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韓国に惹かれるのは|ソウル日記6


前回までのソウル日記(抜粋)▽▼▽



2024.5.13(月)

ソウル六日目。朝、宿をでてふと、雑誌社AROUNDをたずねてみようと思った。(昨晩偶然通りかかったのだった↓)


行ってみると、ちょうど白いシャツを着た若い子がでてきた。日本から来て昨晩偶然前を通りかかったこと、四年前に取材をしてくれた元編集者のZuyeonさんのこと、できあがった雑誌を国際便で送ってくれたが届かなかったことを伝えた。ちょうど地下にライブラリがオープンしたところなので、よかったらゆっくりしていってくださいと、案内してくれた。ラベンダーのハーブティーを淹れてくれて、誌面もついに手にすることができた。

Zuyeonさんにも連絡がとれて、静岡を旅行中に具合がわるくなり入院していたけど、今はもう元気だと言った。

2020年の夏でした
素敵なライブラリだった


前回見られなかった展示「韓国人の一年」や「韓国人の一生」をみに、バスでもういちど民族博物館へ。バスの車窓からみる街並みが、すこしづつ、いとおしくなる。ソウルの片隅で目覚め、歩き、ごはんを食べ、人に会う。そういう時間を重ねるほど、この街にいることが、この街にいたことに変わっていく。知らなかったものを、知ってしまうことは、うれしくてせつない。知ってしまったものは、どんどん、いとおしくなる。

展示では、韓国の四季や人びとの暮らし、大切にしている考えかたやもの、受け継がれてきたものにふれた。日本と韓国は、こんなに近くて、似ている。かたや大陸、かたや島国だけれど、風土や文化、言語にも、かさなる部分がある。そもそも、日本列島にいた縄文人と、大陸から渡ってきた人びとがまざりあって、日本人になった。

似ているようでちがう。ちがうようで、似ている。その、ぼんやりしていたら雑にひとくくりにして見のがしてしまいそうな部分に、つよく惹かれる。もっとも近い外国で、だからこそ、わかりあえそうな気がしてしまう。なのに、近いからこそ、簡単にわかりあえない。ぶつかる。摩擦がある。力関係がうまれる。痛む。ひりひりする。ふたつの国どうしの関係は、家族によく似ている。私にとって、もっとも原始で、ゆえに近くておわりのない受難に、すうっとかさなる。



お昼は、マナニムレシピという、ヴィーガン料理店へ。トックスープをたのんだ。お店は、三つ編みにナプキンをかぶった小さなおばちゃんがひとりでやっている。すみません、と話しかけると、私の顔の前におもいきりひらいた手のひらをパーにして、おばちゃんは出した。子どもみたいだった。注文をしても、ものすごくつっけんどんだった。
そこに、韓国人のお客さんがひとりでやってきた。その人が席につくと、おばちゃんが大きな声で何かを言った。たぶん、ひとりなのに四人席に座ったことを、咎められたんだと思う。顔を赤くして帰ってしまった。

めげずにえがおで謙虚にしていたら、お会計のとき、おばちゃんがちらりと私の目をみて、伏し目がちに「韓国語うまいね」と言った。ほんとう、うれしい、と言ったら、色々、英語で話しかけてくれた。なんだ、ほんとうはお茶目な人なんだ。話をするのも好きなんだ。調理もサーブも片付けもぜんぶひとりでやるから、いっぱいいっぱいなんだ。そう思った。
トックスープは塩気もほとんどなく、熱くもつめたくもなく、ぬるい湯みたいにやさしい味だった。体調がわるいとき、食べすぎたとき、食欲がないときにぴったりだと思う。ほかのメニューもたべてみたい。食後、ソウル現代美術館へ。展示は、ちょっと期待はずれ。


ソウル現代美術館の展示
美術館の書店


東大門へ移動する。どこかの漁師町にでもきたかなと思うような、雑然とした魚定食の店へ入る。Tシャツにサンダルのおばちゃんたちが、椅子に座ってうちわでぼうっとあおいだり、たばこを吸ったり、網焼きで魚を焼いたり、スマホをいじったりしている。店内は、地元のお客さんだけ。
私はきのこと豆腐の辛い鍋。Yは、焼き魚定食(魚の名まえはわすれてしまった)。鍋はとても辛かったけど、おいしかった。

二度目の広蔵市場で、チャプチェ、キンパ、おでん。チャプチェを作るのをみていると、砂糖をどっさり入れていた。お菓子みたいに甘かった。おでんは日本のに似ていて、出汁がおいしく、ほっとする。ほんのりピリ辛。
市場の隅っこの、おばあちゃんがやっている店で棗を買う。椎茸と昆布のいつもの出汁にくわえると美味しい。升に大盛りいれてくれた。

今回、韓国おでんが好きになった
広蔵市場の活気はやっぱりすごい
なつめの店のおばあちゃん
棗は英名jujubeとホストがおしえてくれた



夕暮れ、はじめて漢江へ。川べりに座って、コンビニのオレンジジュースを飲んだ。大学生くらいの若い人たちが、あちこち花が咲くみたいに憩っていた。路上ライブをやったり、ダンスをしたり、お菓子の袋をひろげたり。ふとい川は人びとを、見守っているようでもあり、まったく気にかけていないようでもあり、たゆたゆと流れていた。川むこうの街も、開発がどんどんすすんでいた。今回はいちども、漢江を渡っていない。

もうすこし漢江をみていたいYと別れて、電車にのる。ソンスの書店index shopへ。表紙に惹かれた本を一冊買う。二階のカフェで、お茶を飲んだ。Yは合流して、ティラミスをたべた。


index shop
index shopのカフェ



ソウル滞在もあと一日。つづく。


お読みいただきありがとうございました。 日記やエッセイの内容をまとめて書籍化する予定です。 サポートいただいた金額はそのための費用にさせていただきます。