続・時代劇レヴュー⑯:草燃える(1979年)

タイトル:草燃える

放送時期:1979年1月~12月(全五十一回)

放送局など:NHK

主演(役名):石坂浩二(源頼朝)、岩下志麻(北条政子)

原作:永井路子

脚本:中島丈博


NHKの所謂「大河ドラマ」歴代の作品の中で、全話が完全な形で現存する最も古い作品は、1976年放送の「風と雲と虹と」であるが、それ以降の作品が全て完存しているかといえばそうでもなく、次に古いのは1978年の「黄金の日日」であり、1980年の「獅子の時代」以降は全作品が完存している。

これ以前の作品については総集編が現存しているものは多く、2020年5月現在、1966年放送の「源義経」、1970年放送の「樅ノ木は残った」、1972年放送の「新・平家物語」、1973年放送の「国盗り物語」、1974年放送の「勝海舟」、1975年放送の「元禄太平記」、1977年放送の「花神」、1979年放送の「草燃える」の総集編はソフト化されており、「源義経」以外は私も見たことがあるが、どれも極端に短く編集されているため、レヴューには向かないものばかりである。

その中で、やや長編なのが「花神」と「草燃える」であるが、特に「草燃える」は、総集編を見る限りかなり面白い作品で、完全版の「発見」が待ち望まれる大河ドラマである。

「草燃える」は、現在視聴者の提供によって当時の放送を録画したものが全話NHKに存在するが、状態が悪いためにソフト化に適さず、引き続きNHKは映像の提供を呼びかけているようである。

もし状態が良いものが視聴者から提供されるなり、NHKから映像が「発見」されれば(「風と雲と虹と」は映像が現存していないと思われていたが、近年NHKから全話完全な形で見つかり、完全版DVDがリリースされている)、将来的にはDVDリリースもあり得るかも知れない。

それを期待しつつ、今回はあくまで総集編に限定したものであるが、「草燃える」を取り上げてみたい。


本作は、源頼朝と北条政子を中心に、鎌倉幕府草創期を頼朝の挙兵から承久の乱まで描いたもので、永井路子の『炎環』『北条政子』『つわものの賦』など複数の小説や史伝を原作にしている。

鎌倉幕府は東国武士達が成し遂げた「革命」であって、日本史の一代転換点とする永井路子の歴史観を忠実になぞりつつも、脚本担当の中島丈博なりのアレンジも利いており、配役も頗る良く、石坂浩二の老獪な頼朝や、国広富之の軽薄で政治センスのない義経も原作のイメージ通りである。

岩下志麻演じる後半の主人公・北条政子も流石の迫力で、クライマックスの政子の演説は何度見ても鳥肌が立つ名演である。

特に後半北条一門の前に立ちはだかる三浦義村役の藤岡弘が良く、彼が演じた役の中では一番好きかも知れない(個人的には、藤岡弘は表裏のない実直な武将よりも、義村のようなしたたかな策略家の方が似合うように思う)。

また、頼朝・政子と並んで実質的な主人公の一人というべき北条義時は、若き日の松平健が演じていて、彼の出世作とも言うべき役であるが、義時のキャラクタのみ、若干原作と異なっている。

原作の義時は、最初からポーカーフェイスでしたたかな政治家肌の人物なのであるが、本作では純朴な青年が政争にもまれることで段々老獪になっていくと言う設定になっており、これはこれで面白く、またキャラクタ的にも見ていてわかりやすい(個人的には、原作のポーカーフェイス義時の方が好きなのだが 笑)。

ちなみに、永井路子一流の「東国武士の旗揚げ」の解釈は、本作ではこの義時の台詞として登場する。

本作はどちらかと言えば、後半部の頼朝死後の御家人達の政争の方が面白く、最終的にはどいつもこいつもみんなワル、みたいになってしまうあたりは、近年の大河ドラマとは一味違う本作ならではの面白さである。

今では歴史学の立場から否定されてしまったが、三浦義村が実朝暗殺黒幕と言う説は、ドラマとしてみた場合、やはり手に汗握る展開でスリリングで面白い(ただ、ドラマの描写だと、原作と違って義時が危険を回避する際にだいぶ余裕がある風だったので、実朝を意図的に見殺しにした観がある)。

あまり懐古主義的な発言は良くないかも知れないが、北条義時を主人公とすることが決まっている2022年の大河ドラマに、果たしてこれだけの迫力が出せるだろうか、と言う意地の悪い感想を抱いてしまうほど面白い作品であり、総集編を見る度に完全版を待ちわびてしまう。


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