世界史のまとめ×SDGs 目標⑥安全な水とトイレを世界中に:1979年~現在
【1】「見える」水問題
「安全な水」…ですか?
ー日本では「蛇口の水が飲める」っていうのは当たり前だけど、世界じゃそうとは限らない。
浄化されていない水を飲んで感染症にかかれば(⇒目標③)、それがもとで栄養失調や(⇒目標②)貧困(⇒目標①)にもつながる。
深刻な問題なのだ。
また、下水道が整備されていないため、汚水が垂れ流し状態となれば、感染症が広まるリスクも高まる。
例えばインドでは、下痢などによって発育阻害となった子どもの数は約4,800万人強にものぼるんだ。
トイレの整備が急務なんですね。
インドでは清掃は「身分の低い人が担当するもの」という習わしが強く残っている。
だからといってポイポイ家の外にゴミを捨てたら環境は悪化するばかり。現在の首相(注:モディ首相)は「掃除をしようキャンペーン」を展開している。
ソフト面でも安価なバイオトイレの普及など、成り立ちうるモデルが模索されているよ。
追記:日本トイレ研究所 加藤篤さんが、大阪工業大学の金藤敬一特任教授による「人間の尿から直接発電し、蓄電もする「尿素燃料電池」」を紹介されている。(2019/4/2)
キレイな水を確保できるって当たり前のことじゃないんですね。
ー「経済」「環境」「社会」のバランスを考えなければ、キレイな水を持続的に利用するのは難しいよね。
都市に人口が増えれば足りなくなるし(⇒目標⑪)、気候変動によって乾燥が進む地域(⇒目標⑬)では水をめぐる争いが起きるのではないかとも懸念されているんだ。
水戦争ですか。
ー2011年に始まり現在も続くシリア内戦も、干ばつが生んだ社会対立が遠因にあるともいわれている。政府の水管理の甘さは、政情不安にもつながるのだ。
過剰な開発によって自然にある湖がなくなってしまった例も少なくない。
例えばアフリカ中央部にあるチャド湖は、10000年前には100万平方kmあったといわれている(注:大チャド湖)。1960年代には2万6000平方kmあった面積は、今ではその15分の1にまで縮小している。周辺国の農業用水としての過剰な利用が主な原因だ。
湖が干上がれば漁業や農業が成り立たなくなり、貧困(⇒目標①)や争い(⇒目標⑯)の原因となってしまう。実際にチャド湖周辺の人々は、武装組織(注:ボコ・ハラム)による被害を受けている。
ほかにも例はありますか?
ー中央アジアのアラル海も、ソ連時代に過剰な農業用水のくみとりによって縮小した湖のひとつだ。灌漑農地の増加は気候変動にも影響を与えられているという研究もある。
オセアニア(太平洋)地域は水問題とは関係なさそうですね。
ーいやいや、海に囲まれた小さい島こそ、水問題は深刻だ。
南太平洋の島々は、エルニーニョ現象(参照)が起きた翌年に干ばつになる可能性が高いことが知られている。1997年~1998年のエルニーニョの翌年の干ばつの際には、日本政府が海水淡水化装置を支援。2011年の大干ばつの際には、国家非常事態宣言を出すに至っている(⇒ツバルオーバービュー「高まる水不足への不安と対策」2016/06/16)。
各戸には国際的な援助を受けた貯水槽が設置されている(筆者撮影、2018)
海水を淡水化する装置なんてあるんですか?
ーツバルのようなサンゴ礁でできた小さな島だけでなく、中東などの乾燥エリアでも注目されている技術だよ。
この時期の中東は、原油価格の値上がり(注:原油価格の推移)を背景に、リッチになった国が続出。原油でもうけたお金を元手に、金融・サービス業が発達するようになっている。都市化がすすめば飲み水の確保が急務となったのだ。
2020年にはアラブ首長国連邦(1971年に独立)で万博が、2022年にはカタール(1971年に独立)でサッカーワールドカップが開かれる予定だ。
水をつくる技術が注目されるわけですね。
ーどんな地域でもこういった大きなインフラを作れるわけじゃないよね。しかも処理方式によって排塩の処理といった弊害も生む。
もっとシンプルな装置で浄化された水へのアクセスを増やそうという取り組みも導入されるようになっているよ。
【2】「見えない」水問題
水を「ビジネス」とみる動向も盛んだ。
その一方で、水に事欠かない我々の暮らしが、地球の別のエリアの水不足を生んでいるおそれのあることにも気づくべきだと思うよ。
どういうことですか? 日本で水をどう使おうが関係ないんじゃないですか?
ー問題なのは「隠れた水の使用量」なんだよ。
日本は食品の多くを輸入に頼っている国だよね。
お肉もたくさん輸入している。
そのお肉を作るのには、家畜を育てる過程から出荷する過程まで、とっても多くの水を使わなければならないんだ。
つまり、お肉を輸入しているってことは、その分、たくさんの水が使われているんだってことですか。
ーそう。実際にわれわれが使っているわけじゃないんだけどね。
日本に大量の小麦・トウモロコシ・牛肉などを輸出しているアメリカ合衆国の農業地帯では、豊富だった地下水(注:オガララ帯水層)の枯渇も懸念されている。
そういう「隠れた水の使用量」まで計算してみようというのが、バーチャルウォーターという考え方だ。
そうなると、日本はある意味、「水の輸入国」ってことになりますね。
ー冷戦の終結後、「自由な経済」の広がりの影響を受け、日本にも牛肉やオレンジなど(1991年)、多くの分野で海外の農産物・畜産物の輸入が自由化された。
これまでは考えられないような遠いところから運ばれて来た食品が、食卓の上ののぼることも珍しくなくなった(注:フードマイレージ)。気が付かないところで、世界の「水資源の枯渇」に加担している現実もあるわけだ。
このたびはお読みくださり、どうもありがとうございます😊