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学生視点からのデジタル教科書を活用した講義:瀨良兼司先生(京都橘大学)

京都橘大学の瀬良先生は、デジタル教科書の先進的な使い手です。このエッセイでは、デジタル教科書のメリットとデメリットについて、昨年度、受講した学生自身の声をまとめてもらました。今年度からは、新システム「EDX UniText」を活用することで、従来のデメリットを解消した講義を運営しています。

はじめに

 2020年度から、大学生協の電子書籍システムであるDECS(Digital Education Contents Support)を採用しています。これまでの取り組みについては、以前の投稿で紹介していますので、ご覧いただけますと幸いです。
 今回は、2021年前期に実施した完全オンディマンド型の講義についてご紹介します。弊学では、履修者が80名以上になった場合、事前収録による完全オンディマンド型で行う必要がありました。そこで、講義動画は、大学生が馴染みのある動画配信サービスであるYouTubeの限定公開で配信しました。概要欄に目次(チャプター分け)を設けることで、視聴しやすい環境整備に努めました。講義の組み立てとしては、事前収録型のラジオ番組よろしく、予習コメントをお便りに見立てながら、間接的な双方向性の確保を意識しました。

講義の進め方

 デジタル教科書のコメント共有機能を用いた予習を必須として、成績評価の対象としました。デジタル教科書を通して予習内容を共有してもらうことで、教員側にとっても、学生の興味関心を踏まえた講義準備を進めることができます。とくに完全オンディマンド型の場合は、講義内容に関する事後的なフィードバックはもちろんですが、受講時に学生側が参加している感覚をもって動画視聴する環境づくりが大切であると考えています。そのため、配信された動画を一方的に聞いて終わるのではなく、予習内容を踏まえて、考えながら訊いてもらえる受講環境づくりを心がけました。
 講義動画の視聴後に提出を求めたコメントシートでは、講義動画に関わる気づきや学びを記入してもらうようにしました。テキストを読んだだけの感想ではなく、動画内容に触れながらのコメントをお願いしています。これによって、他の学生による意見提示(予習コメント)に対する反応を記入してくれる学生も一定数いました。回を重ねるごとに、間接的ではあるものの、学生間の学びあいを促す環境が整っていきました。
 このように、デジタル教科書を活用した講義においては、学生の参加が欠かせません。教員の体験談や学生からの声については、前回の拙稿に譲って、ここからは、学生の視点によるデジタル教科書を用いた講義の体験談をご紹介します。

学生の視点から

 今回は履修学生の中でも、積極的に講義へ参加してくれた学生による実際の声や評価をお伝えしたいと思います。協力してくれた学生は、予習やコメントシートにおいて、量・質ともに、他の学生の模範となる姿勢を示してくれた学生です(学生には掲載許諾済み)。
 本記事の内容は、学生からの視点として、コンピュータ利用教育学会のPCカンファレンス(2021年8月実施)や、日本出版学会の研究会(2021年12月実施)において、デジタル教科書を活用した講義をテーマとして、学生とともに報告した内容を再構成して執筆しています。

デジタル教科書について

 デジタル教科書のよかった点としては、「パソコンやスマホひとつで持ち運ぶことができ、ペーパーレスにもなっている。」、「教科書を持ち運ぶことなく、隙間時間で手軽に学習ができる。」、「デジタルだからこそ、デジタル教科書内のワード検索やネット検索を簡単に行える点が使いやすく、良かった。」などが挙げられました。そして、デバイスの使い分けについては、下図に示している通り、使用する状況に応じて、パソコンとスマートフォンをうまく使い分けてくれていたようです。

デバイスの使い分け

受講について 

 デジタル教科書を用いた講義の受け方については、「次回までに予習してコメントを残すため、事前に内容を理解した上で講義に臨むことができる。」、「先生の解説や他の学生のコメントから理解を深めることができる。」、「他の学生が共有したコメントを見ることができるため、自分とは異なる視点からの考えに触れ、納得することができる。」といったことが挙げられました。予習においては、「予習で疑問に思った点は、予習コメントで事前に質問することができた点が良かった。」という声がありました。復習においては、「復習は教科書の文面を読み返すだけではなく、付箋やコメントも見返すことで、関連する事柄を振り返りながら、内容への理解をより深めることができた。」といった反応がありました。

実際に学生が使っていたデジタル教科書のスクリーンショット

 上の画像は、実際に学生が使っていたデジタル教科書のスクリーンショットをまとめたものです。教員の講義付箋に対して、予習段階の気づきや、受講時の要点を整理していました。また、コメント機能も用いて、受講生自身でノート整理にあたる書き込みをしてくれていました。

距離感について

 デジタル教科書が学生と教員との距離を近づけるツールになれたかどうかについては、「毎回、予習コメントに対して内容を共有してくださったので、対面ではなくても直接話しているような感じがした!」「先生からのコメントや付箋が、コミュニケーションツールになる!」といった嬉しい声がありました。学生間についても、下記にあるように、デジタル教科書の存在が、間接的ではあるものの、学生間の学びあいを促していたことがうかがえます。

デジタル教科書が学生と教員との距離を近づけるツールになれたか

分かりにくい点や困った点

 上述のようなポジティブな面がある一方で、デジタル教科書を用いた際の分かりにくい点や困った点については、デジタル教科書の見栄えの問題やシステム上の問題が挙げられました。具体的な内容は、下記の通りです。

デジタル教科書を用いた際の分かりにくい点や困った点

 他にも、コメント共有に関する問題点として、アプリの動作環境などを指摘してくれました。

今後(2022年度からの新システム導入)

 2021年度のデジタル教科書導入科目は、新型コロナウイルス感染症への対応に伴って、完全遠隔のオンディマンド型での講義運営となりました。とはいえ、学生からの反応から、遠隔の受講環境においても、学生間の学びあいが促されたことを確認できました。
 2022年度4月からは、引き続き大学生協と協働しながら、デジタル教科書の新システムである「EDX UniText」を活用した講義運営を行っています。EDX UniTextは、アプリではなくブラウザでの運用となります。弊学では、2021年4月から、BYOD(Bring Your Own Device)を推進しており、ノートパソコンが必携となっています。そのため、対面講義においては、教室で学生が持参したPCやタブレット端末を用いて進めることが可能となっています。
 実際、学生の視点から指摘されたデバイスやアプリに関わるネガティブな点に関しては、新システムの導入によって、その多くが解消されています。そのうえで、デジタル教科書を学びのプラットフォームとして運用できるように学生からの声を踏まえた講義の進め方を検討しながら実践中です。
 今後の運用についても、試行錯誤を重ねながら柔軟に取り組んでいく予定です。引き続き、事前に想定していた筋書き通りには進まない講義の時間を、学生と共に楽しみながら創っていきたいと考えています。

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