マガジンのカバー画像

走り書き

9
詩にもなりきれず、小説の一節にもなりきれなかった、フィクションなのかノンフィクションなのかもよく分からないかけらたちを置いておく場所
運営しているクリエイター

記事一覧

群衆

5万人の群衆が行き交う中、階下によく知った姿を見とめる。何年ぶりだろうか、ひどく猫背なその出立ちを見留めたのは。
慌てて階段を駆け下り、群衆を掻き分ける。
追いつけない、見失いそうだった。

次の瞬間、名残惜しそうに立ち止まって会場を振り返る君と目が合った気がした。声が出ない、名前を呼びたいのに。言葉は空に吸い込まれ、僕はなんとかパクパクと口を動かした。

君は気が付かない様子で、もう前を向いて歩

もっとみる

中南海

The scent is melting into the darkness
At the tip of your nose, the smoke is undulating
When I see you standing alone, appearing listless,
The bustle and blinding lights of Tokyo are dissipating.
In t

もっとみる

シューゲイザー

真夏のビーチサイドで、君が業務連絡の電話に出ている間、僕はしゃがみ込んで足元の砂浜を見つめていた。

早くエアコンのあるメッセに行きたいと思いながら、君の電話が終わるのを待っている。後頭部にあたる日差しが暑い。体育の授業を度々貧血で離脱するくらい軟弱な僕の体力が果たしてトリ前のアヴリルまでもつのかさえ疑わしかった。

君の周りの色々が僕は憎い。こうやって休日を邪魔してくる電話はもちろんだが、研究室

もっとみる

えくぼ

小さなバーカウンターに座る貴方を見つけ、胸が高鳴る。まさか会えると思わなかったタイミングで。貴方に会うのはどれくらいぶりだろうか。無策のまま、指先で肩に触れる。
振り返った貴方はいつものように、おお!という表情になる。

伝えたかったことは数多あれど、勢いに任せて声をかけてしまい言葉が出ない。震えそうな声でなんとか一言搾り出す。

お久しぶりです。

その後に続く言葉が見つからない。「そういえばさ

もっとみる

マールボロ

The Great Rock 'n' Roll Swindleでシドヴィシャスが赤マルを吸っているのをみて、一度だけ赤マルを吸ったことがある。金魚の僕でさえ咳き込むタール12。それでもシドに近づきたくて、タバコのチョイスはいつもマルボロだった。

靖国通りのエクセルシオールでブラッドオレンジジュースを飲みながら金マルをふかしていると、不服そうな顔の君がいる。
「見なかったことにしとくけど、やめたほ

もっとみる
金魚花火

金魚花火

夏になると大塚愛の金魚花火が聴きたくなる。そしていつも、金毘羅さん、祇園さん、摩利支天さんなどの地元のお祭りを思い出す。

世間一般的に祇園祭といえば京都だろう。ただ、僕にとっては地元のお祭りの印象が強い。子供の頃毎年通った祇園祭が1番最初に思い浮かぶ。

夏先の休日の夜、早めのお風呂に入り、テキトーな部屋着をまとい、ソファに寝転がって目的もなくTikTokを眺めていると、ダイニングから呼ばれる。

もっとみる

夏の昼下がり

お昼終わりの大教室の扉を開け、真ん中より少し上の右側の座席に友人2人を見つける。「おはよー」と友人に声をかけながら、一つだけ空いていた5人がけの机の、左から3番目の席につく。
一つ空けて一番左端の席にはノートとペンケースが置かれていた。

始業ベルがなる直前で、隣に気配が戻る。チラリと一瞥すると、そこには完全に夏の装いとなった君がいた。「!!!」驚きの表情を声にも顔にも出さないように懸命に平静を装

もっとみる

think of innisfree

Gazing the isle of the rippling pond
I think of innisfree
I can hear an aeroplane descending sound
It makes me clarify it's not the one

murmurations, whistling winds,
birds chirping and a falled qui

もっとみる

by the way

by the wayは歌える?

渡したアコギを抱えて君が発した。いや、by the wayはむりだろ。あのラップみたいなパートあるし。歌の部分ほとんど同じ歌詞だから、歌えなくはないけど、あのラップがマジで無理。そんなのことを思いながら。

んーーーー。歌えないかも。