夏の昼下がり

お昼終わりの大教室の扉を開け、真ん中より少し上の右側の座席に友人2人を見つける。「おはよー」と友人に声をかけながら、一つだけ空いていた5人がけの机の、左から3番目の席につく。
一つ空けて一番左端の席にはノートとペンケースが置かれていた。

始業ベルがなる直前で、隣に気配が戻る。チラリと一瞥すると、そこには完全に夏の装いとなった君がいた。「!!!」驚きの表情を声にも顔にも出さないように懸命に平静を装いながら会釈をすると、無表情の会釈が返ってきた。

かわいい・・・!無表情でも十分にかわいいのだから反則である。常に君の気配が隣にあり続ける90分間、授業に集中できるはずもなく、教授の言葉はすべて宙に浮き、右腕は言葉の意味も認識しないまま黒板の文字を自動筆記の様に書き写していただけだった。

時折、誰にもバレないように、対角線上にある黒板の板書を見るふりをして、横目で君を盗み見た。フレッドペリーのポロシャツの袖口から伸びる、日焼け後のついた腕に愛しさを覚える。あまりにも至福すぎる時間ではあったが、表情を殺すのにひどく苦労をさせられた。

「ねぇ!」
授業が終わるないなや、あまりにも珍しい君からの呼びかけに、困惑しながらも頬を染めてしまう。まるで小学生のような反応だなと我ながら思う。赤面を隠すようにハンドタオルを口元に当てたまま振り返る。
噫!愛しい!
子犬みたいにまんまるの瞳も、バサバサのまつ毛も、キュルンとした口元も全部が可愛い。反則である。そんなことを考えていると突然君の口角が下がった。

「ちゃんと聞いてます?」
君に見惚れすぎてぼやっとしているといつのまにか目の前には眉間に皺を寄せて不機嫌そうな君の顔。
軽く謝罪をして改めて内容を聞くと、君の用事はこの講義の課題の共同ワークを一緒にやりませんかというなんでもない、多分誰でもいいような申し出だった。ただ、そんな申し出でさえ、君と一緒にというたった一つその理由で恥ずかしくなってしまう。僕はしどろもどろになって、阿呆にも申し出を断ってしまったのであった。
半刻ほど経った今となっては後悔しか無いのはいうまでも無いが、連絡先さえ知らない君に連絡する術などなく、ただ後悔だけが残った。

英語を勉強したり、広報したり、民俗学を学んだりしています。