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アルプスの底で僕らは 一

僕はこの夏ある少年に出会った。そいつ、とにかく謎が多い。
男なのか女なのかすらよくわからない。


僕はりんご実る長野のとある相撲一家で生まれた相撲少年だ。
正直相撲に興味はない。でも嫌いでもない。

そいつと出会ったのは、相撲の練習を逃げ出して一人川辺で黄昏てる時の事。
そいつ急に話しかけてきて「あの山、剣城岳。日本一登るのが難しい山。」
そう言って僕に近付いて来た。
転校してきた人だろうか?見たことのない顔。そいつは続けてこう言った。

「銭湯行こうぜ」

….
急展開すぎて頭が追いつかない。
だが、気分が沈んでいた僕は深く考えず、いいよと返事をした。
よく思えばこんなにも暑い日に温泉入るだなんてどうかしてる。
そんなことを考えながら五分ほど歩いた頃、
そいつが「着いた」と言ったから顔を上げた。

そこには見知らぬ銭湯がポツンとあった。
僕の近所にもう一つ銭湯があった事に少し驚いた。

「ゆ」と書いた暖簾の先にお婆さんが一人、番台に座っていた。
僕の方を見てにっこり笑ている。

暖簾棒に掛かった小さな風蓮が後ろで、チリんっと鳴った。・・・・続く


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