同時に学べる!世界史と地理 Vol.2 前12000年~前3500年
世界史の舞台は地球です。
その地球の成り立ちや様々な現象をあつかう「地理」を知ることは、世界史をまとめる上で必要不可欠です。
《歴史担当》と《地理担当》といっしょに、
「世界史」を学びながら「地理」を、「地理」を学びながら「世界史」を勉強していきましょう。
気候に合わせてライフスタイルをチェンジ!①
歴史:この時代には地球の平均気温が暖かくなって、世界中で気候が変わりつつあった。
「最近ちょっと暑くなってきたな」っていうレベルではない。
「降るはずの雨も降らない。マンモスも消えた。このままじゃやっていけないぜ」っていうレベルの変化だ。
人類は、生きていくために植物や動物を育てる暮らしを始めることになる。
気候が暖かくなったのはいまから1万4000年前ころからのこと。
それまでは、寒い気候では体の大きな動物のほうが元気だったから、ナウマンゾウとかマストドンのような大きなゾウのような動物がたくさんいた。
でも、暖かくなると体のコンパクトな動物のほうが有利なので、いままで人間が獲物にしていた動物がいなくなってしまったんだ。
それでは食べるものがなくなってしまいますね。
歴史:そう。そこで、ウサギ、イノシシ、シカといった小さな動物をねらうようになったんだ。
今のアメリカ合衆国ではウマがたくさんいたんだけど、捕りすぎで絶滅してしまったという説もある。
それに、場所によっては植物や動物を育てる技術も開発されるようになる。はじめからうまくいくとは限らないからね。狩り・釣りや採集と組み合わせながら補助的に導入される場合が多かった。
狩りや採集は環境や運にも左右される。それに何より一人が生きていくためには、とても広い土地が必要だ。だから人口もなかなか増えていかない。
それにくらべ、植物や動物をコントロールすることができれば、必要なときに必要な食べ物を計画的にゲットすることが可能になる。
自然にあるものを「取る」生活から、自然に手を加えて食べ物を「生み出す」生活への転換だ。
今ある暮らし方が180度変わるわけだから、考え方もひっくり返るほどのインパクトを受けたはずだ。
当時の人間は私たちよりも自然が身近だったのは間違いなさそうですね。
歴史:そうだね。
自然にはたらきかけて食べ物を「生み出す」なんて技術も、今では当たり前に思えるかもしれないけど、当時の人にとっては「ふしぎな力」に思えただろう。
「こうすればたくさんの収穫が得られるぞ」。
「自分たち人間と自然は、こんな関係になっているんだ」
「安心して。死んだら、こんなところに行くことになるんだよ」
このように、納得のいく説明と確かな技術を持つ人が、新しい時代のリーダーシップをとるようになっていくことになるんだ。
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◆前12000年~前3500年のアメリカ
アメリカ大陸って昔はどんな文明があったんですか?
歴史:マチュピチュって知ってる?
とても高い山の上にある街なんだけど、テレビ番組「世界ふしぎ発見!」なんかでよく取り上げられるよね。
ほかにはナスカの地上絵が有名かな。
砂漠の上に巨大な動物の絵が描かれている。空から見ないと全体像が見えないようなものもあるよ。
うーん、なんとなく見たことのあるようなないような。あまりテレビは観ないので…。
でも、アメリカってアメリカ合衆国のあるとこですよね。そんなとこに「砂漠」なんてあるんですか?
歴史:うーん、惜しい!
たしかにアメリカ合衆国があるのはアメリカ大陸なんだけど、アメリカ大陸って南北に分かれているんだよね。
アメリカ合衆国は北アメリカ大陸にあって、たしかにここにも砂漠があるよ。グランドキャニオンという谷があるところで有名だ。
ナスカの地上絵があるのは、南アメリカ大陸のあるほうで、現在のペルーだ。
なるほど。でも、砂漠ってアフリカとか、エジプトとか、ラクダがいるようなところにあるイメージがありますが。
歴史:そうそう(ちなみにエジプトはアフリカ大陸にある)。
だけど、砂漠って一定の条件がそろえば、どこにでもできるんだ。 ちょっとGoogleマップで「アカタマ砂漠」と打って、衛星画像をみてみよう。細なが~く砂漠が続いているのがわかるはずだ。
南アメリカにこんな砂漠があるなんて(現在のチリ)。Photo by Bailey Hall on Unsplash
ほんとだ。でもどうして乾燥する気候になるんですか?
地理:アメリカ大陸の場合には、海岸の近くをつめた~い海流(注:)がながれている(注:ペルー海流)。
冷たい海からは、水があんまり蒸発しないから、その上を吹く風には湿り気があまりない。
このエリアでは西(北を上にして、左側)から東に向けて風が吹いている(注:偏西風)から、この乾燥した風の影響を受け、海岸付近が砂漠になっちゃうんだよ(注:海岸砂漠)。
歴史:ただ、気候って時代によって変わるから、今と必ずしも一致しないけどね。
ところで、アメリカにはラクダっているんですか?
歴史:「アメリカ」っていうと、国(アメリカ合衆国)のことか大陸のことかゴチャマゼになっちゃうから、なるべくフルネームで言おうか。「アメリカ大陸」。
アメリカ大陸にはラクダっていないんだよ。
ウマもいない。
ウシもいない。
ヒツジもいない。
ヤギもいない。
あ…アルパカ
歴史:そう。アルパカはいるよ。かわいいやつ。あと、リャマ。そしてモルモット。
使えなさそう…
歴史:うん。大きな荷物を運ばせたり、人が乗ったりってことはむずかしいね。
じつは、南北アメリカ大陸はそれ以外の世界と「隔離されてる」状態なんだ。
ユーラシア大陸(アジアとヨーロッパ)やアフリカ大陸では「アタリマエ」のことが、南北アメリカ大陸には伝わってこない。
それがこういう大きな家畜。ウマは昔はいたんだけどね、石器時代に人間が狩り尽くしちゃったようだ。
あとは、小麦とか大麦などの穀物だ。代わりにトウモロコシがあるよ。
まあ、「ある」っていうか、もともと雑草っぽかったものを、だんだん品種改良してたくさん実がなるようにしていったわけだ。
それじゃあ食べ物のメニューが少ないってことですか?
歴史:南北アメリカ大陸には、西側に高い山脈が北から南方向(地図でいうとタテ)にのびている。
Googleマップで「アコンカグア」って打ってみよう。アンデス山脈の高い山だ。
高い山を下ると、すぐ海だ。
ということは、標高によって住む動物や生える植物が全然ちがうってこと。気温は標高が高くなるほど低下する。100mあたり約0.55℃ずつ低くなるんだ(注:気温の低減率(ていげんりつ))。
だから、標高によって季節が違うようなものだから、とれるものはバラエティ豊富なんだ。
それに沿岸の海ではたくさんイワシがとれるよ。「ペルー アンチョビ」ってググってみよう。
見たことないですが、イワシの缶詰ですかね。
歴史:そう。まあ、オツマミですね。現代では。
とまあそういうわけで、メニューが少ないわけじゃない。
だから、ある意味、苦労して自然を改造しなくても、魚はとれちゃうし、動物もいる。
群れをつくる草食動物を飼ったり、人間に役に立つ植物の栽培もやっていたにはやっていたけど、後ででてくる西アジアのレベルほどの「集中管理」になるまでには時間がかかっている。
そうなると、ユーラシア大陸に比べると、大きな権力を持った人が「食べ物や土地を独り占め」っていう状態にはなるまでに時間がかかるんだ。
あくまで比べると、って話だけどスピードが遅いんだね。
南北アメリカ大陸には、ほかにはどんな気候エリアがありますか?
地理:まず北アメリカの北極に近いところは、とっても寒い。
寒すぎて木々や食物は生えないし、氷の塊(かたまり)が覆っているようなところだ(注:氷雪気候、EFという記号で表す)。
アラスカのアンカレッジ。寒い。Photo by Paxson Woelber on Unsplash
気候が温暖化しても氷の塊は融けなかったんですか?
地理:寒さのため、そのまま氷が残っているエリアもあるよ。
夏になっても融けない氷が地下に存在していて、永久凍土(えいきゅうとうど)と呼ばれるよ。
ちょっと南のほうでは夏になると、それが少し融けてコケが生えたりする。夏でも寒いから木は生えないよ(注:ツンドラ気候、ETという記号で表す)。
気温の変化によって、地面が持ち上がったり(注:凍上現象)、逆にへこんだり(注:地盤沈下)することもある。
木が生えているところはないんですか?
地理:そのさらに南にいくと夏にある程度暖かくなるから、森林が広がる地域が広がる。わりと雨も降る。
北アメリカの北側の3分の1くらいは、だいたいこの気候だ(注:冷帯湿潤気候、Dfという記号で表す)。
北のほうは針葉樹林が分布し、南の方は寒くなると葉っぱが落ちる木(注:落葉広葉樹)がミックスされるようになる。
暖かい気候の部分はありませんか?
地理:さらに南にいくと、一番暑い月の平均気温が22℃を越える、雨もよく降る気候(注:温暖湿潤気候、Cfaという記号で表す)になる。
北アメリカ大陸の南東エリア(北を上にして右下)がこの気候にあたる。
冬はそれなりに寒くなることから、1年を通した気温の差が大きい。日本と同じような気候だ。
一方、反対側の南西エリア(北を上にして左下)は、乾燥気候が多い。
砂漠(注:砂漠気候、BWという気候で表す)や、背丈の短い草がパラパラ生える程度の光景(注:ステップ気候、BSという記号で表す)が広がるよ。
(上)アメリカの南西部のほうにある砂漠(デスバレー)Photo by Michal Janek on Unsplash
(下)アメリカの南西部のほうにある乾燥草原(ニューメキシコ州)Photo by Braden Collum on Unsplash
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◆前12000年~前3500年のオセアニア
このへんは人影があまりないですね。
歴史:そうだね。
太平洋の南のほうにはほとんど陸地がない(注:水半球)。
オセアニアには火山がそのまま島になった島や、サンゴ礁が死んで固くなった島など、いろんな島が無数にある。人間はまだほとんどの島に足を踏み入れてはいない。
サンゴ礁が島になるってどういうことですか?
地理:サンゴっていうのは浅い海底に住む、一見植物のような動物だ。
石灰の成分でできた骨を持っていて、死ぬとその破片が積み重なって岩のようになるんだ。
彼らが生息できるのは、水温が温かく(一番寒い月でも18度以上は必要だ)、キレイなことが条件だ。
陸地のまわりにサンゴ由来の陸地ができる場合(注:裾礁(きょしょう))もあれば、ちょっと離れたところにある場合(注:堡礁(ほしょう))もある。
陸地の部分がまったく沈んでしまって、陸地のまわりを取り囲んでいたサンゴ礁だけがまあるく残って、それが陸地になるようなこともある(注:環礁(かんしょう))。
これは裾礁(きょしょう)。Photo by Ishan @seefromthesky on Unsplash
サンゴ礁が島になるなんて、すごいですね。住めるんですか?
地理:農業をするのは難しいし、海面すれすれの標高だから、住むのはとても大変だけどね。
歴史:ところで、ユーラシア大陸の南側をみてみよう。
赤道あたりに横長の島がある。ニューギニア島というんだ。
ここではタロイモっていうイモやバナナの栽培をしている人たちがいたんだよ。
南の方にも大きな島がありますね。
歴史:コアラやカンガルーで有名なオーストラリアだ。
ほら、ここにはアボリジニーという人たちが、狩りや採集によって生活をしている。
さっき出てきたニューギニア島と連結していた時期もあったけど、気候が温暖化して海面が上昇すると切り離されてしまった。
取り残された形のオーストラリアには、珍しい動物がたくさんいるんだ。
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◆前12000年~前3500年の中央ユーラシア
なんだか人間たちが四つんばいの動物と仲良くしていますね。
歴史:あれは馬だね。
この時期にユーラシア大陸の西部(北を上にして左側)の草原地帯で、手なづけることに成功したんだ。
口にははみ(馬銜)という道具を噛ませている。
それをひもにつないで、引っ張ったりゆるめたりすることで、馬の動きをコントロールすることに成功したんだ。
馬は力持ちだしスタミナもある。人間の足で移動したら日が暮れる距離でも、馬さえあれば長距離移動も楽チンになったわけだ。
でも、馬の管理は決して楽なものではない。
ペットのように1匹だけ飼うわけではなく「群れ」で飼う以上、「増えすぎ」ないように子供の頭数管理もしなければならないよ。
ユーラシア大陸の北のほうは寒そうですね。
地理:一年中寒いわけでもなくて、夏の間には気温が上がるところも多いんだよ。
気温が上がったときには一面にコケなど(注:地衣類(菌類と藻類が共存したもの)と蘚苔類(コケ類))が生え、このコケのカーペットは「ツンドラ」と呼ばれる。寒いので草木は生えない。
その南にはクリスマスツリーのような木(注:トドマツ、カラマツなど)の生える針葉樹林エリア(注:タイガ)が広がっている。針葉樹とは、葉っぱがチクチクする木のことだ。
その北に一面氷の世界がひろがっている。
そんな厳しい場所でも人類は自分を環境に適応させ、ライフスタイルを工夫しているよ。寒い場所では農業はできないけど、寒い場所が好きな動物(アザラシ、セイウチ、オットセイ…)を狩ることならできるからね。
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◆前12000年~前3500年のアジア
○前12000年~前3500年の東アジア
◇日本
この頃、日本は縄文時代ですよね。知ってます!
歴史:その通り!
独特な形の「縄文土器」は“純・日本の文化”と考えられていたんだけれど、縄文文化にも、ユーラシア大陸東部(北を上にして右)との共通点があることがわかっているよ。
それに、よく“狩りから稲作へ”といわれるように、縄文時代イコール狩りの文化と考えられてきたけど、一部の地域では植物の栽培も始まっていたことがわかっている。
また、船に乗るのも得意で、太平洋の島々にも繰り出していた可能性があるよ。
研究が進めば進むほど、新しいことがわかってくるね。
地理:日本は、夏場のいちばん暑い時期の平均気温が22℃以上にまで上がり、一年を通して雨もたくさん降る気候(注:温暖湿潤気候、Cfaという記号で表す)だ。
どうしてそんなに雨がふるんですか?
地理:「梅雨(ばいう)前線」という長雨の原因となる、「暖かい空気と冷たい空気の境目」が日本周辺でぐずぐずするシーズンがあることや、台風という「まわりから風を巻き込んで激しく吹き上げる巨大な気流」が発生して何度も日本を襲うことが原因だ。こういう気流を「熱帯低気圧」というけど、同じようなものにアメリカのハリケーンや、オセアニアやインド洋のサイクロンがあるね。
◇中国
中国も農業が始まりますか? やはりお米でしょうか?
歴史:そうだね、南の方ではお米の栽培が始まるよ。
中国には大きな川が2本あって、南のほうの長江の下流でお米の栽培が始まっている。
北のほうの川を黄河という。
ここでは桃太郎で有名なキビやアワ、大豆などを栽培していたよ。
中華料理といえばギョウザやラーメンを思い浮かべるかもしれないけど、小麦はもともと中国には生えていなかったんだ。
でも、米やキビ・アワ・大豆などはどれも長期間保存できる。だからその生産や管理をコントロールすることのできた人が、やがてリーダーシップをとるようになっていくんだ。
地理:中国の東側は、日本と同じように夏気温が高くまで上がって冬はけっこう冷え込み、一年を通して雨や雪がたくさん降る気候(注:温暖湿潤気候、Cfaという記号で表す)だ。
そのまわりには、特に夏に1年のうちの大部分の雨が降る気候(注:温帯冬季少雨気候、Cw)も分布していて、ツヤがあって濃い緑色をした木(注:カシやシイ)とか、稲作が盛んだ。南の方では1年に2回もお米の収穫ができるところもある(注:二期作)。
動物は飼っていないんですか?
歴史:犬、ニワトリ、ブタを飼っていたよ。
やがて黄河と長江流域では、リーダーシップを握った一族が大きな町をいくつも支配するようになっていく。共通の特徴をもつ土器が見つかっているところが、彼らの支配エリアだと分かる。
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○前12000年~前3500年の東南アジア
歴史:東南アジアの人々の生活は狩り・釣り・採集が基本だ。
地理:気候的には、北のほうは夏に雨の多い温帯(注:温帯冬季少雨気候、Cwという記号で表す)、南のほうは1年中気温の高い熱帯だ。
熱帯といっても3種類ある。
①まず、モンスーン(季節風)が吹き付ける東南アジアの西の沿岸では、1~3か月の乾燥シーズンをのぞいてはたくさんの雨が降るタイプの熱帯だ(注:熱帯モンスーン気候、Amという記号で表す)。
②次に、1年を通してとにかく雨が降り続けるタイプの熱帯(熱帯雨林気候、Afという記号で表す)。落ち葉を出さない様々な種類の木々が生い茂り、生き物のバリエーションも豊富だ。
こんなふうに河口にはマングローブの林もみられる。Photo by Joel Vodell on Unsplash
③雨の降る季節(注:雨季)と、そうじゃない季節(注:乾季)がハッキリ区別できる熱帯(サバナ気候、Awという記号で表す)。季節によっては低い背丈の木がまばらに生える程度だ。
カンボジア(地図)にて。木はパラパラ生える程度。 Photo by Roxanne Desgagnés on Unsplash
どうして、季節によって雨の降る降らないの違いが生まれるんですか?
地理:地球は若干傾いた状態で太陽のまわりを周っている。
太陽のほうに向かって傾いている時期は、太陽光線が当たる部分は地球の中央部分よりもちょっと北よりになるから、この部分(注:熱帯収束帯)の地表が暖められる。
地表や空気が暖められると、その部分では上向きの気流(注:熱帯収束帯)が発生する。それがもとでたくさんの雨が降るわけだ。
でも、その半年後の地球は、太陽と反対の向きに傾くようになる。
となると、太陽の光は前よりも南のほうに強く当たるようになるから、雨が降る部分も南のほうに移動し、それより北のほうは「乾燥シーズン」になってしまうんだ。
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○前12000年~前3500年の南アジア
歴史: 南アジアの人々は、“お隣さん”である西アジアの影響を受けて大麦や小麦の農業や、ウシの牧畜を始めるよ。
南アジアって、どうしてひとつの地域に分類されるんですか?
地域:南アジアはユーラシア大陸の南に突き出した「逆三角形」型のエリアだ。
このエリアは、西・北・東の三方を高い山によって囲まれている。
とくに北には地球の表面でもっとも高い山(注:ヒマラヤ山脈のチョモランマ)がそびえ立っているよ。
だから、ひとつの地域として分けるんだ。
でも、南のほうは海に面しているから、外側の地域との「つながり」は強いよ。
えっ、海って「つながり」を断つものじゃないんですか? 行き来が大変そうですし。
歴史:たしかに遠距離を突っ切るのは大変だけど、沿岸をたどっていけば「つながり」を持つことは可能だ。
船さえつくることができれば、海は「障害物」ではなくて、地域と地域を結びつける「道」になりうるんだ。
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○前12000年~前3500年の西アジア
歴史:西アジアではかなり古い時代から植物の栽培と動物の飼育が始まる。ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウシなど、現在もわれわれがお世話になっている家畜のご先祖の多くが生息し、小麦や大麦の祖先ももともと生えていた、とってもラッキーな場所だった。
家畜を育てるとどんないいことがあるんですか?
歴史:はじめのうちはお肉を食べるために飼っていた。昔の人のお腹は、動物のミルクを生理的に受け付けることができなかったようなんだ。そこで、そのまま飲む代わりにヨーグルトやチーズをつくった。これが大成功! ウシの側も人間にミルクを飲んでもらう代わりに自分でエサを探す必要がなくなるから、ますます人間の言うことを聞くようになっていった。人間に可愛がられることで、子孫を残す戦略だ。こういう関係を共生という。
さらに人間は家畜の毛を服に加工し、皮はテント、バッグや靴の材料にした。さらに重い荷物を運ばせたり、畑を耕す力としても利用。うんちは肥料にもなった。
集中的に植物と動物をコントロールしていく、この暮らし方を特に発達させていったのが西アジアだ。家畜を利用することで農業の質を高めていった人々は、ますます人口を増やしていく。
この時代の地球全体の人口は、狩り・釣り・採集の時代に比べて5倍に増加!(約1万年頃に1000万人だったのが,前4000年頃には人口が5000万人に!)
栽培や飼育って狩りに比べるとほんとに効率が良いんですね。
歴史:そうだね。
ただ、それを長期間にわたって続けていくとなると、人手も必要だし水場(みずば)を守るための武力も必要だ。
めんどくさいですね。
まぁ焼き畑農業のように、つくったら焼いて移動→つくってまた焼いて移動…を繰り返していったほうが、そりゃ楽なんだけれど、それにはずっと同じところで農業するよりも10倍もの土地が必要だ。
じゃあ同じところで農業をするにはどうすればよいかというと、これはもう限りなく生えてくる「雑草との戦い」だ。
農業っていうのは「人間にとって意味のある植物」のみを生やす行為だから、「意味のない植物」は徹底的に排除する必要がある。
で、さらに収穫前に動物に食べられちゃ元も子もないわけなので、「有害な動物」も殺す必要があるね。
大変だ…
地理:同じ場所で農業をやるってのは本当に大変なことだ。
そこにすごい労力を投下して、最適な環境をキープさせつづけなければいけない。
とくに必要なのは、安定的な水場の存在だ。
植物を育てるにしろ動物を飼うにしろ、水場は重要だからね。
どこにどれくらい水場があるかというのは環境によって違うから、どんなふうに植物の栽培・動物の飼育をやって生活していくかは、場所によって個性が出るよ。
栽培・飼育は、どんなところで最初にはじまったのだと思う?
「どんなところ?」って気候ですか? そうですね、雨がたくさん降って気温も高いところは農業しやすいんじゃないですか? 熱帯!
歴史:う~ん、熱帯はね、「雨が降りすぎる」ことが問題なんだ。
植物を育てるには土が必要だけど、その土が雨によって流されてしまったり、成分が酸性になってしまう。ほら、熱帯地域の土って赤色をしているんだよ。これは農業には適していないんだ。
熱帯の赤土(アフリカのシエラレオネという国)Photo by Annie Spratt on Unsplash
もちろんイモやバナナなど育てることができる植物もあるんだけど、住んでいる動物の種類も多いから食べられないようにしっかりと囲っておくことが重要だ。
いろいろ大変ですね。じゃあ日本のように暖かい気候のほうが適しているんでしょうね。
歴史:そうだね。水場には困らないよね。
でも、意外なことに人間の歴史:の中でもっとも古い時代に大規模な農業をやったのって、温帯ではなくて乾燥帯(雨がほとんど降らない気候)なんだよ。
意外です。雨が降らないからこそ頑張った、ってことですかね。
歴史:雨が降らないところで動物や植物をあてもなく探していても、厳しいもんね(笑)
それよりは、人間のいうことを聞く動物を連れて、砂漠の中の水場や緑のある場所を求めて移動生活をしたほうがまだマシだろう。
それに、食用の植物をたくさん管理しておけば、もしものときにも備えることができる。
初めのうちは雨に頼っていたんだけど、農業や動物飼育をやれば次第に人口は増えるから、村の規模も大きくなって農業の規模も大きくする必要が出てくるね。
地理:それなら「水を川から引っ張ってくればいい」というアイディアが生まれる。水路をつくって畑に水を流すわけだね(注:灌漑(かんがい)農業という)。水を外から引っ張ってくれば、水のない乾燥エリアでも農業はできるんだ。
歴史:収穫が増え人口が増えてくると、はじめの頃は少人数の親戚ごとに生活していた人間たちも、無関係な人とも一緒に暮らす必要が出てくる。村が豊かになればなるほど、富を求めて外からの訪問者も増えるだろう。
町がにぎやかになるにつれ、しだいに大勢の人が集団を維持していくためのしくみもできていくようになるよ。
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◆前12000年~前3500年のアフリカ
アフリカといえば「サハラ砂漠」ですよね。
歴史:そうそう。でもね、この時期のサハラ砂漠には大草原が広がっていたらしいんだ。「緑のサハラ」といわれるよ。
どうしてそんな昔のことがわかるんですか?
歴史:サハラ砂漠のど真ん中の岩に、たくさんのウシを追いかけて狩りをしている人たちの絵が見つかっているんだ(注:タッシリ・ナジェール)。昔の気候について調べている多くの学者たちも、いろいろな証拠から「緑のサハラ」説を支持しているよ。
でも、次第に気候は乾燥し、砂漠が広がっていった。
人々は獲物が少なくなると水場に向かった。
その一つがナイル川という地球上でいちばん長い川だ。
エジプトに注いでいる川ですね?
歴史:そうそう。ナイル川では大規模な農業がはじまって、村のサイズも大きくなっていく。
次の時代になるといよいよあの有名なピラミッドが建設されることになるんだ。
地理:こんなふうにアフリカの北側4分の1はほぼ砂漠や、まばらな草原地帯(注:ステップ気候)になっているけど、それ意外の地域のほとんどが熱帯だ。
暑くて雨がたくさん降るんですね?
地理:たしかに暑いね。
ただ、雨がたくさん降り続ける(注:熱帯雨林気候)のは赤道のあたりだけで、それ以外は雨の降る時期とそうでない時期がハッキリ分かれるタイプの熱帯(注:サバナ気候)だ。
それに、アフリカの東の方には高い山が連なっていてね、山地と山地の間には「みぞ」(溝)が南北ににわたってずーっと続いているよ。
山のあるところでは赤道の近くなのに熱帯の気候ではなく暖かい気候になっているんだ(注:高山気候)。
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◆前12000年~前3500年のヨーロッパ
歴史:現在のヨーロッパには、このころ一面、森が広がっていたんだよ。
ドイツの「黒い森」は、ヨーロッパの数少ない原生林の「生き残り」だ。Photo by Max Langelott on Unsplash
そこに“お隣さん”の西アジアから農業と家畜の飼育のテクノロジーが伝わって来たのがこの時代だ。
小麦はあまり寒いところでは枯れてしまうから、北のほうでは代わりにライ麦という別の種類の麦が栽培されるようになるよ。
アフリカに近いほうのヨーロッパでは、海沿いにオリーブやブドウも栽培されるようになっている。夏にあまり雨が降らない乾燥気候に適しているんだ。
「アジア」と「ヨーロッパ」って、分ける意味あるんですか?
地理:うーん、「現に今あるヨーロッパ」は、長い年月をかけて生まれていくわけだけど、もちろんこの時代の「ヨーロッパ」にその特徴があるわけではないね。
ここではただ単に、一般的に「ヨーロッパと呼ばれる地域」を指して「ヨーロッパ」って言っているだけで、「アジア」との”境目”に何か特別な意味があるわけでは全然ない。
当時の人も、そんな”境目”があるなんて当然知らなかったわけだし、もっといえば、現在アジアとヨーロッパと呼ばれるところの間に線なんて引きようがない。
区別しようがないものに、区別しようと線を引いているようなものなんですかね。
地理:まあね。
区別できるとしても、それって結構「つくられたイメージ」に影響されていることって多い。
ここは「ヨーロッパっぽい」とか、これは「アジア的だ」とか。じゃあ本質的にほんとにそれって「ヨーロッパ的なのか?」っていわれると、かなり怪しい。
今に近づいてくると、住民たちも「自分はヨーロッパ人だ」とか「アジアに属している」とかって思うようになってくるんだけど、それにも「ひとつの正解」があるとは限らないし、人によって場所や時代によっても変わるしね。
まあここでは「ヨーロッパ」っていう地域は、国連が決めてるこの地域のことだよって、便宜的に決めてるだけだから、あんまり区切り過ぎないように。
どの地域をみるときも、常に「周りとの関係」を意識することが大切だよ。
このたびはお読みくださり、どうもありがとうございます😊