時代劇レヴュー㉘:黄金の日日(1978年)

タイトル:黄金の日日

放送時期:1987年1月~12月(全五十一回)

放送局など:NHK

主演(役名):六代目市川染五郎=現・二代目松本白鸚(呂宋助左衛門)

原作:城山三郎

脚本:市川森一、長坂秀佳


1978年に放送されたNHKの大河ドラマで、同シリーズの第十六作に当たる。

総集編を含める全話の映像が現存している大河ドラマの中では二番目に古い作品で、完全版DVDもリリースされていて現在でも容易に視聴出来る。

戦国時代の堺の伝説的商人・呂宋助左衛門を主人公に、自由都市・堺の栄光と終焉を描いた作品で、武将や政治家ではなく商人を主人公にし、庶民の生活を描くことに力を入れている点で当時としては新機軸の大河ドラマであり、またフィリピンにて大河ドラマ史上初の海外ロケを行った作品でもある。

他にも初の試みとしては、既存の小説を原作にするのではなく、NHKスタッフと脚本を担当する市川森一、そして原作を担当する城山三郎が事前に話し合って物語の大筋を決め、脚本と原作として扱われる小説の執筆がほぼ同時進行で行われると言うスタイルを取っている(同様のスタイルは、その後1993年~1994年放送の「炎立つ」や、2001年放送の「北条時宗」などの大河ドラマ作品でも採用されているが、この両作品の原作をともに担当した高橋克彦の遅筆のために「黄金の日日」ほどうまくは機能しなかった)。

本作は脚本家の三谷幸喜を始め、ファンを公言している多くの著名人もおり、現在に至ってもなお人気の高い作品であるが、確かにストーリー、配役ともに優れていたと思う。

以下、まずは俳優陣の感想から書いていくと、個人的に特に印象に残ったのは織田信長役の高橋幸治で、その存在感が抜群で歴代最高の信長役の一人と言って良いだろう。

高橋幸治は過去の大河ドラマでも「太閤記」(1965年)で信長を演じ、その際にもかなりの好評を博したと言うが、まさにカリスマ性のある独裁者としての風貌をよく表現していて、本作の信長のイメージにはぴったりである(後述するが、本作では「近世」の象徴として信長を位置づけており、作中での信長のイメージは中世を打破し近世の扉を開いた革命的政治家・軍略家として描かれる)。

まったくの余談であるが、この高橋幸治は演技を見ると、現在彼が存命なれどほとんど引退状態なのが惜しいと痛切に思う。

今一人、物語の後半において印象的なのが近藤正臣演じる石田三成で、おそらく私が見た中では最も理想化されて、最もアクのない三成である。

史実とは違う三成像かも知れないが、(今は癖のある役ばかり演じる印象があるが)当時の爽やかなイメージの近藤正臣の演技もよくはまっていた。

主演を務める現・二代目松本白鸚、当時六代目市川染五郎は、当時まだ三十代半ばであるが、やはり親子だけに七代目市川染五郎(すなわち現在の十代目松本幸四郎)とよく似ていると感じるし、作中では助左衛門の父親役で八代目松本幸四郎(後の初代松本白鸚)、少年時代の助左衛門役で現・十代目松本幸四郎が出演しており、親子三代の共演が実現している。

他には、中年以降は老獪な役の印象が強い故・津川雅彦が、堺の豪商・津田宗及役で出演しているが、本作を見ると彼が若かりし頃は二枚目だったと言うことが実感出来る(笑 私はリアルタイムでは老獪な役の津川の印象しかないので)。

もっとも、宗及は途中でフェードアウトしてしまい、津川の魅力があまり生かされていない所が残念であるが。

さらに配役の雑感を言えば、主要登場人物のほとんどがオープニングにおいてピンクレジットの役者であり、ピンではない俳優は、ごく一部を除くと「役人」とか「兵士」みたいに定まった役名のないモブキャラばかりで、その点は大河ドラマでは珍しいと感じた。

クレジットの話でもう一つ書けば、トメが他の大河ドラマにはないくらいかなり変則的であった。

トメ相当のキャストが総登場する際は、千利休役の鶴田浩二がトメなのであるが、利休は要所要所で助左衛門の生涯に関わる重要な人物であるものの、全体を通じて結構登場回数は極端に少なく、事実上のトメは前半は今井宗久役の丹波哲郎、後半は豊臣秀吉役の緒形拳である(まあ、二人ともトメで違和感のない俳優であるが。なお、緒形拳が秀吉を演じるのも大河ドラマでは「太閤記」に続いて二度目で、好評だった前述の高橋幸治との信長・秀吉コンビが本作で再現されている)。

内容について書くと、確かに面白かったことは面白かったのであるが、ただどちらかと言うとストーリーの展開的には大河ドラマと言うよりは「朝ドラ」に近い印象である。

そもそも、主人公の助左衛門が事跡がほとんどわからない、半ば架空の人物のような感じで、作中で描かれている事跡はルソンの行ったことと豪商だったこと以外はほぼフィクションで、創作が多いと言う点では大河ドラマ史上一二を争うかも知れない。

半ば無理矢理歴史上の人物、著名事件と絡める手法は、2000年以降の大河ドラマでも常套手段であるが、このあたりは好き嫌いが別れる所であろうか。

史実ともかなり違っている箇所が多く(今井宗久が途中で行方不明になってしまったり、加藤清正らによる三成襲撃事件が堺で起こっていたり)、中でもラストシーンに当たる堺の炎上が、関ヶ原の戦い直後になっていてこの点はちょっとびっくりした(原作では大坂夏の陣の際に炎上)。

登場人物の配し方などはうまいと思うのであるが、脚本の市川森一は、歴史を理解した上で派手に史実を変える傾向にあるので(例えば、1994年に彼が脚本を担当した「花の乱」もそうであった)、このあたりはわかってやっているのだろうから何とも言えない所である(個人的にはあまり好きではないが)。

要するに、物語としては面白いのであるが、歴史ドラマとして見た場合は首をかしげる点も多く、全体的になかなか評価の難しい作品と言うのが正直な感想である。

この前年に放送された大河ドラマ「風と雲と虹と」(これもいづれレヴューを書きたいと思うが)などもそうですあるが、当時の大河は結構史実に縛られずに自由にストーリーを作っていて、そう言う意味では本格歴史劇テイストの大河ドラマと言うのは、今も昔も案外少ないのかも知れない(その点で、大河ドラマが史実を曲げたり、都合よくストーリーに当てはめているのは近年だけに見られる傾向ではないと言える)。

前述のように本作がコアなオールドファンからは評判が良いと言うことと合わせて考えると、とかく批判されがちな2000年以降の大河ドラマの史実との向き合い方と言うのは、なかなか一筋縄ではいかないものだと感じてしまう。

純粋なレヴューから話が脱線しかかっているので、このあたりで終わりにしたいが最後に一つ、本作は中世と近世の転換点と言う視点から、近世の象徴として助左衛門や堺、あるいは信長を捉えているが、中世をマイナス、近世をプラス的に描いていて、そのあたりは当時の歴史学会の流行りみたいなものを感じて興味深い(これは前述「風と雲と虹と」でも感じたが)。


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