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5.4.3 中世西ヨーロッパの美術・建築と文学 世界史の教科書を最初から最後まで

中世西ヨーロッパの美術・建築

中世ヨーロッパにおける「美しさ」のベースは、《キリスト教的な価値観》にある。

「筋肉ムキムキ」で「セクシー」かつ「ギリシア・ローマ的」な彫刻・絵画・建築は”邪道”とされ、

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「つつましく」「きよらか」で「神の栄光を称える」ような彫刻・絵画・建築が”正統派”とされたのだ。

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ただ、やはりギリシア・ローマの影響が、完全に消え去ってしまったわけじゃない。


中世の初め頃には、東ローマ(ビザンツ)帝国のビザンツ様式(ドーム型のホールとモザイク壁画、イコンが特徴)がさかんにマネされた。


ローマ風の「長方形」の形に柱が立ち並んだバシリカのスタイルの建築も各地に建てられている。

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ローマに残るバシリカ様式の教会(サンパオロ=フオーリ=レ=ムーラ大聖堂

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やがて、ローマ風のバシリカ様式でつくられた教会の「横に凹んだ部分」が発達して、上から見ると「十字架 ✝️」の形をしたスタイルの教会も設計されるようになっていく。

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11世紀のころに流行った分厚い石壁と小さな窓をもつ重厚感ある建築様式がそれだ。
アーチや列柱などローマの建築の影響が見られる。”ローマっぽい”というところから、ロマネスク様式と称されるよ。
ピサの斜塔で知られるピサの大聖堂が有名だね。

音響効果が重視され、教会の中で歌う「祈りの歌」(教会音楽。グレゴリウス聖歌など)も発達していった。
当時の音階(ドレミファソラシド)は「和音」をベースにしたものではなく、それぞれの音階の持つ“個性”を大切にしたつくりになっていたところが特徴だ。


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ローマ世界の建築スタイルから脱却し、西ヨーロッパ世界のオリジナリティが出てくるのは、12世紀になってからだ。

いつの時代であれ、“富のシンボル”は「高い建物」。
反映する商人の経済力を背景に、彼らの寄進によって各都市に高層建築物が建てられていったんだ。


壁を薄くするテクノロジーの発達によって、窓を広くとることができるようになり、色とりどりのステンドグラスが飾られた。


『聖書』をモチーフにしたステンドグラスに光が差し込むと、教会内部は現代風にいえば”プロジェクトマッピング”のような幻想的な光景に包まれる。

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ただ天井が高くなった分、ロマネスク様式に比べると音がこもりにくい。
ロマネスク様式の頃は「単音」の聖歌が主流だったけれど、ゴシック様式になると「和音」の聖歌もつくられるようになり、のちの「西洋音楽」のベースとなっていく。





残念ながら2019年春に炎上してしまったノートルダム大聖堂や、シャルトル大聖堂が有名だね。



中世西ヨーロッパの文学


文学の世界にも『聖書』の価値観は色濃く反映された。


騎士としての理想の”生き方”を描いた騎士道物語(きしどうものがたり)が多数作られ、主君への忠誠心、神への犠牲心、女性や弱いものを守る心(レディーファースト文化だ)が、 “かっこいい”とされたんだ。


代表例には、フランク王国の騎士がイスラーム教徒と戦った事実を伝説化した『ローランの歌』。


ゲルマン人のブルグンド人に伝わる伝説『ニーベルンゲンの歌』。キリスト教文化が広がる前のゲルマン人の価値観がよくわかる作品だ。

それをモチーフに19世紀の音楽家ワーグナーはオペラ『ニーベルンゲンの指輪』を製作。全世界の支配を可能にする伝説の指輪をめぐる、神々と人間の戦いと愛を描いた超大作で、古今東西さまざまな作品に影響をあたえている。



ゲルマン人がやってくる以前のイングランドの伝説を反映していると見られる『アーサー王物語』などが代表例だ。


たいした娯楽などないし、文字を読める人がほとんどいなかった時代、歌・踊り・劇は数少ないエンターテイメントのひとつ。


当時のキリスト教では”恋愛感情”は「欲望」のあらわれとして、汚らわしいものとみなされていたけれど、そうはいってもなんでもかんでも禁止、禁止というのは我慢できない。


そこで、騎士と高貴な女性とのラブストーリーや、騎士の純愛をうたった吟遊詩人(ぎんゆうしじん)が登場。
楽隊を引き連れて国王・皇帝・領主の館をまわり、12世紀に人気を博した。
彼ら(貴族出身者もいた)の編み出した音楽は、教会音楽と合わせ、のちの西洋音楽の発展にも寄与することになるんだ。



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ここまで中世のヨーロッパ文化について3つのパートに分けて見てきたわけだけれど、何か気づくことはないかな。
ヨーロッパ」の文化については、教科書ではせいぜいビザンツ帝国の文化くらいしか扱っていないんだよね。

だからどうしても「中世のヨーロッパ文化」っていうと、イングランドとかフランスとかドイツ、イタリアの文化だけを思い描きがち。

でも「中世の東ヨーロッパ」にも、当然ながら豊かで独特な文化が発達していたんだ。
このシリーズは「教科書を最初から最後まで」という企画だから、それについてはまた別の機会に(以下、オススメ)。




このたびはお読みくださり、どうもありがとうございます😊