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コミュニケーション・ツールとしてのデジタル教科書: 藤田健先生(山口大学)

デジタル教科書を、学生と教員、そして学生間のコミュニケーション手段として使いこなす事例を詳しく紹介していただきました。コロナによるオンライン化を学生とコミュニケーションがとりやすくなる好機だと捉えた藤田先生のポジティブな姿勢が印象的です。

はじめに

 デジタル教科書は、「紙媒体の教科書を電子版にしたものだ」と思われることが多いように思う。見た目はたしかにそうなのだが、筆者からすると、さまざまな可能性に開かれた教育ツールに見える。そこで本稿は、デジタル教科書をコミュニケーション・ツールとして捉え、それを活用した筆者の取り組みを紹介したい。

授業中のコミュニケーションの促進

授業の進め方を変えたきっかけ

 筆者は「商品開発論」(2年生以上の50~100名程度の受講生)を担当している。以前は、商品開発の基礎知識を一方的に伝達する講義形式の授業を行っていた。しかし、世の中にはアクティブ・ラーニングが推奨される流れにあるなかで、旧態依然とした自分の授業を、少しでも変えていきたいという思いがあった。そして、受講生により深く考えてもらったり、他の受講生からの学びを得てもらったりする授業はできないかと模索を続けていた。
 そんな折り、コロナ禍がやってきた。2020年前期は、多くの先生と同じように、四苦八苦しながらオンライン授業に取り組んだ。たしかにオンライン授業は苦労も多かったのだが、良いことにも気づいた。それが、「受講生とすぐにコミュニケーションがとれること」であった。授業の進め方を工夫すれば、教員が受講生を授業に巻き込み、コミュニケーションを通して多くの学びを提供する授業ができるのではないかと考えるようになった。そこで筆者は、2020年後期の「商品開発論」から、デジタル教科書を取り入れたコミュニケーション中心の授業に取り組み始めた。

授業の進め方

 教科書は、西川英彦・廣田章光編著『1からの商品企画』のデジタル教科書(大学生協事業連合製のアプリ「VW-eBooks 専門書学習ビューア」)を使用している。デジタル教科書を使うことは筆者にとって初めての経験であったが、山口大学生協にデジタル教科書の導入・運用を支援していただけたことで、スムーズに授業に取り入れることができた。
 デジタル教科書は、マーカーを引いたりコメント(付箋)を貼り付けたりすることができる上に、それらを教員・受講生の全員で共有することができる。「商品開発論」の授業は、こうした機能を活用することを前提に、①予習、②授業中のコミュニケーション、③課題レポートという流れで組み立てた。
 第1の予習は、「次の章を読んで、大切だと思う箇所にマーカーを引き、質問・感想をLMS(Learning Management System)に提出しなさい」という課題を課した(1回あたり150字程度で2~3点の配点)。質問・感想の提出締切は授業前日のお昼頃に設定しておき、教員は翌日午後の授業開始時までに授業準備を進めた。具体的には、教員が質問・感想のすべてに目を通したうえで、授業の流れを考えて、授業の展開に使えそうな質問・感想を付箋にコピーし、教科書の該当ページに貼り付けておいた(下記イメージ参照)。こうした授業準備が、授業中のコミュニケーションを促進した。

教科書に貼り付けた感想・質問

 第2の授業中のコミュニケーションは、受講生を授業に巻き込み、教科書の内容をより深く理解してもらうことを目指した。そのために、教員が冒頭に章の概要を説明したあと、付箋の質問・感想を拾い上げながら、受講生とコミュニケーションをとっていった。
 質問については、受講生に質問の意図や背景を説明してもらったり、教員が質問に回答した後に、さらに受講生から意見や感想を求めたりした。感想についても、予習段階で150字では書ききれなかった内容を詳しく話してもらったり、教員が意見を述べたり、追加の問いかけをしたりした。こうしたコミュニケーションの時間を多くとることで、教科書に書かれていないような考え方や事例を共有し、教科書の理解を深めるように促した。なお、教員とのコミュニケーションを終えた受講生には、2~3点が与えられる。
 第3の課題レポートは、1つの部(おおむね4章分)が終わるごとに課すようにした。課題の内容は、①探索的調査の計画を立ててみよう、②コンセプトを考えてみよう、③検証的調査の計画を考えてみよう、④プロモーション計画を提案しようといった応用力を問うものであった。受講生はマーカーや付箋のある部分を重点的に読み返し、課題に取り組んでくれたようで、質の高いレポートが提出された。『1からの商品企画』は実践的な知識が詰め込まれているため、受講生はその要点を振り返りつつ課題を検討してくれたことで、より実践に近い考え方を身につけることができたと思う。なお、課題レポートは、1回10~15点の配点にしている。


授業の評価と今後の課題

 デジタル教科書を活用した授業について、学生たちは次のように評価していた。

  1. 自分の付箋が貼り付けられているかもしれないので、教科書を見る機会が増えた。

  2. 自分の付箋が貼られていたら、授業中に何をしゃべろうかと考えて授業に臨むようになった。

  3. 他の受講生の意見を見たり聞いたりすることができるので、自分とは違う考え方を学ぶことができた。

 受講生の評価を見ていると、授業を通して学びが深まったように感じる。こうした効果が生み出された理由は、教員と受講生のあいだでコミュニケーションが深まったことはもちろんのこと、デジタル教科書を介して受講生同士も学び会う関係ができたからではないかと考える。
 もちろん、授業の進め方や成績評価については、まだまだ改善の余地がある。それでも、デジタル教科書をもちいたコミュニケーションの効果には、大きな手応えを感じているところである。今後も改善を続け、コロナ禍が落ち着けば、学生同士のグループワークにも挑戦し、コミュニケーションによる学びの機会を増やしたいと考えている。


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