。今の地主は機能していないから、行政が都市計画で開発するしかありません。一人ひとりが個人所有している土地では、エリアの更新もできません。だから一回全部回収してマネジメントすることです。下がりきってる潰れそうなところから土地と建物を所有していく。残った他の施設も頑張り始めるかもしれないし、潰れるかもしれません。潰れたら購入して、エリア内でうまくソフトサービスが更新される仕組みを広げていきます。大地主がそういう役目を果たさないといけないです。

SUKIMONOオフィス

地域における楽しい暮らし方のデザイン

その中であえて観光をデザインするとしたら、地域の人の暮らし方を新しくデザインしたり、来た人にその土地の暮らし方そのものを体験してもらうことでしょうね。たとえば港町なら釣り好きに船を無料で贈与する。そうすると自分だけでは食い切れないぐらい釣ってくるので、結局誰かにあげるんですよね。町に共有の冷蔵庫を置いておけば、釣ったものを保存しておいて、来た人にあげることもできます。
江津駅前の養老乃瀧がいい例です。チェーン店だけど明らかにチェーン店ではないです。店主が毎日船で魚釣りに出ますので、店主がその日の朝に自分で釣ってきた魚で、めちゃくちゃおいしいです。そのへんの鮨屋の刺身よりおいしいです。義務で釣ってるわけではなく、好きで毎日釣りに行っているんです。そこがポイントです。本人がやりたいことをやっているだけ。それを周りから輝かせる。
そのような楽しい暮らし方を生み出していってくれる人を地域に連れてくることも大事ですね。地域における楽しい暮らし方が提案できれば、そこに人が集まって新しい暮らし方に紐づいた観光も生まれると思います。そういう仕組みづくりだと思います。

※1 HÏSOM…2019年夏に島根県大田市温泉津町にある日祖にオープンした一棟貸しの宿。古民家を改装し、ゆっくりと、ひっそりと、こだわりのある暮らしを楽しんでいただくための宿として運営されている。
※2 SUKIMONO…江津市を拠点に、建築、家具、布ものをデザインする会社です。「次代にむけた地方都市の創造を目指し、ライフスタイルの提案と探求を」をコンセプトに、島根県内外の店舗や住宅の設計、改修を手がけている。建築部門の他に、家具部門とファブリック部門もあり、幅広い解釈で次代に継いでいくデザインを日々生み出している。

平下茂親(SUKIMONO株式会社代表取締役社長)
1981年1月7日生まれ、41歳。島根県江津市江津町出身。16歳で高校中退し、溶接工、配管工、ピザ職人、宮大工を経て大阪芸術大学デザイン学科中退、米国NYで家具制作会社勤務後、地元である島根県江津市へ帰郷。2012年に建築デザイン会社を起業、現在17名のものづくり組織へと発展しました。建築、家具、生活雑貨、服飾、染色と、さまざまな「業」を生業にしています。

第四章 ランドスケープ・空間 - 考察
五感を刺激する風景・街並みが維持され、地域と訪問者をつなぐ拠点がある

第四章 ランドスケープ・空間 - インタビュー
地域をみるための “レンズとしての作品”
齋藤精一(パノラマティクス主宰 / MIND TRAIL 奥大和 プロデューサー)

「自然」「空間」「仏法」が調和する美意識の発信・創造の場
藤田隆浩・平井佳亜樹(西芳寺)

景色とともにある文化。景観が地域にもたらすもの
八木毅(SARUYA HOSTEL)

富士吉田が培ってきた織物産業の魅力に光を
勝俣美香(富士吉田市役所)

楽しい「暮らし」の提案が新しい観光を生み出す
平下茂親(SUKIMONO代表取締役社長)

家を舞台にした自分たちの物語、宿泊者と一緒にその物語を楽しんでいく
松場登美(群言堂 / 暮らす宿 他郷阿部家)

“ここにしかない”暮らしを体感する「生活観光」というあり方
松場忠(石見銀山生活観光研究所代表取締役社長)

文化庁ホームページ「文化観光 文化資源の高付加価値化」
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunka_gyosei/bunkakanko/93694501.html

レポート「令和3年度 文化観光高付加価値化リサーチ 文化・観光・まちづくりの関係性について」
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunka_gyosei/bunkakanko/pdf/93705701_01.pdf(PDFへの直通リンク)
これからの文化観光施策が目指す「高付加価値化」のあり方について、大切にしたい5つの視点を導きだしての考察、その視点の元となった37名の方々のインタビューが掲載されたレポートです。

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