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世界史のまとめ×SDGs 目標⑪住み続けられるまちづくりを:1979年~現在

 SDGsとは「世界のあらゆる人々のかかえる問題を解するために、国連で採択された目標」のことです。
 言い換えれば「2019年になっても、人類が解決することができていない問題」を、2030年までにどの程度まで解決するべきか定めた目標です。
 17の目標の詳細はこちら。
 SDGsの前身であるMDGs(ミレニアム開発目標)が、「発展途上国」の課題解決に重点を置いていたのに対し、SDGsでは「先進国を含めた世界中の国々」をターゲットに据えています。
 一見「発展途上国」の問題にみえても、世界のあらゆる問題は複雑に絡み合っているからです。
 しかも、「経済」の発展ばかりを重視しても、「環境」や「社会」にとって良い結果をもたらすとはいえません。
 「世界史のまとめ×SDGs」では、われわれ人間がこれまでにこの課題にどう直面し、どのように対処してきたのか、SDGsの目標と関連づけながら振り返っていこうと思います。


【1】メガ化・グローバル化する都市

―この時期(1979年~現在)は巨大都市があちこちに出現していく。

どのくらいの規模ですか?

―100万人レベルの都市なら、600年~800年頃にはすでに存在していた。

 でも、この時期の大都市というのは人口1000万人以上の規模に膨れ上がる。

 すでにこのレベルの都市圏は23も存在し、人口500万人以上の都市圏も60になる見込みだ(2015年)。


田舎が減って都会が増えるってことですよね? 何が問題なんですか?

―なんの手を打たないまま人口が増えていくのを眺めているだけじゃ、「社会」「経済」にとっても「環境」にとってもマズい。

 また、この時期に「自由な経済」が世界中に広がると、物の取引だけではなく金融取引の中心地として、国境を越えてお金を寄せ集める大都市も現れる(注:グローバルシティ)。

 こうした都市は、単に国際色豊かな都市というだけにはとどまらない。

 IT技術を駆使したハイレベルな仕事に携わる高所得者が暮らす一方で、さまざまなところから移動してきた労働者が低い給料で土木作業やサービス業などに従事する。
 ビルのオフィスで働く人と、そのビルを建てる人。
 サスキアによると、グローバル・シティではこうした「分断」が進行する傾向があるという。




* * *

【2】都市の”寿命”が切れるとき

ーいきなりだけど、この街は「住みやすい街」だと思う?


見た感じ、良さげですけど。緑もあるし、都会だし、水辺もあるし。まあ、これ見ただけじゃわからないですね。

ーまあ、そうだよね。この街はね、アメリカ合衆国にあるデトロイトというところだ。


 たしかにここはかつてとっても栄えた街だった。初め馬車の製造の中心地となり、その後は自動車の大量生産で栄えた。

でも、ひとつ前の時期(1953年~1979年)の終わり頃、大事件が勃発。

 アフリカ系の住民たちが、白人に対してとても大きな暴動を起こし、アメリカ全土に衝撃を与えたんだ(注:デトロイト暴動)。

まるで戦場ですね…


ーその影響から街の中心部にいた白人は郊外に住むところを移すようになり、中心街は貧しいアフリカ系の住民の比率が高まっていった。

 さらに自動車産業の衰退と、この時期に起きた世界同時不況(注:2008年)が追い打ちをかけ、廃墟(はいきょ)の広がる地区もできてしまった。

1950年に比べて63%の人口減。人口の11.5%が65歳以上で82.7%が黒人であり、27.8%が2009年7月の時点で失業中。40%の街灯は電気がつかず、ミシガン州全体では貧困率が15.7%であるのにデトロイトでは36.2%。市内の救急車の2/3は動かない。そして警察に通報後、警官が到着するまでは平均58分かかる。全米平均の11分を大きく上回る所要時間だ。(Bizzine「デトロイト再生のキーパーソンが語る、都市デザインに不可欠な「インクルーシブ」とは何か」より)


都市にも浮き沈みがあるんですね…。

ー「経済」的な都合で発展した都市は、内部にさまざまな歪みを持っていることが少なくない。

 例えば、この時期には途上国の都市が巨大化し、その成長スピードに追いつかずに「社会」にさまざまな問題が起きている。


* * *

【3】問題をかかえる途上国の都市

 たとえば、ブラジルの大都市リオデジャネイロに注目してみよう。

 海岸沿いに広がるビーチの背後には山々が連なるこの街。かつてはアフリカから連れてこられた奴隷たちが「やってられねえよ」と逃げ出して、武装して山の斜面にコミュニティを築いた歴史もある(注:キロンボ⇒ゼロからはじめる世界史のまとめ 1500年~1650年)。


ブラジルにもアフリカ人奴隷が連れてこられていたんですね。

ーサトウキビの栽培・砂糖の生産をさせられていたんだよ。ブラジルは世界的にみても奴隷制を廃止するのが遅くてね(⇒世界史のまとめ × SDGs 第20回 グローバルなものとローカルなもの(1848年~1870年))。
 廃止されたらされたで、貧しい黒人が街に流れ込んだ。
 条件の悪いところにすまざるをえない彼らがオンボロ小屋を建てたのが、山の斜面。このエリアをファベーラと呼び、公的な許可を得ないまま住み着く人々が急増。
 治安がどんどん悪化していった。

 ひとつ前の時期(1953年~1979年)には、「貧しい人をファベーラから移住させ、家を与えよう」というプロジェクトが政府によって進められた。でもその実態は、さらにどうでもいい土地に貧しい人たちを厄介払いするだけのもの。
 ファベーラの人たちの経済医療・教育の状況は改善されなかったんだ。


ほかの国でも、貧しい地区が問題になっているところはありますよね。

ーよく取り上げられるのはフィリピンのゴミ捨て場周辺に生まれた街だね。ゴミの山からもくもくガスの煙が上がっているさまから、いつしかスモーキーマウンテンと呼ばれるようになった。

 ここに集まるのは首都マニラの都会で生活を送る人たちが出す大量のゴミだ。ここで暮らす人たちはゴミの中から「売り物」になる鉄くずなどを探し、それを売ってその日暮らしていくためのお金を手に入れるのだ。


政府の対策は?

ーゴミ捨て場を閉鎖し、住民を別の場所に移転させた。
 でも、「ゴミ山の街」は別の場所で存続しているのが現状だ(注:パヤタス・ダンプサイト)。


* * *

【4】都市は計画できるのか

ーデトロイトやリオデジャネイロ、フィリピンのゴミ山に共通する問題は何だと思う?


街の中に「不公平」なところがあるところですかね。デトロイトだったら、黒人が差別されていて。

ーその通り!
 街がいくつかのグループに分断されていて、苦しんでいる人が特定の場所に隔離されてしまっているよね。


どうしたらこうならないようにできるんでしょうかね。

ーかつては街の基本的なプランは何人かの建築家によって決定された。

 「街のプランは建築家が決める」のが一番良いと考えられていたんだ。

 

「計画的につくれば、うまくいく」ってわけですね。

ーそう。
 都市には「経済」(なにか「価値のあるもの」をつくって配分したり交換したりすること)の機能だけでなく、「政治」(なんらかの「力」によって人々をまとめること)の機能もあるからね。

 「価値のあるもの」を都市に呼び込めば呼び込むほど、都市の生活は豊かになる。その一方で、その「価値のあるもの」をどんなふうに大勢の人たちに配分するかが問題になる。
 富を独占しようとする人は、いつの時代にも付き物。支配者はなんらかの「力」を使って、富を独占しようとしてきた。
 でも、都市の人口が増えまくると、不平等が拡大しすぎたときには困ったことになる。

貧しい人たちが反乱を起こす場合がありますね。

ーそう。「不公平感」が広がりすぎるのも問題だ。
 そこで都市の支配者はこう考える。

 暴動が起きたときに、すぐに警察・軍を出動させることができるよう、街のつくりを出来る限り整然とさせよう、とね。19世紀後半に「お金持ち」と「貧しい労働者」の対立が深まっていった際、支配者が大規模な計画都市の建設によって対抗しようとしたのには、そんな事情が働いているわけだ。


「支配のための都市」というわけですね。

ーそう。都合の悪いやつらには都市の中のある一定のブースを割り当てるか、都市から追い出せばいいわけだしね。

 そうなると、都市の中の人々はますます分断されていくことになる。都合の悪い人たちの生活はどんどん貧しくなり、都市の整備もゆきとどかなくなる。

 「市民」として存在が公的に認められない人々はサービスを受けることもできず、川辺や線路沿いなどの危険なところに間に合わせの住居を建てざるをえなくなる(注:スクウォッター)。そういった人々を利用するのは、決まって ”闇”の犯罪組織だ。性犯罪や暴力の温床が生まれることになる。


計画的に都市をつくるっていっても、その計画が人々の自由な生き方やつながりを奪うことになったら、元も子もないですよね。

ーだよね。
 でも20世紀の建築家たちは、「計画的に美しい都市はつくれる」と信じて疑わなかったんだ。
 代表的な建築家(注:ル・コルビュジェ)は、コンクリートを多用した大規模なプロジェクトを目指し、すべての人に ”現代的な” 暮らしを提供できることを願って活動した(注:「輝ける都市」)。

 コンクリートでできた超高層ビルは、その象徴だ。
 産業界との結びつきも背景にある。

 第二次世界大戦(1939年~1945年)後のアメリカは空前の繁栄を迎え、大都市に次々に超高層ビルが建てられていった。

 でも、その計画の中身は先ほど言ったような「分断」そのもの。
 住民のエリアをはっきり分け(注:ゾーニング)、貧しい人々を都市から追放しようとした。

 途上国の都市も、植民地支配に都合がいいように「計画的に」つくられたものが多い。

 人工が急増し機能不全に行っているのも、植民地支配の「負の遺産」ともいえそうだ。

「都市設計者が陥りがちな誤りは、安易な「機能優先の合理主義」で都市を設計してしまう、ということだ。どういうことかというと、物理的な時間や物理的な空間だけを尊重して設計するなら、「道はまっすぐなほうがいい」、「道路は格子状がいい」、「区域はオフィス地帯、工業地帯、商業地帯、住宅地帯などのように、機能別になっていたほうがいい」、などと推論しがちであるが、これが誤りなのである。このような発想で都市を構成することを「ゾーニング」と呼ぶ。」(注:小島博之「環境と経済と幸福の関係」WIRED VISIONより)


それじゃあ副作用が出るのは必至ですね。

ーそう。ビッグプロジェクトが都市を支配することに反発する建築家(注:ジェイコブズアレグザンダー)も現れることになるよ。

* * *

【5】多様でなければ都市じゃない

 例えばアメリカの女性建築家は、「素敵な都市」の条件は多様性が豊かなことだとし、ニューヨークの街が凝り固まった建築家のプランですたれていくことを止めようとした。


多様性ってことは、いろんな要素が同居するってことですね。

―そう。黒人も白人も、豊かな人も貧しい人も、年齢や職業にも関係なく ”ふれあう”チャンスをつくることが、豊かな都市の条件と考えたんだ。

***

◆一部の人しか集まらない街なんてつまらない
‥一つの地区に、2つ以上、できれば3つ以上の用途がある施設があって、いろんな時間に出入りが可能でみんなで利用できること。

◆長い道には”偶然”の出会いがない
‥短い街区をたくさんつくることで、角を曲がったときに”偶然”の出会いが生まれること。

◆新しい建物ばかりじゃつまらない
‥新しい建物の中に古い建物が混ざるようにすること(新たな事業をおこす際、賃料の安いところもあったほうがよく、経済の活性化につながる)。

◆閑散としすぎちゃうのはよくない
‥なんであれ、人が集まっているに越したことはないこと(注:フードデザート問題)。

彼女はこの4つの条件が大事だと考えたんだジェイン・ジェイコブズ『アメリカ大都市の死と生』鹿島出版会、2010年


***

―また、別の建築家(注:アレグザンダー)は「高層ビルよりも、小規模な低層集合住宅のほうがいい」と提案する。


 さらに、建築は難しい物理や高度なデザインの知識が必要で、「みんながどんな都市が望ましいのか」を話し合って決めることが難しい。そこで、繰り返し建築に現れる要素をパターン化する試みも進め、その後のまちづくりはもちろん、暗黙知を必要とするさまざまな分野に大きな影響を与えたよ(注:パタンランゲージ)。

)「1970年代にアレグザンダー氏と仲間たちは、心地よさの秘訣のようなものを、253個の短い言葉にしました。そこには、「緑」「広場」「小さな人だまり」「動物」といった、物的な構成要素から、「ライフサイクル」「親密度の変化」「会食」「腰をすえた仕事」など、一見すると街や建築の構成要素には見えないものまで含まれていて、まるで詩のようにも見えます。
これらを組み合わせて考えていくことによって生き生きとした都市や建物が生み出せる、とアレグザンダー氏は言います。彼は、この253の言葉群を「パターン・ランゲージ」と名付けました。」(看護師のためのwebマガジンかんかん!「第1回 パターン・ランゲージって何だ?」より)

 さまざまな分野への応用が構想されている(井庭崇のConcept Walk「パターン・ランゲージ4.0(社会・コミュニティデザインの言語)の構想」、2013年より)

住人を「仲間分け」したり「画一的」な計画を押し付けたりするよりも、多様性を確保したほうが良いということですね。

―多様性は活力を生むしね。


 ただ単に古い建物を壊して新しくすりゃいい(注:ジェントリフィケーション)ってもんじゃないし、ただ単にビルばっかり建てればいいってわけでもない。


 「経済」という観点からみてみると、例えばアメリカ合衆国のボストンは大学・研究施設があることで知られるよね。ベンチャー起業家・投資家が集まりやすい環境があることも、街の発展にとっての強味になっているんだ。


―国境を越えてさまざまな人が移動する現在。
 外国人と接する機会が急増して文化をめぐるトラブルが起きたり、外国人の住むエリアを分離させたりと、都市の抱える問題は山積みだ。
 かつて、都心にほど近い郊外に家を構え、職場への移動距離を短くし、緑地を設けることで住みやすい定住エリアをつくろうという動きも盛んに実施された(注:田園都市)。現在でも、特定の人だけで街をつくろう(注:ゲーティッドコミュニティ)とか、移動要らずのちっちゃな街をつくろうといった試みは世界各地で見られる(注:コンパクトシティ)。

でも、そもそも人間は移動する動物。同じ場所から抜け出すことで、思いもよらない発展を生み出し続けてきた。分ける」という発想は、しばしば憎しみや暴力を生んできた。


小さな集団だけの付き合いじゃ、新しいアイディアは生まれにくいですもんね。

― 人と人との出会いを意識的に増やすというのではなく、都市の構造そのものに、偶然の出会いを生むような「しかけ」を組み込んでおくことは、都市の安全にとっても有効だ。

 普段からのかかわりは災害が起きたときにも役に立つからね。

 大切なのは「違いを包み込む」という視点だろう。


日本も移民の受け入れを増やすという方針になったんですよね。

ー日本も他人事ではなくなっているよね。どのようなまちづくりをしていくことが”持続可能”なまちづくりにつながるか。それも住民の選択にかかっているといえそうだ。

* * *


【6】「環境」と両立したまちづくりへ

―都市の発展について考えるとき、もうひとつ考えるべきは「環境」とのバランスだ。

 都市は物の生産消費は得意だけれど、廃棄が苦手だ。
 都市でいらなくなったものは外に排出される。
 でも、「」といっても地球全体からみれば「」だ。
 限界がある。

 都市は人間の活動によってつくられたものだけれど、人間にとっては活動の基盤となる「環境」だ。
 「住み続けられる街」をつくる上で、よりよい環境づくりはやはり外せない。


どんな工夫をすればいいんでしょうか?

―つつましい暮らしに戻ろうという活動(注:インドのオーロヴィル)や、経済のあり方を変えていこうという運動も盛んだ。

 ただ都市をめぐる目下の課題は、急増する人口を抱える既存の都市の問題をどうするかだ。

 資源の利用や廃棄によって、都市の「中だけでなく外も」、長続きすることができるようにできないかと、世界各地で試行錯誤がつづいているよ。

その場所の気候や資源、経済の状況によっても対応策は変わりそうですね。

―そうだね。都市部ではビルの屋上を緑化したり、水の再利用を進める方法もある(⇒目標⑥安全な水とトイレを世界中に:1979年~現在)。けれど雨の降らない乾燥エリアでは難しいよね。


中東では気温が50度まで上がるところもあるといいますよね。

―そんなところでエアコンをガンガン利かせれば、温暖化に影響を及ぼすガスの排出につながってしまう。

 そんな中、アラブ首長国連邦を構成するアブダビという国は、快適な暮らしを実現するための工夫がいくつも導入されている例として知られている。

「中央に立つ塔が中東の伝統建築「ウインドタワー」を現代風に改良したもの。上空の風を冷気に変えて地面に吹き付ける仕組み。」

 また、温暖化に影響を及ぼすガスの排出を抑えるために、低排出自動車に乗るよう義務付けているほか、中東ではお決まりの石油ではなく風力による発電にも積極的だ。

 ほかの都市でも、都市の中への自動車の乗り入れを制限しているところがあるね。

 「住み続けられるまちづくり」にも、このように「社会」「経済」「環境」のバランスが必要というわけだ。都市は「みんなのもの」だからね。


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