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春と熊


2023.2.13

朝から雨。パートナーの両親が遅い誕生日プレゼントに茅乃舎の出汁と青汁を送ってくれたので、お礼のハガキを出しがてら散歩。友人の和菓子事業のブランドマネージメントをすこし手伝うことになったのでミーティング。グルテンフリーとヴィーガンで作っている。お昼は鍋を作り、午後は眼科の定期検診と漢方内科。視野の欠けはほとんど変わりない。夕方、雨足が強くなる。みかんや春菊などを買い、パートナーと稲村ヶ崎の温泉で待ち合わせ。久々の熱いお湯に感動する。もくもくの湯気のなか丸裸になってお湯にどぶんといく瞬間は最高にきもちがいい。なにもかもどうでもよくなる。頭のてっぺんから足の先まですっかりからっぽになってじんわり癒される。夜は昼の鍋の残りに米粉ラーメンを入れて食べ、パートナーの編集したドキュメンタリーの鑑賞会をして、ああでもないこうでもないと意見を言い合う。


2023.2.14

朝からどんより曇り空。朝ごはんによもぎもち、オーサワのわかめスープ、蒸したあわびだけ、ブロッコリー、ミニトマト。もちには納豆としらす。本の原稿を書く。首ががちがちになってきてがまんできなくなると散歩にでる。帰ってからお昼にキャベツと玉ねぎと人参のシチューを作ったらもう三時。食べてまた少し書いて、夕方の散歩へ。昼間と打って変わって肌を突きさすような寒さ。雪が降りそう。行ったことのない道を入っていくと寂れたお寺にでた。もう住職などはいないようだった。どんよりした池の真上の少し高くなった丘に建つそこは人通りからも隠れており、時間の流れからとっくに忘れ去られていた。生チョコが食べたいというパートナーのためにスーパーへ寄って帰宅。シチューの残りを使ってトマトリゾットを作り、長芋の海苔あえ、ほうれん草おひたし、鰆の塩麹焼きにする。


2023.2.15

朝から晴れる予報だったのに分厚い雲。晴れ間はしばらくお預けになりそう。午前中は仕事の調べものと本の原稿のつづき。いい調子で書いていたのにパートナーに昼ごはんのことをああだこうだ聞かれてうんざりする。いちおう食事をつくるのは私の担当なのでしょうがないのだけど、今ものすごく集中していると見ればわかるのだからすこしは自分で判断してくれと思う、もしくは唐突に用件を言い始める前に「ちょっと今いい?」とひとこと聞いてほしい。間髪入れず自分の都合だけで何かを言ったり聞いたりしてくるからこちらはすぐにリアクションできない。なのに、どうして「そうだよ」とか「ちがう」とかさえ言えないの?と首をかしげている。そもそも台所とひと続きのダイニングに私の机がなければこうはならない。ひとり部屋があればわずらわされずに集中できるんだけど。

あるもので簡単に鍋をつくって、また書く。散歩は森へ。外はとても寒い。道路に金色の星がおちていた。空から、なわけないよな。今が寒さの最後かな。春が待ち遠しい。しばらく歩くとがちがちになった首もすこしはほぐれる。からだの中から温まって気持ちがいい。昼の残りでかるく晩ごはんにして、辻堂のテラスモールで「イニシェリン島の精霊」をみる。後味はまったくよくないけど、脚本や演技が面白かった。戦争はまったくといってナンセンスでしかないゲームのようなものだ、ということを戦争をまったく描かずに描いている。ところでコリン・ファレルをみるといつもどこか知っている人のように思っていたのだが、そのわけがわかった。小学校の同級生だった古澤くんにそっくりなのだ。眉毛や目の感じ、輪郭、髪の毛の生え方みたいなのまでそっくりな気がする。今どんな顔をしているのかまったくわからないが、記憶の中の小学生の古澤くんにはそっくりだ。ついでに、俳優の友達のまささんにも似ている。古澤くんのほうはそっくりで、まささんはほんのりという感じ。


2023.2.16

やっと快晴。洗濯日和。掃除機を家じゅうかける。原稿のつづきをしたいが、ふと庭の大量の枯葉が気になって掃除をはじめてしまう。ずっと放っておいたのであちこちに溜まりに溜まっている。温かい季節は短いから、そのあいだすこしでも庭でくつろげるように居心地のいい場所にするつもり。片付けているとあっとういまに昼になり、昨日割引で買ったぶりでぶり大根にする。おかずは茎ブロッコリーときくらげを蒸して和えたもの、かき菜と豆腐の味噌汁。お米が炊きたてなので、それだけでごちそう。
スーパーとドラッグストアに日用品を買い出しにいく。いつも人が住んでいるんだかどうなんだかわからなかった家の前に、椅子やテーブル、棚、布団などたくさん出ていて、廃品回収らしきトラックが止まっている。久しぶりに天気がいいせいか家で作業する気にならず、森を超えて図書館にいく。「かまくらの女性史」という本を返して、予約していた永井荷風の「断腸亭日乗」を借りる。昔ながらの花屋さんで白と濃いピンク色のちいさな鉢植えを買う。大きめの鉢に植え替える。庭の隅に同じく放置していたままの割れた植木鉢とバケツ、古いごみ箱、十八歳のときに買ったとっくに錆びついた傘立て、そのほかよくわからない拾ったものなどをまとめる。明日捨てる。夕飯は牡蠣とかき菜と椎茸のあんかけに、にんじんしりしりを落花生みそで和えたもの。


2023.2.17

今日も晴れ。朝の散歩は久しぶりに海のほうへ。富士山の雪がぱっつんに切りそろえた前髪みたいでおかしかった。あたり一面が霞がかっていて、海は南国みたいに透き通っている。水平線のむこうまですっかり春の色。庭に置くテーブルを悩みに悩んでフリマサイトで注文する。折り畳み式でキャンプなどにも持っていける。原稿のつづきをするが、頭が痛い。花粉のせいかも。昼は偕楽でいつもの中華丼。戻って書く気がしないので、夕方の散歩を繰りあげて長谷のほうまで歩く。古い店構えの包丁屋さんで砥石を見る。お店の人はやや不親切で、砥石の違いを聞いてもぶっきらぼうに答えただけだったのでよくわからなかった。それ以上聞いてもうっとおしがられそうだったので、店をでる。かなやで美味しそうな五穀の丸もちを購入。このひと月ほど甘いものを食べなかったが生理中だからか欲しくなり、グルテンフリーカップケーキのお店に寄る。由比ヶ浜でとんびに見つからないように食べる。抹茶味がいい。

春の海はどの時間もうつくしい。掘立て小屋みたいなそばに採れたばかりのわかめがたくさん干してある。大きな肉の塊をふたつビニール袋にいれてぶらさげた男の人が前を歩いている。肉片だと認識するのにだいぶ時間がかかった。赤くて四角くてところどころ白い、妙な物体。あれがすこし前まで生きもので呼吸していたことを想像しにくい。大仏前からバスで帰る。仕事のミーティング。気づいたら真っ暗、慌てて夕食の支度。鱈のトマトスープ、じゃがいもグリルの青のり和え。夕食後、ヘルツォークの「グリズリーマン」を観る。とてもいいドキュメンタリー。結局自分を愛したかったんだろう。そのための手段として無謀にも野生熊の世界へ入っていった男によるはげしい自作自演の物語。けれど、自作自演でない人生などあるのだろうか?この人ほど強烈ではないにしても。





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