よぉ、おまえ。[ショートショート小説]

西野績葉
2019年9月19日
ひきこもり文学大賞応募作品

『よぉ、おまえ。』

よぉ、おまえ。

どこにいるんだ?

くそ、また架空の友達に話してる。


誰も俺のことなんか理解しちゃくれねぇんだ。

この1週間、風呂にも入ってないし、どこにも出かけてねぇ。

食パンに何かを塗ったくって食って、キュウリを健康のためにってかじってる。

だいたいパソコンの前に座ってる。もしくは最近買ったばっかりのスマホ。

俺は時代に取り残されてる。

外行きたくないし、全部ネットだけで契約したんだが。


どーしてこうなっちまったんだ。

まぁいい。考えるのはやめだ。


最近、お前は知ってるだろ、俺の向上心。


できないことをやってみるんだ。

昨日はだから、起きてる間、ずっと同じ窓の外を見てたよな。


パソコンやりたかったけど我慢した。

音楽きききたかったけど、我慢した。

苦痛だったぜ。だが、やり遂げた。


俺の苦痛は、お前にしかわかんねーことだ。


毎日何か嫌なことか、もしくはした事ないことを一つだけやるんだ。

チャレンジ精神さ。


そうしたら、そのうち昼間に外に出られるようにもなるかも。


都心に住んでなくて良かったぜ、それだけはまだマシな方だ。

あんなに大勢の人間、気持ち悪くてしょうがねえ。それぞれに膨大な人生があるんだぜ。気色悪すぎる。ゴミかなんかかと思わないとやってられない。


なあ、お前さんよ。


俺は誰も信じることができねえよ、あらゆる人間を友達だなんて言ってはばからない人間ばかりだ。

ネットみてると、そんなに簡単に親友なんて言っちゃうんだな。

俺はお前も知ってると思うけど、ネットで、何か情報発信をしたりはしない。見るだけだ。そこは徹底してる。ハッキングとか怖いじゃん。監視社会なんだよ、既に。


        ➡︎



その日、俺は夢を見た。

腰まであるロングヘアだけど、見たこともない女。最後に現実で女を見たのはいつだったっけ?

だいたい仕送りだけしかしてこない父親の金で生活しているけど、生きているんだかどうだかも怪しいのが俺の人生。

この夢に出てくる女もどっかで見た映像とかそういうもののミックスなんだろう、夢の中なのに、なんでか知らないが、冷静にそんなことを考えていた。


彼女の口は動いていたが、その音は聞こえることがなかった。


        ⬅︎


お前さんよ。

結局3時間しか眠れなかったぜ、横になってたのは半日ぐらいはぐらいは横になってたかな。

不眠症なんだよな。

さっきの女は、なんだったんだろうな。

やけに鮮明な夢だった。

だが、夢のことなんか考えたってしょうがねえ。


仕送りがあるとはいえ、裕福とは言えない。

それに正直、仕送りをもらってることも精神的に負担だ。かといって、俺が働けるとは到底思えねぇ。引け目がある。だが、自殺もする勇気もない。っていうか、別に死ななくても何とかなってるし、いいやって感じだ。

そんなことお前にはわかってるって?


そうだったよな。


まだ眠いんだよ、なんとか寝たいな。


そういえばこないだ一日中見つめてた、窓の外、雑草だらけだったな、花の一つも咲いてりゃいいのに。

こんなクソ田舎でも保育園の子供が引率者に連れられて練り歩いてくんだよな。

俺の人生と交わることのねー光景だよ。


あんまり現実については考えないようにしてる。

だけどさ、やっぱどうにかなんねーかなとは思うよな。だけど、ステップがわかんねー。人に頼ってもいいかなって思うこともあんだけどさ。

やっぱりいまいち信用できねーよな。

大体、期待しすぎなんだろうな。

サポートなんとかステーションとかさ、あるらしいじゃん。


だけど、結局それ言ったって、やったやつの話、ネットで見ると、ろくなこと書いてないよな。


なんだか、大体それで働いて俺の気持ちが楽になるのかよ。働いたところでさ、別に生活していけるほどの金はまず稼げないぜ、俺がめちゃめちゃ金かからない生活やってるから、何とかなってるだけの話だよな。実際、家賃、光熱費込みで、6万円だぜ。

いっそナマポにでもなりてぇよな。

でも、それは俺の親が生きてるうちは許されねぇし。

別に思いつめちゃいねえさ、心配すんなよ。

自殺しようとも思ってねえよ。俺にはその思いつめるだけの度胸すらないのさ。


アル中になることだけを気をつけてるんだわ。

ガキの頃、親父がアル中でさ。

嫌だったんだよな。


また寝れそうだからちょっと寝てみるわ。

夢の中でも声は聞こえなかったけどさ、俺もお前に話す一方だよ。


        ➡︎


また鮮明な夢を見た。というか、見ている。女は髪の毛を風に揺らしながらこっちを見てる。別に哀れんだ感じではない。実際外に出てみたこともあるんだ。何だこいつって感じの目で見られたよ。でも、この人はそんなことないな。子供の頃の同級生よりはマシな目で俺のことを見てるって気がした。

だから気が向いて話しかけてみようと思ったんだけど、どうにも話すことができない。

そういうルールみたいだな、この夢。





どれ位の時間が経ったかな、よくわからないけど。ずっと見つめあってたな。

彼女は麦わら帽子をしてた。ワンピースかな、そういう服で。なんと頼りなさそうで病弱そうな感じの女。別にタイプでもなんでもない。むしろ、もうちょっと元気そうな感じのやつの方がタイプな気もする。



なんかさ、女は瞬きしたんだ。

よくよく見てみると、瞬きしない人間はいないよな。

だけど、普段人の顔なんて見ないからさ、忘れてたよ。人が瞬きするなんてことは。

なんとなくちょっと必死な表情で、でも、とぼけた感じがするのはその女のキャラクターなのかね。


3回瞬きをした。そして、首を縦に振る。

俺も首を縦に振る。いや、実際降ってるのかは分からないんだけど、そういうような気持ち。

だんだん分かってきた。


何か俺に伝えようとしてるんだろう。

だから、相手が3回まばたきして、首を縦に振った時、俺が3回首を縦に振ったんだ。


そしたらなんと、微笑みやがったんだ。

なんだろうな、わざとらしくない、ほほえみなんだよ。

ドラマとかの中に出てくる笑顔とかじゃない。

心底ほっとしたって感じ。

本当にこれ、夢だよな?


お前にはそれが分かるんだろう?


そうやって瞬きと頷きを繰り返して、夢が終わった。


         ⬅︎


気が付いたら俺は目が覚めてた。

お前、早くメモしろって言いたそうにしてるような。

安心しろいてもたってもいられなくて、俺はもうすでにメモしてる。


やり取りした数列、387…9…1…だんだん頭がぼやけてく。夢の内容を忘れてく。だから必死に書き留める。何を俺は夢にこんなにムキになってんのさ。

だけど、窓の外を18時間見詰めるくらいのことをしてるんだからさ。何かちょっと特別っぽいだろう?



数字は書き終わった。

これは一体何なんだ。


         ⬇


また、イタズラ電話かよ。今日何回目なんだ。

番号、通知は…通知不可能。


仕方がないな、こんなだから電話なんかを持ちたくなかったんだよ。WiFi運用で十分じゃないかよ、スマホなんか。電話番号なんか持っていったってしょうがねえしさ。だけど、仕方なく思ってただけなんだからさ。

ネットにも書き込んでないし、なんなんだろう盗聴器とか? だけど、俺のことを監視したって仕方ないだろう。何の価値もない人間だ


この間必死こいて数値をメモした紙が俺の手元にある。

そういえばこれ…

俺はとっさにダイヤルパッドにその番号を入力した。電話をかけた。そして2回のコール音の後に相手が出た。衝動的だった。



「もしもし?」


女だった。俺はその相手がたぶん夢で会った相手だと思った。

怖くなって電話を切った。


でも、すぐさまかかってきた。そういえば番号を非通知してなかった!


そんな顔するなよ。お前だって俺の創造物だ。

電話鳴ってる。何の設定もしていないから、初期設定のままの着信音。


仕方ないから出ることにする。だが、やはり通知不可能と書いてある。こんなもんに出てもまたイタズラじゃ?


「もしもし?」


だが、あの女の声だった。

なんなんだ。


「ぁの……」

「え? どちらさまですか?」

なんていや、いいんだ、

考えてる暇もない。

だけど、どうせ相手は知らない人間だ。

「夢の中で会いませんでしたか?」

変態だと思われた。絶対間違いない。

だが、相手の答えは予想を覆すもので。

「……ほんとに君なの?」


それが俺と彼女の出会いだったってお前は知ってるよね。


        ⬆︎


俺は何でだか彼女には何だって話せる気がした。

俺の言葉はお前に語る以上に超絶にそれはそれは言葉が出てきたさ。

そいで、今は普通に外にも出られるようになったとは言えないけど、人生が前向きになったし、相手に会いたい一心で少しはマシな人間になれたはず。


友達なんていない?

だけどさ、そんなの関係ない。

ただ、信じることが必要だっただけだ。


実際の彼女はどうなったかって?


夢で見た通りの女だったよ。それにまずびっくりした。不思議なこともあるもんだなって。

だけどさ、他人の存在が自分を変えたんだ。不思議なことがあったことよりも、そっちの方が不思議な話だよな。

しかもあの電話番号には他の誰かがかけても繋がらなかったんだ。実際、相手から聞いた番号も別のものだった。


お前、まだそこにいるのか?


俺のこと、まだ見てるのか?

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