産土神名帳 來野千了

VR的なもの、メタバース的なもので古代から連綿と続く宗教的体験を置き換えられるのか否か…

産土神名帳 來野千了

VR的なもの、メタバース的なもので古代から連綿と続く宗教的体験を置き換えられるのか否か。それとも全く別の体験なのか。 実際に神社を3812社(2024年4月現在)巡拝したフィールドワークから機械学習の材料になり得ない神社の空気感や雰囲気を届けていけたらなと思っています。

最近の記事

民俗信仰収集 #004

前回の記事はこちら ↓ 佐賀県佐賀市の乙文殊宮、「もいっさん」についてです。 文殊菩薩をお祀りする乙文殊宮は下宮と上宮に分かれており、学問の神様として各種受験生などが合格祈願に訪れる神仏習合のお宮であり寺院です。下宮は普通の寺社と何ら変わりないのですが、上宮、通称「落書き堂」はなかなかの情念の塊を体感できる建物です。 とにかく内壁外壁天井関係なく落書きでびっしりと覆われ、どんどん更新されていくというかなりの直接的祈願方法を見ることができます。 いつ誰が何のためにこのお堂に

    • 佐賀の風景 その壱

      毎年都道府県の魅力ランキング等で下位に位置する佐賀県ですが、私は佐賀のことが大好きです。佐賀出身でもないのですが佐賀が近いのでよく行きます。佐賀県北部の唐津周辺と南部の有明海沿岸、長崎との境の山間部とで文化的には違い、それぞれ違った魅力があります。 特に神社関係では九州で一番面白い県だと思います。 肥前狛犬、肥前鳥居、石塔、石仏、有明海沿いの祠などなど。 佐賀が佐賀たらしめているものはその田園風景だと思います。 田んぼ、麦畑、玉ねぎ畑、レンコン畑。いろいろ田園風景を紹介したい

      • 民俗信仰収集 #003

        前回の記事はこちら↓ 今回は九州を離れ兵庫県神戸市東灘区御影一丁目に鎮座する学問の神さまとして信仰されている綱敷天満神社の特殊神事についてです。 そもそも綱敷天満宮という名前の天満宮は西日本の海沿いに何社もあり、それぞれ微妙に菅原道真公との縁起が違いますが、概ね村民その他が菅原道真公を綱を敷いて歓待したという内容です。 この神戸市東灘区の綱敷天満神社も歓待の主体が山背王に変わり、石の上に綱を敷いたという内容になっています。厳密には菅原道真公九世の孫、菅原善輝公が山背王と菅

        • 肥前狛犬ではなく豊前狛犬 その弐

          前回は肥前狛犬を軸にして豊前狛犬を一対紹介したところで終わってしまいましたので続きを。 繰り返しになりますが、豊前狛犬はほとんどが本殿、または境内社の石祠の脇に無造作に置いてあることが多いです。そのため、対策がしっかりし出した肥前狛犬よりも豊前狛犬の方が盗難の危険性が高いかもしれません。 まずは北限に近い北九州市内の神社の本殿にある豊前狛犬です。ユーモラスな顔と小振りで素朴な点は肥前狛犬に近い特徴があります。 こちらも北九州市内の神社の豊前狛犬でかなり年代は古いもののよう

          「ぽつん」な神社 其の弐

          前回に引き続き「ぽつん」な神社を紹介していきます。やはり新緑の季節、田植えの季節が映えます。 まずは大分県宇佐市から。宇佐市には「田んぼのぽつん」が多くあります。その中の一つがこちらです。 海沿いの「ぽつん」というのもあります。日本海側に有る山口県阿武郡阿武町のとある神社です。「田んぼにぽつん」に比べ、後方が日本海になっているためスケールは大きめで郷愁を誘います。 前回に続き冬場の畑ぽつんを紹介します。福岡県でも筑後平野にはある程度の「ぽつん」な神社が存在します。この神社

          「ぽつん」な神社 其の弐

          茅葺屋根の神社 その壱

          神社建築は鉄筋コンクリート造で屋根は銅板葺というのが主流になっている中、檜皮葺や杮葺などは一部の限られた重要文化財がほとんどです。 しかし茅葺屋根の神社は本殿だけであれば結構普通の神社であっても時々見かけます。 細かい建築資材・工法や神社建築の歴史の話をしだすときりがないので「まずは色んな茅葺屋根の神社を見てみよう」ということだけに焦点を当てる記事です。 茅葺屋根の神社を発見すると「なんか興奮してきたな」、と某漫才師の入りみたいに感じます。 初回はこの茅葺屋根の神社が集結し

          茅葺屋根の神社 その壱

          「ぽつん」な神社 其の壱

          大きな神社でもなく観光地でもなくただただそこにある「ぽつん」と佇む鎮守様。ノスタルジーを感じる情景です。 その魅力をたまにインスタグラムで投稿していたのですが一度まとめておこうと思い立ちこの記事を書いています。 「田んぼにぽつん」、「畑にぽつん」、「コンクリート上のぽつん」など様々な「ぽつん」がありますが、やはりいちばん見栄えが良いのは「田んぼにぽつん」でしょう。この時期から「田んぼにぽつん」が最盛期を迎えますので、田園地帯で身近な「ぽつん」な神社を探すのもいいと思います。

          「ぽつん」な神社 其の壱

          最近聴いてビックリした曲5選(音量注意)

          高校生の時から今に至るまでうるさい音楽とエレクトロニックな音楽の両輪で音楽を聴いています。毎年毎年新たなバンド、曲に出会いどんどん好きな音楽が増えていくという幸せな耳だと自負しています。 (1)Alpha Wolf - Sucks 2 Suck (feat. Ice-T) まずはオーストラリア発メタルコアのバンドですが、最近増えている90年代後半から00年代のNu Metalを大胆に取り入れたニュー・メタルコアに分類されます。そもそも90~00年代のメタル勢とヒップホップ勢

          最近聴いてビックリした曲5選(音量注意)

          民俗信仰収集 #002

          前回#001はこちら↓ 今回も福岡県京都郡みやこ町に伝わる伝承です。 豊前国府政庁跡の隅に小さな神社があります。翁神社といい、かなり新しい神社のようで再建されたものかもしれません。 由緒も御祭神も名も無き旅行者にまつわるものです。 「むかしむかし当地に病い流行しとき一人の女旅行者が一命を投じて村人を救った記念して当神社を祭ったと言い伝えられる。平成二年農地基盤整備のため東300メートルにありしをこの地に移転建立した。」 とあり、具体的な時代背景等詳しいことは分かりません

          プロフィール記事

          一度ちゃんと自己紹介しておきたいと思います。 主に神社記録サイト、「産土神名帳」やインスタグラムで神社の記録・紹介をしています。 その目的は以下のとおりです。 「全国に数多ある社格や有名無名、大小関わらず後世のために現時点での姿をひたすら記録していくことを目的としています。 社格・有名無名・大小・御朱印の有無に拘ることは皆思いつくことであり情報が画一的で陳腐なものになり、生産的ではないと個人的に感じています。後継者不足や過疎、財政難などで困難に立ち向かおうとする素晴らしい

          肥前狛犬ではなく豊前狛犬 その壱

          世間的には狛犬の中でも別格の輝きを放っているのは肥前狛犬という佐賀県や長崎県(旧肥前国)を中心に分布する丸っこくて素朴な一群です。肥前狛犬の愛好家も多く、盗難事件も多く起きているほどです。 ただ、旧豊前国(今の福岡県北九州市の東側から京築、大分県中津市・宇佐市あたりまで)にも特徴ある素朴な狛犬は存在しており、あまり注目されていませんが実は豊かな世界を造りあげています。豊前国南部の国東半島は石造仁王像や磨崖仏など独特な石の文化が存在しているのです。それらを踏まえ、豊前狛犬を紹

          肥前狛犬ではなく豊前狛犬 その壱

          民俗信仰収集 #001

          民間伝承が基になって創祀された神社仏閣は数多くありますが、初回は福岡県京都郡みやこ町に伝わる「せん助さん」にまつわる仙人神社についてです。 この仙人神社に祀られている「せん助さん」は江戸時代の実在した民間人であり、神格化されがちな武士や天皇、貴族などとは違う身近で独特の信仰色が見られます。 せん助さんの口だといわれるお堂の後ろにある、石の尖った先端部分に酒をそそぎながら「せん助さん、まあ一杯おあがり下さい」と言い、次に「今度は私が一杯いただきます」と言いながら酒をくみかわし

          「石になった神さまの居場所」概観2

          前回の記事はこちら↓ 前回に続いて詳細な説明は抜きで佐賀県にはどのような「石の神さま」がいらっしゃるのか覗いていきましょう。 例えば蛎久天満宮(佐賀市)には特に神仏習合の色濃い神さま仏さまが渾然一体となってお祀りされています。石仏や「中央」「十一面観音」「愛宕社」「川の神」「水神」の刻名が見えますが、やはり佐賀特有の「中央」が多いようです。 また別の場所には石造の恵比須様が並んでいますが、佐賀から筑後川を挟んで福岡県筑後地方にはこのような恵比須像が多くあり、中には「西宮

          「石になった神さまの居場所」概観2

          「石になった神さまの居場所」概観1

          前回の記事はこちら↓ まずは由来、意味など細かいことは抜きにして色々な「石の神さま」を見ていただくのが早いでしょう。 例えば「石の神さま」で一番メジャーなものは庚申塔でしょうか。地方によって刻名が微妙に違っています。「庚申尊」「庚申尊天」「猿田彦大神」「青面金剛」「道祖神」などなど。関東では「青面金剛」「道祖神」が多い印象です。数え切れないほどのヴァリエーションがあり、とてもではないですが全部は紹介できません。ただ、典型的なものを幾つか挙げておきます。 例えば「猿田彦大神

          「石になった神さまの居場所」概観1

          2024年1月から4月までに食べたアジア料理

          相変わらず神社巡拝と共に南アジアの料理を食べ歩いています。最近は本格的な現地仕様のバングラデシュ料理屋さんなども増えてきており楽しみが増えています。5月以降もまとまった数の料理屋さんを訪れたら記事にしようと思います。 南インド料理 マリアラム沖縄県那覇市松尾2丁目19-39 沖縄で数少ない本格的な南インド料理屋さんです。 ランチミールスB(三種のカレー)をいただきました。国際通りの南、松尾公園のそばです。あまり目立たない場所にあります。 ベジミールスのみでヴィーガン対応で

          2024年1月から4月までに食べたアジア料理

          「石になった神さまの居場所」まえがき

          初詣や七五三などで訪れる神社はその多くは地域の中核を担うそれなりの規模の神社だと思います。そして境内を歩いてみるとたいてい奥の方に小さな社のようなものがあると思います。それらの中には色んな事情で廃絶せざるをえなかった神社を境内に移して存続しているものも数多くあります。これらの境内社はその地域にどんな神社があってどんな事情があったのかを語る貴重な証人です。いや「証神さま」です。 そのなかでも特に石に刻まれる簡素な神さまは祠の体もなさずいわば「剥き出し」の神さまであり、摂末社

          「石になった神さまの居場所」まえがき