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「トヨばあちゃんとひろしの仕事とお金の話」

仕事の一環として新卒採用に関わる業務を受けることがありまして、そんな時は「働く」ということ自体について自分も考え直す良い機会になります。
もうすぐ新入社員を迎えるこの時期に、「社会に出たら働いてお金を稼ぐ」という、あまりに当たり前で誰も改めて考えないようなテーマについて、敢えて「なんで?」と考え続けてみて、出てきた私なりの解釈を「トヨばあちゃん」と孫の「ひろし」の会話形式で綴ってみました。このストーリーが「仕事とお金」についての皆さまのご理解や、後輩やお子さんへの説明のお役に立てば幸いです。少し長いですが、是非お付き合いください。

※トヨばあちゃんは日本のいろいろなところで暮らしてきたので多様な方言がごちゃまぜになっていますが、ご了承ください笑。

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トヨばあちゃん
「ひろし、あんたもいよいよ大学を卒業して社会人になるんやな。おめでとう。ところで、世間では社会に出たら働いてお金を稼ぐってのが当たりまえんなってて、わざわざ「どうして?」って考える人もおらんと思うけんど、お前、ちゃんとその理由を答えられるけ?そもそもちゃんと考えたことはあるけ?馬鹿らし言うて考えたこともないやろ?お前はどんだけ有名な会社に就職できるかって、そればーっかし言うてたもんな。」

ひろし
「トヨばあちゃん、そんなの決まってるじゃん!大学を卒業したら立派な会社に就職して、しっかり仕事してお金を稼いで、自分の生計を立てて、やがては結婚して家族を養っていく。そのためにも少しでも給料のいい有名な会社に就職できるよう就活も頑張ってきたんだよ。」

トヨばあちゃん
「あんな、ひろし。それじゃ世間様の考え方そのまんまや。お前本気で自分の頭で考えたことあるんか?ないやろ。極端な話、あんたが自給自足で十分満足して暮らしていけるなら、仕事をする必要なんかないんやで。原始人のシンプルな生活や。自分に必要なもんはぜんぶ自分で作るいう生活や。食べるもんも、着るもんも、飲み水も、火も、家も、寝床も、全部自分で作って賄う生活や。最近はそういう生活に憧れて地方に移住する人も多いって聞くがな。さすがにスマホまで自分で作るいう人は聞いたことあらへんけどな。かっかっか!笑。でもそれが人間が生きていく一番シンプルなスタイル、自給自足。まさに「生活」や。さすがに現代の日本で公共サービスをなんも使わず自分ひとりで自給自足してくいうんは現実的な話やないけどな。」

ひろし
「ばあちゃん、そんな人いるわけないじゃん。無人島でも行かない限りありえないでしょ!そもそもスマホがない生活なんて考えられないし。」

トヨばあちゃん
「そやな。でも、震災や天変地異で家も電気も食べ物もなんも無くなってもうたら、そうやって生きていかなならん可能性があることも忘れちゃならんで。それが人間の出発点や。でな、もし自給自足ができんくて、誰かが作ってくれたもの、用意してくれたものを使いながら生きていくいうんなら、次の手を考えなならん。それはな、まず「物々交換」や。お前が欲しいものや使いたいものを手に入れるために、お前が持ってるものを差し出して交換するいうことや。たとえば、お前が持ってる洋服とお米を交換するとか、お前の押し入れにしまってあるあの高そうなレゴとお肉を交換するとかや。昔は魚しか取れない漁村の村民が、獣の肉や山菜しか取れない山村の村民と食べ物を交換するなどして、自分では手に入れられないものを手に入れてたんや。」

ひろし
「うーん、なんかイメージ湧かないけど、あつ森でアイテム交換するような感じ?」

トヨばあちゃん
「あつもり?平(たいら)の敦盛(あつもり)さんのことかえ?笛と手紙を交換したとかそんな話は聞いたことがあるような、、、」

ひろし
「ばあちゃん、あつもりは忘れていいよ、、、」

トヨばあちゃん
「なんや、自分から言うといて!ま、ええわ。でな、この物々交換いうのはお互いに欲しいものが同じタイミングで合わないと成立せんからなかなか不便なところもあるわけや。自分は魚を持ってて肉と交換したい時に、肉を持ってる人は米と交換したいとなったら成り立たんわけや。そんなんが続いて困った人たちが、自分の持ってるもんの価値を、魚や肉のように腐ったりせんで、簡単に持ち運べる何か別なもんに変えられんかっちゅうことを考えたわけや。つまり「価値の仲人さん」みたいな存在やな。最初は貝や石や塩なんかが使われとったが、もっと丈夫で長持ちするもんにしよっちゅうことで、金や銀や銅に変わってったんや。それが現代でいうところの「お金」っちゅう訳じゃ。」

ひろし
「うん、何かそんな話きいたことあるかなー、、、」

トヨばあちゃん
「お金はな、自分がつくったものや持ってるものの「価値」を自分の好きな時に好きなものと交換できるよう発明されたもんや。そやからお金は、お前がつくったものや持っているものの価値を証明してくれる証書みたいなもんや。つまり「価値証明書」いうことじゃな。」

ひろし
「お金は「価値証明書」ね、、、。そんな風に考えたことなかったな。」

トヨばあちゃん
「そやかてな。何つくって持ってきても「価値証明書」がもらえる訳やないで。お前がつくったもんを欲しがってくれる人がいることが前提や。誰も欲しがらんもんに価値はつかんし、「価値証明書」ももらえん。誰かが必要としているものをお前が作って渡せたとき、初めてそこに「価値」が生まれ、「価値証明書」が渡されるんじゃ。その価値かてお前が自由に決められるもんでもない。お前が1万円の「価値証明書」と交換したい言うても、相手がその価値は5千円じゃ、言うたら、お互いに交渉して納得できる金額を決める必要があるんじゃ。」

ひろし
「あ、メルカリに出品したときに価格交渉が入る感じか!」

トヨばあちゃん
「そや。そういうことや!お前メヒカリなんか出品しとるんか?あれは福島産が脂のっててうまいがなー。ところでお前、どこにいって出品しとるんかいな?」

ひろし
「いや、ばあちゃん、そういうことじゃなくて、、、」

トヨばあちゃん
「それでもな、お前に何か価値あるもんが作れりゃまだいいが、もし、おまえに作れるもんが何もなければ、交換できるもんはおまえの体と頭ちゅうことになるわけじゃ。つまり、お前が提供できる労働力やこれまで学校で学んできた知識を、それを必要としている人に提供することで、その分の「価値証明書」をもらって生きてくいう道じゃ。そうして手に入れた「価値証明書」でお前が必要とする他のもんと交換して生活するいう訳やな。これがいわゆる「仕事」。働くいうことや。

ひろし
「ふーん。もし僕が何か価値あるものを作れれば、それを売るのも仕事じゃないの?」

トヨばあちゃん
「そうや。もしお前が料理でも家具でも何か価値あるもんを作れて、それを「価値証明書」と交換しながら生きていくいうなら、それも同じく仕事じゃ。他人が作れないものや作りたくないものをお前が替わりに作ってあげるいうことじゃからな。」

ひろし
「何か価値あるものを作って「価値証明書(お金)」と交換するか、自分の労働力や知識を提供して「価値証明書(お金)」と交換するか。それが仕事をするということなのか、、、」

トヨばあちゃん
「そうじゃ。さらにその仕事いうのも、お前がひとりでやっていく道もあれば、お前が仲間を見つけてみんなで一緒にやっていく道もあるし、すでに提供するものを決めている人たちがぎょーさん集まって、それをたくさんの人達に提供していくっちゅう「会社」いうところもある。」

ひろし
「いわゆる、フリーランス、起業、会社勤めってことね。」

トヨばあちゃん
「そこはよく知っとるな。そんでお前は会社勤めを選んだっちゅうわけや。」

ひろし
「だって大学の就活指導は会社勤めありきって雰囲気だったしね。」

トヨばあちゃん
「まあ、最終的にそうなったとしても、全部知った上でお前がちゃんと考えて選択したかどうかが大事なんじゃ。」

ひろし
「ところで、それぞれのメリット・デメリットってどうなの?」

トヨばあちゃん
「うん?なんでシャンプーが出てくるんや?しかもデがついとるのはデラックス版てことかいな?

ひろし
「ばあちゃん、シャンプーのメリットじゃないよ。それぞれの良い点と悪い点は?ってことだよ!」

トヨばあちゃん
「それなら最初からそう言いや!まったく最近の若いもんは何でも英語にすりゃいいと思っとるがな。でな、まずひとりでやっていくちゅう、お前さんの言うところの「フリーランド」ってやつはな、、、」

ひろし
「フリーランスね、、、」

トヨばあちゃん
「おぉ、それやそれ。ひとりでやれるっちゅう自由もあるけんど、何から何まで自分でやらなならん大変さもあるな。しかも自分の存在は社会ではまったく知られてないから、信用してもらうのにもえらく時間がかかるわな。」

ひろし
「なるほど。じゃ、起業は?」

トヨばあちゃん
「自分で始めるいう点ではフリーキング?ってのに似てるけんども、、、」

ひろし
「フリーランス!」

トヨばあちゃん
「そやった、それな。でもランスよりキングの方が強そーやないけ!ま、ええわ。んで起業の方や。起業はな。仲間を集めて一緒にやれるという点では、仕事を進める馬力がちゃうわな、馬力が!あ、人やから人力か!かっかっか!笑。ま、とにかく、ひとが集まれば仕事も分担できるし、苦しい時も共に支え合えるから、ひとりでやるより成長の速度は速いっちゃね。やっぱり馬1頭より2頭、2頭より3頭の方が断然早いっちゃよ。あ、やっぱわし馬が好きやねんな!ひひひ!笑。でもな、その変わり、お互いが信頼し合ってないと喧嘩別れしちゅうなんてことにもなるわな。自分ひとりでやるより人間関係に気を揉む負担は大きくなるじゃろうて。」

ひろし
「ふーん。起業したいって友達も何人かいたな。じゃ、会社は?」

トヨばあちゃん
「会社に入るっちゅうことは、すでに提供したい価値が決まっていて、それを大きな量で提供しているところに加わるってこつばい。特にお前が就職するような大企業は、決まった目的地に向かって大海原を進むもんのすごい大きなタンカーみたいなもんじゃ。お前はその巨大なタンカーに途中から「おたの申します~」言うて乗り込んでいくようなもんたい。タンカーの中はたっくさんの乗組員が役割分担して動いているから、ひとりひとりが与えられた役割をちゃんと果たすことで、その目的地に到達するっちゅう大きな仕事を成し遂げていくっちゃね。社員はその大仕事の一部を担うという「価値」を提供するいうことになる。んで、たくさんの人が混乱せずに働いていくために、そこにはルールいうもんが当然あるわな。じゃから決まりごとが多くて大変じゃけんども、その分、自分ひとりじゃ絶対できんような大きなスケールの仕事ができたり、仕事を通じてぎょーさんの人と知り合えるっちゅうメリットがあるわな。」

ひろし
「なるほど。僕が行く会社は社員が2万人いるって言ってたから、定年まで勤めたとしても全員と会うことは無理だな。」

トヨばあちゃん
「まあその中からいい嫁さんでも見つかったらラッキーやな!」

ひろし
「結婚なんてまだずっと先の話だよ、、、」

トヨばあちゃん
「まあ、お前は奥手じゃし、あんまりモテへんしなー笑」

ひろし
「何それ!余計なお世話だよ!」

トヨばあちゃん
「あこりゃまた失礼!まあ、もう話が長くなってきたから最後にもう一遍振り返るけどな。自分のためだけに何かするいうのは「生活」じゃ。そうじゃのうて、他人が望むものを提供してその分の「価値証明書」、つまりお金をもろうて、それで自分が必要なものを手に入れて生活していくこと、それが「仕事」をして生きていくいうことじゃ。働くいうのも同じことじゃ。じゃから、他人が望む価値を提供せにゃならん。誰かの望みや願望を満たすこと、誰かの困りごとを解決してあげること、それが「価値」いうことじゃ。それはひとりでやろうと会社に勤めていようと同じく必要なことや。」

ひろし
「なるほどねー。仕事の意味について大分わかってきた気がするよ。」

トヨばあちゃん
「でじゃ、その価値を提供できるようになるために、お前は今まで親に面倒見てもらいながら準備してきたいうことじゃな。ひろし、ところでお前はどんな準備をしてきたっちゃね?言うてみい。まずどんな勉強をしてきたがや?」

ひろし
「えー?うーん。とにかく大学入ることだけ考えて受験科目は一生懸命勉強してきたよね。特に何か好きな科目があったって訳でもないしなー。大学入ってからは何を学ぶのが就職に有利かってことしか考えてなかったから、どこに行くにも潰しがきくと思って経済を専攻はしたけど、別に特に興味を持てた訳でもないなー。」

トヨばあちゃん
「お前、なんやねん、それ!よくそんなんで就職決まったな。今まで一生懸命学費払って、塾に通わせてくれた両親が聞いたら泣くで。」

ひろし
「まあまあ、就職決まったんだから結果オーライ!ってことで許してよ。」

トヨばあちゃん
「まあ、会社入ってからこってり絞られたらええわ。それにしても、お前にもなんか得意なもんや好きなもんはないんかい?」

ひろし
「うーん、得意なものかー、、、、。あ、TikTok!あれは見るのも好きだし投稿もバリバリしてて、バズッたことも何度もあるよ!!」

トヨばあちゃん
「あーなるほど!チックタックって、あんた時計が好きなんか!ほんなら時計つくっとる会社に行きゃよかったがね?「ズバット」なんてブランドあったかいな?あ、あれか?「怪傑ズバット」がモチーフんなっとるんか!それならばあちゃんもひとつ欲しいがな!あんたそこに入社したら良かったがやきー。社割きいたがやろ!」

ひろし
「いや、ばあちゃん、、、、。」

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