『お別れホスピタル』は終末期医療という重いテーマながらも、愛にあふれたドラマです
岸井ゆきのと松山ケンイチ主演。これは観ないわけにはいかないでしょう…ドラマ『お別れホスピタル』。
ある街の病院にある療養病棟。余命数か月の人や、病状に加え認知症などで日常生活が困難な人がたどり着く最期の場所。
入院した人が退院していく可能性がほぼない病棟で働く看護師と医師のストーリーなので重たくて湿っぽい感じだけかと思いきや、入院患者さんたちがかなりクセ強めのバラエティに富んだ人たちで、クスッと笑えるシーンも散りばめられています。
第1話は、古田新太演じる50代で破天荒な末期の胃がん患者・本庄と岸井ゆきの演じる看護師・歩との出逢いと衝撃的な別れ、同じ病室に入院していた高齢女性の話が中心に描かれました。
同じ病室に入院していた山崎さんは乳がん、太田さんは糖尿病で認知症、野中さんは脳梗塞。
数時間前まで元気だったのに立て続けに三人とも逝ってしまい…という展開に愕然としました。でもこれこそ療養病棟ならではの当たり前の日常なのかもしれません。
看護師さんたちのこんな会話も、誰かの死に対していちいち重く考えていたらとても自分の気持ちが保てないからこその処世術なのでしょうか。
本庄は歩を合コンに誘ったり、タバコをトイレで吸って大騒ぎを起こしたりとかなりの問題患者ぶりを発揮。
でも自分の生きざまゆえ誰からも疎遠になってしまった寂しさや不安を歩には吐露し、かと思えば「俺なんだかんだ生き延びるんじゃねぇか」と奇跡を信じる言葉を口にしてみたり。
そんな本庄は止められていた大好きなタバコを吸った後に、あっけなく飛び下り自殺。この展開には正直心が追いついていけませんでした。
でも考えてみたらすぐ先の”死”と隣り合わせの生身の人間。精神的には当然落ちていて、誰でも魔が差すことはあるわけですよね…。
第2話は8年間在宅介護を続けていたけれど末期の肝臓がんで夫が入院し、その後介護疲れで入院してきた久田さん夫婦の話が中心に描かれました。
「おい」と夫の勝さんが呼ぶだけで妻の今日子さんはすべてが分かります。「いいですね。ここは。愛が溢れてる」「ですね」松山ケンイチ演じる医師・広野と歩がそう感じるほど一見仲睦まじく見える久田夫妻。
病気で暴力的になってしまった夫なのに、人工呼吸器を装着させて少しでも長生きしてほしいと願う泉ピン子演じる・水谷さんと偶然出会った今日子さん。「一日でも長く生きてほしいと心から言えるあなたがうらやましい」と。
今日子さんの本音は「アタシ、本当はずっとあの人のことが嫌いだったのかもしれない。52年間、全部主人の願うようにやってきた。二人きりになって介護生活になって24時間。あの人の世話に明け暮れる。アタシはあの人の手足じゃないのに…。一人になりたい。もうイヤ…」
勝さんの死の間際、耳元で「早く逝ってください」とつぶやき、その言葉を聞き届けた直後に勝さんは逝き…。
「俺は君じゃないとダメなんだ」19歳の時に勝さんに言われたあの言葉は呪いだったのか?愛してたんだか憎んでたんだか分からない…そう言った今日子さん。
いくら長年連れ添った夫婦でも、元は赤の他人。ここら辺、人間の本質をついている言葉だと感じました。
歩と広野の焼き鳥屋さんでの会話。いろんな患者さんとその家族を見てきた二人だからこその言葉のチョイスだと思いました。
第2話の歩のナレーション。
「人は愛に生きる…なんてどこかで聞いたけど、本当だろうか?」で始まり「人は愛に生きる…のかもしれない。でもそれは、美しいけど残酷で、最後はどっちも抱えていくしかないんだ」で終わりました。
″生と死″を見つめる時に人は自分の心と真正面から向き合い、究極の自分の本音を知るものなのかもしれませんね。
歩自身も、妹・佐都子が不登校から摂食障害、自傷行為を繰り返し「死にたい」と言うようになり…。家で暴れては母を苦しめているという厄介な家族を抱えていて。
このドラマは全4話らしいので、あと2話の中で歩の家族のこと、なにやら抱えていそうな広野のこと…すべてクリアになるのかどうかも気になります。
重たいドラマは敬遠されがちな昨今ですが、高齢化社会の日本においては目を背けてばかりいられない深いテーマを描いているドラマ『お別れホスピタル』。観て絶対損はしないと思います。
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