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戸籍を大切にする議員のみなさん!大変です!早急に「戸籍がない人」を救ってください! ~日本の無戸籍者~

 「戸籍は日本の伝統であり、他国には類が見られない素晴らしい制度である。」

 選択的夫婦別姓の議論をしていると出会う、保守派の方の意見の1つです。

 戸籍は法制度や行政手続きと強く結びつき、普段は意識することはありませんが、人生の節目においては私たちの前に立ち現れる独特の存在であり、戸籍なしには必要な手続きを踏むことができない場合も多いです。

 しかし、日本には戸籍がない人もいるのです!

 本書は、自身も無戸籍の子どもを持った経験のある井戸まさえさんが、無戸籍となってしまった場合に被る多大な不利益や、なぜ無戸籍者が生じてしまうのか、戸籍制度の歴史などについてまとめた一冊です。

 戸籍制度の問題の一面を詳細に記してある本で、読んで勉強になる部分が多かったので、紹介したいと思います。

1. 戸籍がないとどうなるの?

 現在、戸籍は、国が認める正式な身分証明証となっています。

 そのため、無戸籍になってしまうと、

・健康保険に入れない。そのため、治療費を払うことができない。
・免許を取りたくても、住民票を取ることができない。
・結婚ができない。
・身分が証明できないため、職に就くことができない。
・自分で戸籍を作ること(就籍)もハードルが高くなかなか認められない。

といったように、人としての生活がほとんど不可能になってしまいます。

 携帯電話の契約もできず、契約関係はすべて親名義ですることしかできません。

 1988年に起きた「巣鴨子供置き去り事件」は、無戸籍者の問題も含んでいました。この事件は、巣鴨のマンションで、子供だけで生活している部屋が見つかったことが発端です。父は蒸発し、母も新しい恋人見つけて、子供4人を置いて家を出ていっていたのです。長男が母から月数万円をもらい、兄弟の面倒を見ていました。

 いつしかその部屋が不良のたまり場になってしまい、不審に思った大家が警察に通報したことで事件が発覚。調査の過程で、2歳の三女が14歳の長男の友人に折檻されて死亡、死体は雑木林に棄てられていたこともわかりました。そしてなんといっても、その子どもたちはみんな「無戸籍」だったのです。

 出生届が出されず、戸籍が作られないと、誰からもその存在を知られることがありません。学校からも就学通知書は届きません。部屋で1日過ごしていれば、行政からも、学校からも、近所の人からも、誰からも知られず、生きていくことになります。この事件は、是枝監督によって『誰も知らない』というタイトルで2004年に映画化され、カンヌ国際映画祭など複数の賞を受賞しました。

 この子たちがこのまま成人してしまっていたらどうなっていたかと思うと、身震いがする思いです。

 しかし実際、無戸籍のまま成人してしまう人はいます。

 「日本の無戸籍者」の中では、1人の男性の例が紹介されています。

 バイクの免許を取ろうと思って、住民票を取りに役所に行ったら、戸籍がないことが発覚します。母が学校にかけあい、無戸籍の状態でも学校に通うことができていたため、自分では気付くことができなかったのです。

 その後、怪我をしても高額の治療費が払えないため病院にも行けず、結婚もできず、まともな就職もできませんでした。その思いをSNSで綴ったものから、一部引用します。

(note筆者注;戸籍を作るようお願いしても)法務局、家庭裁判所、市役所は、たらい回しにされたり、担当が変わりました、と言って前担当からなにも引き継いでおらずまた一からやりなおし、と全く進展しないまま人生にて就職、免許取得、結婚等一番変動することがある一八から三八までの二〇年間もの人生をなにも出来ずに過ごして行った。
やらなかった、のではなく、やれない、最初からオレにはチャンスが与えられなかった。一八歳、皆、就職し、普通免許を取り、カッコイイ車を買い、遊びまわるのをどんな思いでみていたか。
(中略)
骨折しようが、なんだろうが、医療費は全額実費、何十万も払えるはずもなく、緊急入院、手術が必要、と言われた大怪我のときも、自然治癒。
最初に結婚したい、と思い二年半同棲した女性の父親に事情を話したら、そんな人に娘はあずけられない、と。
(中略)
今は親名義で生活できている。
親がいなくなったら。
ホームレスしかない。
過去も、今も、未来も、絶望的。
おれは、この世界に存在していなかった。
人権もなにもなかった。
(中略)
悔しい。おれは何もしていないのに。
何から何まで手に入れられなかった。
この社会問題を、行政窓口で救済できる制度が絶対に必要だ。

 当事者の悲痛な叫びが伝わってきます。

 今現在も無戸籍の方がいるとすると、早急に戸籍を作って、人権を保障しなければいけません。

2. どうして無戸籍者が発生するの?

 このような無戸籍者は、少なくとも1万人はいると言われています。

 この数字はどこから来たのでしょう?

 人数の算定根拠を説明する前に、まずは、どうして無戸籍者が発生するかを説明します。

 井戸さんは、本書の中で6つのパターンで無戸籍者が発生する仕組みを説明していますが、ここではその中で最も多いパターンであろう1つを取り上げます。

 それは、「離婚後300日以内に生まれた子の父は、離婚前の夫であると推定する」という民法の規定が原因となり、出生届を出せないパターンです。

 この300日、という数字に、絶対的な根拠はありません。離婚した女性に対する罰則のようなものです。実際、妊娠期間は平均280日ほどと考えられているため、離婚後も女性は性交渉の禁止が法律で決められていることになるのです。また、離婚調停が長引けば、実質的に婚姻関係が破綻しているにも関わらず、新たな家族を形作る権利を奪われていることになるのです。

 著者である井戸さんも、早産気味に265日で子供が生まれたため、前夫の子と推定されてしまうことを経験しました。

 それを覆し、本来の父を戸籍上の父とするためには、家庭裁判所での調停・裁判が必要であるため、少なくともその決着がつくまでは出生届が出せず、無戸籍となってしまうのです。

 しかも、その結果「調停不成立」となってしまう案件が、毎年約500件発生しているそうです。
 それを直近20年間で考えても、少なくとも1万人が無戸籍者、と言われているのです。

 戸籍がないと、その子の人生がめちゃめちゃになってしまいます。

 選択的夫婦別姓の議論においても、子の姓が定まらない、という理由で反対されることがあります。

 そしてその疑念には、きちんと答えていく必要があります。

 そもそも戸籍制度は、現代の日本においてどれだけ有効性・必要性があるのでしょうか?

 マイナンバー制度や住民基本台帳などとの整合は、どのようにとっていくのでしょうか?

 今後も引き続き、考えていかなければならない問題です。

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