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八木毅(SARUYA HOSTEL) - 景色とともにある文化。景観が地域にもたらすもの

editor's note
『FUJI TEXILE WEEK』実行委員長でありゲストハウスSARUYA HOSTEL代表の八木毅さんは、価値が見出されていない風景に改めて光を当てることを試みています。
海外の在住経験者である八木さんが富士吉田市から声をかけられてその風景に惚れこみ、まちの活性化を行う中でみえてきた「まちの宝」。富士山麓である水の町としてのポテンシャルが活かされていなかったり、風景と建物の価値をそのままに活かすことだったり。「まちの宝」がまだまだ眠っているという発見は、まち全体のこれからのありかたを大きく変えていきます。

表紙撮影:上原未嗣

“まだ知られていない” 西裏地区の可能性

8年ぐらい前、富士吉田市役所が地域活性を推し進めていく初期段階で、グラフィックデザイナーという立場で呼ばれて移住しました。富士吉田の中心市街地は、かつて繊維業とともに栄えた巨大な飲食店街に漂う古き良き独特の雰囲気と、その飲食店街の中心を通る道路から見渡せる富士山のランドスケープが特徴的です。ある種の廃墟感とともに雄大な表情を見せる富士山は日本でもここだけにしかないものです。

富士山には多くの観光客が足を運ぶけれど、すぐ近くの西裏地区はまだ知られていない。東京からもすぐなので様々な人が仕事としても関わりやすい。僕はこの地域に可能性を感じました。まずは観光客、そして関係人口と地域との接点を作っていくことが重要だと感じ、30年ぐらい空き家になっていた建物を大家さんに許可をもらってゲストハウスとしてスタートさせたのです。

撮影:上原未嗣

5~6年前から、ボランティアでみんなで町の掃除をしたり、西裏地区の空き店舗を改装して新しいお店を呼んできたりする活動をしました。新世界乾杯通りという一画には、これまでの西裏地区とは少し雰囲気が違う外国人が集うバー、イタリアンレストランなどができていきました。今までそこで飲んでいた地元のおじさんたちに混じり、若い世代や外国の人たちが楽しむ場が増え、徐々に活気づいていきました。

ここで重要だと感じたのは、新しいものを作る際に、その場にある雰囲気を大切にする点です。古い建物を居心地のいい空間に変えていくことは必要ですが、新しい建築の施工や仕上げのようなことをやってしまうと、逆に面白くなくなってしまう。富士吉田以上に古い建築物が日本にはごまんとあるはずですが、リノベーションやインテリアデザインの仕方によって引きつける力が大きく変わってしまうのです。

撮影:上原未嗣

景観の美しさが、住民の地域への意識を変える

フランスのパリとブルゴーニュ地方、ドイツのハンブルクに住んでいたことがあるのですが、どの町も景観への意識がありました。景観がいいことによって住んでいる人たちの気持ちも高まっていく。だから観光客も来る。流れとしては観光客が最後だと思います。住んでいる人が楽しそうで、まちとしての景観がいいから行く、という状況になると思うのです。観光客向けに用意された観光には、人は行かないと思っています。

富士吉田にはいろいろな宝がまだ眠っています。隠れたよいものが残っていて、しっかりと堀り起こされていない状況です。西裏地区も風景としてもっと完成度を高くできます。川がすごく多い町なのに全部暗渠(あんきょ)化されています。水の町として、誰も認知していないのです。だからゴミが捨てられていたりします。余計なものが継ぎ足されて、よいところが見えない状態になっているので、単純に整理整頓や掃除をすることで、元の良さをしっかり見いだしていけるかがやはり非常に重要だと思います。

観光客が、富士吉田から見る富士山、趣ある飲食店街、あるいは水の町としての景観に感動することで、それらを当たり前だと思っていた住民に、景観の価値が伝わっていくと思います。景観の美しさは、住民の地域への意識も変えていくと思います。富士山は水の保有率が日本一なんです。水の町としての誇りを取り戻すことと、景観は密接につながっていくはずです。景観は地域全体のものですし、民間でできることには限界があります。地域内外の民間の力、そして行政が一体となることで、これからの10年で富士吉田は大きく変わっていくと思っています。

八木毅(株式会社DOSO代表取締役)
ディジョン芸術大学院を卒業後帰国、東京でデザインの仕事に従事したのち、2014年から山梨県富士吉田市に移住。地域活性事業を行う富士吉田みんなの貯金箱財団を経て、2015年からSARUYA HOSTEL、SARUYA Artisit Residencyを運営。

第四章 ランドスケープ・空間 - 考察
五感を刺激する風景・街並みが維持され、地域と訪問者をつなぐ拠点がある

第四章 ランドスケープ・空間 - インタビュー
地域をみるための “レンズとしての作品”
齋藤精一(パノラマティクス主宰 / MIND TRAIL 奥大和 プロデューサー)

「自然」「空間」「仏法」が調和する美意識の発信・創造の場
藤田隆浩・平井佳亜樹(西芳寺)

景色とともにある文化。景観が地域にもたらすもの
八木毅(SARUYA HOSTEL)

富士吉田が培ってきた織物産業の魅力に光を
勝俣美香(富士吉田市役所)

楽しい「暮らし」の提案が新しい観光を生み出す
平下茂親(SUKIMONO代表取締役社長)

家を舞台にした自分たちの物語、宿泊者と一緒にその物語を楽しんでいく
松場登美(群言堂 / 暮らす宿 他郷阿部家)

“ここにしかない”暮らしを体感する「生活観光」というあり方
松場忠(石見銀山生活観光研究所代表取締役社長)

文化庁ホームページ「文化観光 文化資源の高付加価値化」
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunka_gyosei/bunkakanko/93694501.html

レポート「令和3年度 文化観光高付加価値化リサーチ 文化・観光・まちづくりの関係性について」
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunka_gyosei/bunkakanko/pdf/93705701_01.pdf(PDFへの直通リンク)
これからの文化観光施策が目指す「高付加価値化」のあり方について、大切にしたい5つの視点を導きだしての考察、その視点の元となった37名の方々のインタビューが掲載されたレポートです。

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