見出し画像

<日本灯台紀行 旅日誌>2021年度版

<日本灯台紀行・旅日誌>2021年度版

11次灯台旅 網走編

2021年10月5.6.7.8日

二日目 #7 能取岬灯台撮影1

2021年10月6日水曜日。午前五時に目が覚めた。北海道網走市の大手ビジネスホテルの一室だ。<六時に起床 朝の支度>。と、その前に、昨晩、ホテルに着いてからのことを少し書き残しておこう。

能取岬灯台から網走の市街地までは、ほんの二十分ほどだ。途中で、コンビニに寄り、食料調達、次に<すき家>で牛丼の特盛を買った。ホテルの駐車場は、思いのほか混んでいて、平面駐車場は、ほぼいっぱい。立体駐車場に行ってくれと言われたが、係りのおじさんに、無理を言って、平面駐車場の端の方に止めた。駐車しづらい場所が、一台空いていたのだ。

ホテルのフロントには、何人か客がいた。少し待って、黄色の制服を着た女性の応対を受けた。ビジネスライクで問題はない。鍵をもらって、行こうとしたとき、今日は<カレー>のサービスがありますから、と言われた。午後七時に一階のロビーで、先着40食限定、と張り紙にもあった。

部屋に入ると、たばこの臭いがした。禁煙部屋が取れずに、喫煙部屋なのだ。壁のハンガー掛けにぶら下がっていた<消臭剤>のスプレーを、これでもかというほど、部屋中にふりまいた。

省略しよう。特盛牛丼を食べて、<17:30>昼寝。<18:30>に起き、<19:00>ちょっと前に部屋を出て、一階に<カレー>を取りに行く。その際、エレベーターが混んでいて、待たされる。これだけ大きなホテルなのに、エレベーターが一台しかない!しかも、四、五人乗ればいっぱいだ。ま、いい。管理上の問題で、わざと一台にしているのだろう。

夕食は済ませてしまったので、ゲットした<カレー>は明日の昼食用としよう。いったん外に出て、駐車場の車の中に入れた。このとき、たしか、上下グレーのスウェットだったと思う。というのも、ホテルの部屋着は各自、エレベーター横の棚から持っていくシステムになっていて、先ほど部屋に上がる際、取り忘れたのだ。もっとも、ホテルの部屋着で、室外に出るようなことはしない。若い頃、ホテルの廊下やロビーは、街中と同じ、と誰かに聞いたことがあり、そのへんはいまだに、お利口さんだ。あとは、これといったこともなかった。部屋に戻り、テレビをつけ、日誌のメモ書きをした。<9時 ねる 眠りが浅い 物音がうるさい>。

朝になった。洗面、身支度など、すべて終え、少し時間調整して、六時半ちょっと前に、一階に朝食弁当を取りに行く。そうだ、昨晩の<カレー>の配給?の時もそうだったが、朝の弁当の時も多少の列ができて、並んだ。ビジネスホテルの宿命だと、端から諦めてはいるが、なんだか、自分が貧乏人のような気がした。事実、貧乏人ではあるが、たまの旅行で、朝食弁当をもらうために、あさっぱらから、並ばされるほど貧乏だとは思っていないのだ。

<7:30 出発 道をまちがえる>。灯台へ行く道は、もう覚えた、と思ったので、ナビはセットしなかった。コンビニの交差点を左折、突き当りを右折、あとはほぼ一本道だ。しかし、これは思い違いだったわけで、実際は、もう少し複雑で、あと一、二回、右左折を繰り返さなければ、ダメだったのだ。

途中で、方向が違うことに気づいた。なんだか元に戻っている。そのうち、とうとう、さっきのコンビニに戻ってしまった。一瞬、キツネにつままれたようだった。自分の思い違いを了解できず、同じようなコンビニが二軒あるのかな、とさえ思った。急いでナビをセットして、案内を仰いだ。再び、大きな道路を左折し、坂を上っていくと、見覚えのある海沿いの道で出た。一件落着。

朝の八時半過ぎに、能取岬灯台に着いた。ほぼ快晴、いい天気だ。まずは、牧場の出入り口に駐車して、丘の下の灯台を何枚か撮った。ま、これはちょっとした下見だ。能取岬灯台のベストポイントが、晴れた日には、どのような感じになっているのか、見たかったのだ。やはり、最高だった。あとでゆっくり撮りに来よう。

長居はせず、すぐに、下に下りた。駐車場に車を止め、さっそく灯台周りの午前の撮影を開始した。能取岬灯台は、八角形をしている。いま見えているのは、そのうちの三面だが、右側の面に日が当たっている。立体的に見え、実にいい。日差しを受け、広場の緑も、空も、海も、周囲に群生しているクマ笹さえもが、美しい色合いだ。

昨日下見した道順で、歩き撮りを始めた。ただし、まったく同じ道順ではなく、灯台に近寄ったり、遠ざかったりしながら、ベストのポイントを探した。いや、探したというよりは、どういうふうに見えるのか、という好奇心の方が勝っていた。

昨日の曇り空とは違い、いい天気だ。位置取りは同じでも、灯台は、全く別物に見えた。とくに、白黒の縞が、目に鮮やかだった。灯台のすぐ近くまで寄って、太陽を灯台の先端で隠してみた。おなじみの、逆光撮りだ。だが、これは、二匹目の、いや、三匹目のどじょうかな、面白くなかった。いわゆる、自己模倣というやつで、やってはいけないことだ。

灯台の正面辺りを、ゆるゆる撮り歩きしながら、北東側の柵まで来た。昨日はここで引き返した。だが今日は、柵沿いの道を、灯台を背にして、さらに歩いた。遠ざかるにつれて、柵はすこし左にカーブする。と、<能取岬>の側景、というか、側面が見えた。荒々しい光景で<絶景>だ。

灯台はと言えば、この<能取岬>の先端ではなく、やや平坦になった陸地側に立っている。したがって、灯台と岬の断崖絶壁との間にはかなりの距離がある。しかも、断崖際の柵が、画面を真ん中で二分割している。構図的には、実によろしくない。それでも、しつこく撮った。だが、やはり、無理だ。この位置取りは写真にならない。

向き直った。オホーツク海に面した、柵沿いの道は、断崖沿いに、さらに北東方向へとのびていた。素晴らしい景色だが、引き返した。これ以上行ったら、灯台が、広大な空と海と大地の中に溶け込んでしまう。おそらくは、灯台、あるいは、灯台の見える風景、という概念にこだわっているのだろう。

自然の風景に美しさを感じる。だが、それを写真に撮ろうとは思わない。むろん、それを写し取る力量も持ち合わせていないが、自分が撮りたいのは、美しい自然の中に屹立している事物だ。その違和な風景、異質の調和に魅かれる。写真に撮りたいと思う。目の前に見えている<能取岬灯台>が、その一例だ。

もどそう。踵を返し、柵に沿って、灯台の右側面、さらには、背面辺りにまで来た。この辺りは、例の、鉄柱を囲んだステンの柵が、灯台とかぶってしまうので、ほとんど写真にならない場所だ。やや撮影モードが緩んだのだろう、後ろを振り返って、海や断崖をスナップした。これは、ちょっとしたスケベ心で、後々の≪名づけえぬもの≫朗読の際に、背景画像にしようと思っている。

さらに、柵に沿って回り込んでいくと、木製の大きなテーブルが並んでいる。灯台背面から左側面にかけての場所は、昨日の下見でも思ったが、比較的いい位置取りだ。小山になった芝草広場に点在しているベンチがポイントになり、構図的にも安定している。おりしも、背景の青空に、大きな雲が流れてきた。左端には、少しだが、海が見え、鉄柱を囲んだステンの柵も、灯台から離れて、おとなしくなった。ここぞとばかりに、撮りまくった。

だが、そのうちには、雲も流れ、灯台の背後は、青空、というよりは、<青>一色になった。こうなると、どことなく間が抜けて、バランスが悪い。引き上げ時だ。それに、少し疲れたよ。車に戻った。十時半頃だったと思う。二時間ほど、灯台の周りで撮っていたわけだ。休憩しよう。

二日目 #8 能取岬灯台撮影2

早めの昼食だ。運転席で、ホテルでゲットした<カレー>と昨晩コンビニで買ったおにぎりを食べた。そのあと、一息入れて、丘の上に移動した。空も海も牧草地も、日差しを受けて、輝いている。三脚に望遠カメラを装着して、肩に担いだ。標準ズームの方は首にかけた。これだけでもかなり重い。溝を越え、切り株だらけの地面を見ながら、伐採地をゆっくり進んだ。

丘のふちには柵がある。扉が一か所あり、開いている。四方八方、人の姿は見えない。躊躇うことなく、牧草地へ入り込んだ。さてと、どこに三脚を立てるべきか。水平線と灯台が垂直に交差する地点がよろしい。たしか、三脚を適当なところにおいて、といっても、斜面になっているので、そのまま置いては倒れてしまう。三本ある足のうち、二本を少し短くして、三脚を安定させてから、手ぶらで、少し右に移動した。

眼下の灯台と水平線をじっと見た。斜面が尽きる所に白黒だんだら縞の灯台があり、その向こうが海だ。だが、かなり距離がある。はたして、水平線と灯台が垂直に交差しているのか、ちょっと、判断に迷った。完全に、100%垂直ではないような気がした。右に少し動いた。しかし、結果は、さらに悪い。元居た場所に戻った。こっちの方がまだましだ。

望遠カメラ付きの三脚は、離れたところにポツンと取り残されていた。カメラとレンズ、それに三脚で、60万以上した。自分の力量にはそぐわない、プロ仕様の道具だが、後悔はしていない。それどころか、見るたび、触るたびに、ある種の満足感を覚える。その三脚を持ってきて、斜面にしっかり固定し、撮り出した。望遠最大値の400mmで、灯台は、画面いっぱいに入る。だが、それだと、何か面白くない。周囲の風景も入れなければだめだ。最小値の80mmにまで、徐々にレンズを回した。う~ん、判断が難しい。もう一度400mmに戻して、アップ、近景、中景、遠景と、段階的に撮っておいた。

さてと、あとは、空の様子が変わるまで、このまま待機だ。といっても、じっとしていたわけではない。三脚から離れて、さらに、右へ左へと、辺りをぶらついた。北東側には、知床半島が見える。いい景色だ。肩掛けした標準ズーム付きの軽いカメラで、ぱちぱち撮っているうちに、ふと、牧草地を縦に区切っている柵が気になった。柵の両側一メートルほどが、枯れ草で茶色になっていて、小道のように見える。

この小道が牧草地の中をうねうねしていたら、気にはならなかったろう。茶色の小道が牧草地を縦に分断しているのが気になったのだ。つまり、牧草地、海、空という横広がりの画面の中で、縦ラインは灯台だけにしたい。強調したいがためだ。

となれば、この小道は、画面から除外してしまえばいい。ま、そう極端に考えなくてもいい。左に位置取りを少しかえれば、小道の柵は画面に入らないだろう。実際にやってみた。だが、そうすると、くどいようだが、水平線と灯台との垂直交差が崩れてしまう。元の位置に戻った。こうなったら仕方ない。小道を画角操作で画面から除外した。

そうこうしているうちに、待望の雲が出てきた。といっても、背景の空にではなくて、真上の太陽の辺りだ。緑一色の牧草地が、部分的に黒くなったり、また元に戻ったり、なかなか面白い。流れ雲の影が、濃くなったり薄くなったり、大きくなったり小さくなったり、自在に変化しているのだ。そのうち、一瞬、眼下の牧草地は真っ黒になってしまった。照ったり陰ったり、というのは写真的には面白い現象だが、陰りっぱなし、では写真にならない。だが少し経つと、雲は流れてしまい、牧草地の鮮やかな緑が戻ってきた。

あとは、三脚を立てた位置を起点にして、緑の斜面をまっすぐ下りながら撮った。灯台に少しずつ近づいて行ったわけだから、ほとんど画面の構図は変わらない。ただ、丘の上に居た時は、灯台の先端まで海があった。それが、丘を下るにつれて、海の位置が下がってきた。つまり、灯台の先端が、空と海の境にかかるようになってきた。ちょっと考えた。これも悪くはない、悪くはないが、灯台の背後は海だけのほうがいい。また、三脚の置いてある丘の上へ戻った。

正面を見ると、それまでは真っ青だった空に、左から雲がかかり始めた。これは、期待していたことで、真っ青な空もいいが、少し雲があった方がいい。ねばったかいがあったわけだ。だが、じきに、雲の量が多くなり、灯台の上から青空が消えていった。

もっとも、まだ陽射しがあったので、写真は撮れた。左側、つまり西の空を見たのだと思う。巨大な雲の層が、こちらへ押し寄せてくる。そのうちには、日差しがなくなるだろう。丘の上からの、ベストポイントでの撮影は、ほぼ完了していたし、満足していた。日差しのなくなる前に、灯台周りの午後の撮影をしよう。躊躇うことなく、三脚をたたみ、引き上げた。

車で坂を下った。下りきったところに路駐して、灯台を、牧草地を手前に入れて四、五枚撮った。例の、垂直交差の問題からすれば、ベターではないけれど、違ったアングル、という意味では、撮っておいても無駄にはなるまい。いやいや、<無駄>など、この世に一つもない!あるとすれば、<人間>だけだろう。おっと、うっかり、口が滑ってしまった。

灯台前の駐車場に着いた。先ほどは気づかなかったが、駐車場の端にある歩道からのアングルが意外にいい。目の前に、腰高のクマ笹が自生している。クマ笹と灯台との取り合わせが、いかにも北海道らしい、でしょ。わざわざ、歩道の一番端まで行って、撮り歩きしながら戻ってきた。

灯台広場に入った。午後の撮影開始、と意気込みたいところだが、何やら、空模様が怪しい。広場に踏みこんで、昨日よりは近い位置取りで、灯台を左側面から撮った。さらに、木製のベンチのそばで撮り、背面からも撮った。この間、いくらもたっていないと思うが、刻一刻と、青空が大きな雲の塊に侵食されていった。とはいえ、いまだ多少の日差しがあり、写真的には面白い。

そうだ、日差しの加減で、極端に寒くなったり暑くなったりした。そのたびに、ウォーマーを脱いだり着たりと、難儀した。寒いなら寒いなりに、暑いなら暑いなりに、対処のしようもある。実際、これまでの写真撮影では対処してきたのだ。だが、日差しの如何で、これほど体感温度が変化するのは、今回が初めてだ。風が冷たすぎる。やはり、北海道に来るには、季節が少し遅すぎた。

そのうち、空は大きな灰色の雲に覆われてしまった。少し明るいところもあるが、写真撮影はもう無理でしょ。ま、予報では、三時過ぎからは曇りマークがついている。予期していたこととはいえ、数日前までは、全日晴れマークだったわけで、やや悔しい。雲の押し寄せてくる方向、すなわち、西の空を見た。雲の層はさらに厚くなり、巨大化している。色も灰色から黒くなっている。

ふと思いついて、灯台の右側面に回ってみた。この不穏な雲を背景に、灯台を撮ってみよう。結果は、まあ~、そんなもんでしょう。白黒だんだら縞の灯台には、やはり、青空のほうがよく似合う。空一面の圧倒的な雲軍団の、白から灰色、灰色から黒への諧調が、どれほどか魅力的であっても、写真がモノクロ写真になってしまうのだ。自分の腕では撮ることのできない世界だった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?