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全ての子どもが夢中になれる種を持っている。子どもの自己肯定感を温めるオンライン伴走先生

不登校専門のオンライン家庭教師「夢中教室WOW!(以下、夢中教室)」を展開するワオフル株式会社。

「好き」を一緒に探究していく伴走型授業を通じて、子どもたちの自己肯定感を温めていくことを目指した同事業の利用者はすでに150人以上に上ります。事業拡大に伴い、子どもたちに真っ直ぐ向き合ってくれる大人「伴走先生」を募集しているという夢中教室。

全国どこからでも自分の希望する時間に働くことができるとのことですが、この事業の創業者である辻田寛明さんに、なぜ夢中教室を始めようと思われたのか、どんな人と一緒に働きたいのか、詳しく聞きました。

じぶんと世界が好きになる“出会い”と“伴走”を届ける

普段、子どもたちとのやり取りもオンラインということで、今回の取材もオンラインでお話をうかがうことに。

Zoomを開いて待っていると、あらわれたのは優しい笑顔が印象的な創業者の辻田寛明さん。大学卒業後の2019年、社会問題をビジネスで解決することを目指す株式会社ボーダレス・ジャパンに新卒入社し、修行期間を経て、2020年にワオフル株式会社を創業。

辻田さんが解決したいと思ったのが、24万人をこえる不登校の子どもたちの多くが抱える自己肯定感の低さ・生きづらさの問題だった。

お話を聞いた辻田寛明さん

「僕たちは不登校の子どもたちに、学校に行った方がいいとか、そういうことを言いたいわけじゃないんです。それよりも、学校が合わなかったり、生きづらさを感じることで、人生に希望が持てなくなってしまうことが問題だと捉えています。学校が合わなくても、『人生って楽しいじゃん』と思ってもらえるような伴走がしたいという想いから、信頼できる『第三の大人』と出会い、夢中になれる『好きなこと』に伴走していくオンライン家庭教師事業を立ち上げました」

どんな子にも、夢中になれる種が眠っている。でもそれは、一人では見つけられなかったり、家族だけでサポートするのは難しいこともあるだろう。だからこそ、夢中教室という第三の居場所、そこで出会う伴走先生が第三の大人となり、一つの扉を開くきっかけになるのかもしれない。

「不登校児の多くが、フリースクールが近くにあっても通うことができずにいます。夢中教室はそういう子が多く利用してくれていますし、自宅で授業を受けられるオンラインという形式が、参加しやすさにつながっているようです。自分のことを受け入れ、真っ直ぐ向き合ってくれる大人がいるんだという安心感とワクワクを届けていきたいですね」

子どもの横に立つ、寄り添う伴走先生

オンライン授業の様子

最初は辻田さんお一人で始めた事業だったが、今では伴走先生の数も30人を超え、150人以上の子どもたちが夢中教室を利用している。

今回は実際に伴走先生として活躍中の井上香純さんにもお話を伺った。

昨年度末までは公立小学校で教員をしていたという井上さん。夢中教室との出会いについて聞いてみた。

画像右上が井上さん。
さまざまなバックグラウンドを持つ先生が約30人在籍している

「子育てと両立できる仕事を探していて、最初はオンライン家庭教師の求人を見ていました。でも、勉強を教えたいという気持ちが自分の中に無いことを感じるようになって、いろいろな仕事を探していたところ、夢中教室を見つけて、これだ!と思いました」

そんな井上さんの授業は、いつも笑顔にあふれ、優しい空気感がパソコン越しに伝わってくると辻田さんが教えてくれた。実際に働いてみて、井上さんはどんなことを感じているのだろうか。

「子どものやりたいことを一緒に見つけたり、伴走するというのが私に向いているなと感じています。恐らく私は、子どもの前に立って『みんなこっちだよ』って引っ張るよりも、子どもたちの横に立って伴走していたかったのだと気がつきました」

井上さんは現在、5人の生徒を担当している。1回60分の授業を行い、授業の前後にはLINEを通して保護者にその日に取り組む内容や生徒の様子を共有しているそうだ。印象に残っている生徒のエピソードがあると、私たちに井上さんが教えてくれた。

「小学1年生の男の子が、最初は画面にも出てこなかったんですけど、だんだん顔を出して参加してくれるようになりました。彼の『好き』を一緒に探していく中で、ゲームの話になったんです。私が『デュエル・マスターズのカードって、ネット上で高額で取引されているのがあるらしいね』と話したら、『売ってみたい』と言うので、選択肢の1つとしてメルカリを紹介しました。実際にメルカリを活用して販売に向けて動き出したのですが、販売のためにパソコンで文字入力に挑戦したところ、それがとても楽しかったようで。これからまた違う方向に授業が展開していくかもしれないし、先の見えないところがおもしろいです」

こちらの授業の様子は夢中教室のnoteで紹介されています

生徒との会話の中から、その子の好奇心を引き出す。子どもたちの心に寄り添いながら伴走を楽しんでいる姿は、まさに夢中教室が目指す先生像の「夢中の種を探し続けられる人」だと感じた。

信頼できる大人との関わりで生まれた子どもの変化

夢中教室の授業は完全にオーダーメイドというから驚きだ。実際の授業はどのように行われるのだろうか。井上さんに聞いてみた。

「まず最初に、無料体験を3回行っています。この無料体験から、その後の授業もすべて同じ先生が担当します。子どもの話を聞く中で、何に興味があって、 どんなことを知りたいのか、やりたいのかを見つけていきます。その子が今インプットをしたいのか、アウトプットしたいのか。その希望を見極めて授業を組み立てていきます。どんな授業展開になるのか、私自身も分からないので、そこを一緒に探っていくプロセスに魅力を感じています」

とはいえ、オンラインでのコミュニケーションに抵抗を感じる子どもたちもいるのではないだろうか。何よりも安心安全の場づくりを優先する夢中教室では、画面オフでの参加や、保護者の同席も可能にしているという。

オンライン授業中の様子

「こちらのペースに無理やり合わせさせない、というのはとても大事にしていますね。その子が緊張したり、警戒したり、これまで否定されたりした経験から『ちょっと怖いな』って思うこともあるんですよね。だから、『この人なら話してみても大丈夫』と思えるタイミングまで待ちます。そう思ってもらえるように、こちらは子どもたちの言葉を絶対に否定しないし、その子が少しでも『話したい』って思えるような話を探っていくことを特に心掛けてます」

丁寧に信頼関係を築いていくことが授業のスタートだと語る辻田さん。授業を重ねていくことで、どのような変化が子どもたちに起きているのだろうか。

「中学1年生の冬から通い始めた子が、小学校の頃からずっと学校に行けてない子だったんですね。不安症が強い子だったんですけど、実は心の中に海外への憧れが少しあったんです。ヨーロッパ風の建築に興味を引かれている様子だったので、授業でGoogle Earthを使いながら『今日はウィーンに行こう』とか、『次はロンドン行こう』というように、いろんなヨーロッパの都市を見てまわりました。そうしているうちに、その子もだんだん僕にいろんな考えを話してくれるようになりました。

サッカーが好きなことも分かってきたので、ヨーロッパのサッカーゲームなどもいろいろ見ました。そこから8〜9カ月ぐらい経って少しずつ変化が出てきました。僕との時間では割となんでも話せる状態になってきて、『1人でバスに乗ってドームに行って、サッカー観戦をしたい』と言うようになったんですよ。それをご両親にも話すようになって。授業中に『じゃあどうやったら行けるか一緒に調べようぜ』みたいなこともやっていたのですが、実際にそれが実現して。

それが大きな自信になったみたいで、そこから『海外に興味があるから、英語をもっと勉強したい』と言うようになり、オンライン英会話を習い始めました。その後、通信制の高校に進学しました。『その高校は留学のサポートや海外教育にも力を入れてるから行くんだ』と、自分の意思で決めて、無事合格。夢中教室の存在が将来に繋がったのが、本当にうれしかったです」

こちらの授業の様子は夢中教室のnoteで紹介されています

子どもたちの言う「こんなことをしてみたい」は、大人にとっては些細なことかもしれない。でも辻田さんは、「自分にとっての当たり前は、その子の当たり前ではないから」と、どんな一歩にも寄り添い、一緒に悩み、一緒に喜ぶことを大切にしている。

大人が自分を大切にできる職場環境

ここまでお話をうかがって、辻田さんと伴走先生として働く井上さんの関係性がフラットなことも印象に残った。先生同士はどんな関係性なのだろうか。

井上さん:
「先生同士がフラットでいられるのは、間違いなくじーつー(辻田さんのニックネーム)が醸し出す雰囲気ですね」と井上さん。

辻田さん:
「恐れ多いですね。でも、僕がたまたま最初の1人目だっただけなので、僕が偉いとかは全然思ってないんですよね。 みんなそれぞれ、子どもとの向き合い方で素晴らしいところがあるし、僕も他のメンバーから学ばせてもらっている部分がたくさんあります。 伴走先生それぞれに対して素敵だなと思ってるので、自然とフラットな関係性になりますね」

井上さん:
「夢中教室では、 子どもたちが大事にしていることを大事にしてあげられるので、それがすごくうれしいです。それは私たち大人に対しても同じで、教員時代にはなかった自分が大事にしてるものを大事にしてもらえる感覚があります。自分の生活や子育てもできるし、自分が守りたい生活リズムみたいなものをちゃんと保ちながら働けるので、すごく働きやすくて、ありがたいなと思っています」

子どもに関わる先生たち自身が、自分の生活を大切にしながらいきいきと働ける。大人がそういう環境にいるからこそ、子どもたちに明るさと優しさを持って接することができる。この当たり前のようで、なかなか難しいことを夢中教室では実現している。どんなバックグラウンドを持った伴走先生が集まっているのだろうか。辻田さんに聞いてみた。

「年齢でいうと20〜30代ぐらいの方が多いです。すみちゃん(井上さんのニックネーム)のように学校の先生をされていた方も多いです。子育て中のママさんや、本業ではコピーライターをやっている人、元アメフトの日本代表、海外在住の人など、おもしろい人たちが集まってくれています」

多彩な先生たちのほとんどは、複業という形で関わっているそうだ。

「伴走先生の働き方として、正社員のようにフルタイムで働くというよりは、何かと掛け合わせるような複業的な働き方がいいのではないかと思っています。子育てしながらとか、本業が別にあるとか、本業とは別に子どもとの関わりを持つことで、人生がより豊かになる。そういう形での教育に関わる人を増やすことも目指しています」

それぞれの先生が、目の前の子どもに合わせたオーダーメイドの授業をつくり出している。言い換えるなら、決まった型や正解がない授業。それが良くも悪くも、この仕事の肝のように思う。井上さんに仕事の難しさについて聞いてみた。

「基本的には生徒と1対1で授業をしているので、他の先生だったらどうしてるかな、これでいいのかなと思うことはあります。でも、その子がたまたま私に出会ってくれて、私との関係性の中で生まれるものを大事にしたいなと思っています。この関係性だからこそ生まれてきたものを、一緒に深めていきたいです。あとは、先生同士の横のつながりがもっとあればうれしいですね。Slackでコミュニケーションを取っているのですが、もっといい意味での職員室っぽさが出たらいいなと感じています」

普段はチャットでのやり取りがメインだが、
伴走先生がオンラインで集まることも

「それはぜひやりたいですね。いつもはSlackで情報共有をしているのですが、この間、新年会を開いて先生が実際に集まったときは、マインクラフトが得意な先生は質問攻めにあっていました。もっと先生同士の横のつながりを作っていきたいです。

個人的には、ノウハウの共有の仕組み化は今年取り組みたい課題です。30人の先生がいて、それぞれの強みがあるので、各先生がやっていることを全部見える化して、みんなでシェアできたら、教育の質はもっともっと高められると思っています。教育の質という点で言えば、どういうアプローチをしたときに子どもたちの自己肯定感が温まって、どこで成長が起きたのかを、メソッド化してもっと深いレベルまで作り込んでいきたいとも構想しています」

夢中の種を探し続けられる人と出会いたい

最後に、どういう人と一緒に働きたいか、辻田さんと井上さんに聞いた。

辻田さん:
「4つあるのですが、1点目はビジョンに共感してくれる人です。『どんな子にも必ず可能性がある。うちに秘めた種がある。』ことを信じ続けて、一緒にそれを探していくことを楽しめる人かどうかを大事にしています。

2点目は『夢中教室』の名前もそうですし、『じぶんと世界が好きになる』というテーマがあるので、前向きなパワーを持ってる人がいいなと思ってます。優しく、あたたかく前を向けていけるようなエネルギーがある人だとうれしいです。

3つ目は、絶対に子どもや保護者を否定しない人。どんなときも受容して、向き合い続けられる人かというのを大事にしています。
4つ目はスキルの話になりますが、傾聴力と、傾聴した上での提案力や言語化力のある人ですね。生徒の反応をしっかり観察できるかどうかで、授業の質が変わってきます。『あ、この子、この話に反応した』というところに気づいて、そこから深掘りしていく力があるとより良いなと感じています」

井上さん:
「そうですね、正解がないという部分の難しさはあるかもしれませんが、子どもとの時間だったり、一緒に授業を作っていくことを、おもしろがれる人が来てくれたらうれしいです」

辻田さん:
「オンラインでのコミュニケーションかつ、答えがない授業づくりというところで難しさはあると思います。でも、その難しさと同時に、子どもたちが新しい自分に気づいて、どんどん笑顔が増えてく姿を見られるやりがいがある仕事だと思っています。『子どもたちに伴走しながら、自己肯定感を温めていく』ことに共感してくれる人がいらっしゃれば、ぜひ仲間になっていただけたらうれしいです」

伴走先生へのエントリーは下記のページから▼

取材・文:岡 佑夏 | 写真:ご本人提供