みんなの世界史
【推薦書リスト】世界史独学のための100冊
「ロシア」「ウクライナ」に関係する内容の可能性がある記事です。
極端な内容・真偽不明の情報でないかご注意ください。ひとつの情報だけで判断せずに、さまざまな媒体のさまざまな情報とあわせて総合的に判断することをおすすめします。 また、この危機に直面した人々をサポートするために、支援団体へのリンクを以下に設置します。 ※非常時のため、すべての関連記事に注意書きを一時的に表示しています。
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【推薦書リスト】世界史独学のための100冊

みんなの世界史
世界史を独学するにはどうすればいいか? ネオ高等遊民さん(note@kotoyumin)の記事を拝見して、「みんなの世界史」でもシリーズ本や全集を含め、100冊ほどの書籍をピックアップしてみることにしました。「なんとなくでOK」「受験のため」というのではなくて、ゆくゆくは専門的な書籍も読んでみたいというまじめな方向けの、まじめな選書でありつつ、高校生にも薦めることができそうな本を中心に選んでいます。

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選書の方針


世界史のカバーする範囲は、とてつもなく広い。個々のプロパーは別として、初学者向けの体系的な概説書を挙げようとしても、経済学や哲学にあるような、誰しもが挙げるような「定番」があるわけでもない。


では、どんな書籍を選びとっていくべきか。
ひとまず、注目したいのは「発行年」だ。

19世紀以降、歴史学者たちがとりくんできたのは、どうすれば過去の世界をできるかぎり正確にとらえることができるかということだ。
その一方で、「歴史はこういう法則にのっとって進化していくものだ」という臆見を先に用意し、過去の出来事がその考え方に合うように、後から当てはめていくような世界史の描き方も少なくなかった。
そういった手法への反省が進んでいった時期が、おおよそ1980年代〜2000年代以降にあたるのだ。

そういうわけで、肌感覚で言えば、1980年の以前と以後、2000年以前と以後で、歴史学者の書く書籍の“ノリ”は、おおきく変化していく。

もちろん、1980年以前の著作に手を出さないほうがよいというわけではない。ホイジンガブローデルブロックカー宮崎市定内藤湖南、岩波新書の青版や黄版など、すぐれた著作には枚挙にいとまがない。しかし、それは次のステップで読み進めていくものとしよう。
今回のリストでは、あくまで概ねだが、1980年代以降、とくに2000年代以降に主に日本人によって書かれた、書店や図書館で(価格の面でも)入手しやすい本にしぼって、紹介していくことにしたい。現在の歴史学の潮流や成果を先に把握した上で、過去の時代の歴史家に触れれば、その差分も、より一層明らかになるはずだ。

100冊という制限があるため、「なんでこの人の代わりに、この人が入っているんだ?」と思われるものもたくさんあるだろう。本当はこっちだよなあ、と思ったものも沢山ある。また、一般にマイナーな領域であるほど、初学者向きの本は多くない。「高校生でもおもしろく読めそうなもの」となると、いっそう大変だ。そもそもすべてをカバーすることは無理なので、開き直って自由に選んでみた。また機会を見て、選び直してもみたいと思う。

良書がありましたら、ぜひみなさんもご紹介ください。

追記: 一晩経って考えてみると、年代よりももっと大事なポイントがある。それは、なるべく本文に「出典」の注がつけられている書籍を選ぶことだ。

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仕分けするために暗記する

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世界史を学ぶのは、大海を泳いでいくようなものだ。


十分な装備もせずにで泳いだら、どこにいるのかもわからず、漂流してしまう。


もちろん、泳いでいる途中に新たな島に出くわすたびに、新しい知識を得ていくこともできるだろう。読書中に、わからない言葉に出くわしたら、その都度調べることも大切だ。
しかし、できることなら、ある程度のマニュアルや地図を持っておいたほうが、航海も楽しくなる。まったく知らない言葉ばかりの文章を、ひたすら読み進めていくのは、目印のない大海をさまよっていくようなもので、辛いものだ。その際、高校の教科書レベルの世界史の知識が準備されているかいないかは、大きな違いとなる。最低限の知識は、「浮き輪」や「ブイ」の役割を果たしてくれるはずだ。

つまり、一定の語句を暗記しておくことで、「知らない言葉」を「知っている言葉」を適切に「仕分け」することができるようになる、というわけだ。


このことについて、以下で紹介する書籍の難易度に注目して、もう少し考えていきたい。

歴史に関する書籍を読むときに壁となるのは、「固有名詞」だ。

「固有名詞が多い」 → 難しい
「固有名が少ない」 → 少ない

さらに、著者の論理的な難しさ、読者に要求するレベルの高さが、それに加わる。

A.「前提とするレベルが高く、固有名詞が多い」→ ★★★★
B.「前提とするレベルは高いが、固有名詞は少ない」→★★★☆ 
C.「前提とするレベルは低いが、固有名詞が多い」→★★☆☆ 
D. 「前提とするレベルが低く、固有名詞も少ない」→★☆☆☆

かりそめに★をつけてみたが、A〜Dのうち、Bのほうが、Cよりも難しいのかといわれると、一概にそうともいえない面がある。

たとえば、こんな文章を読んでいくとしよう(家島彦一(2013)『イブン・ジュバイルとイブン・バットゥータ』山川出版社、40頁)。

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このうち、高校の世界史の教科書にのっている言葉を黄色で、のっていない言葉はピンクで塗ってみる。

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世界史の書籍を読んでいくということは、「あ、これは知っているぞ」(=既知)という「黄色の用語」に助けられながら、「これは知らないなあ」という「ピンクの用語」(=未知)に立ち向かっていくということだ。ピンクばかりの用語だらけの文章を読み続けるのは、さすがにむずかしい。

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しかも黄色の部分までわからないとなると、こんな「黒塗り」の文章を読み進めるような状況に陥る。これでは読む気も失せるはずだ。

だからこそ、これは最低限知っておかなければという用語がわかっていれば、未知の用語に出くわしても、「ああ、これは知らなくても、大丈夫なんだな」と溜飲を下げることができる。

つまり、既知と未知の「仕分け」をしながら読んでいくことが、とても大切なのだ。


あらためて先ほどの分類にもどってみよう。もちろん、個々の著作によってもレベルは特徴はさまざまだから、一概にはいえないが、次のように分けることができるだろう。
A.「専門性が高く、固有名詞が多い」は、いわゆる「難しい」専門書だ。前提とする情報量が多いので、それが書かれた議論経緯がわからなければ「何について(何のために)述べているのか」さえつかめないものすら少なくない。
よって、ここでおすすめするものから、Aは除く。

B.「専門性が高いが、固有名詞は少ない」。この部分は、過去の歴史について扱っているものの、抽象的な議論であったり、経済的な分析が多かったりする書籍に多いだろう(たとえば、R・C・アレン(2017)『世界史のなかの産業革命―資源・人的資本・グローバル経済』名古屋大学出版会)。
ここでおすすめするラインナップは、Bに該当するであろう書籍もいくらか含めた。

C.「一般向けだが、固有名詞が多い」。これは、一般向けの史論や歴史書に多い。広く読まれている半藤一利氏、保阪正康氏とか、ユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史』(後述)を想起するとよいだろう。また、一般向けに書かれた新書や文庫化された書籍も、ここに含まれる。
今回のリストの中に、もっとも多く含まれるのは、Cのカテゴリーだ。固有名詞が多くて挫折をしてしまうこともあるかもしれない。だが、完璧主義者になるのはやめよう。先ほどの例を思い出し、めげずにページをめくっていってほしい。すべてを知る人など、いないのだから。


D. 「一般向けで、固有名詞も少ない」。
これは一見、もっとも簡単なように思えるかもしれない。
たとえば、子供向け、ヤングアダルト向けの書籍(たとえばベングト=エリック・エングホルム『こどもサピエンス史: 生命の始まりからAIまで』NHK出版)のような書籍が挙げられる。また、歴史哲学や批評的に歴史を扱う分野も、これに該当するだろう(例:柄谷行人(2010→2015文庫化)『世界史の構造』岩波書店)。
他方で、暗記地獄化する世界史教育への批判から、近年では積極的に固有名詞を減らし、歴史的な見方・考え方を養おうとする書籍も、いくつか刊行されている(参考:【003】桃木至朗ほか編(2014)『市民のための世界史』大阪大学出版会)。


以上、「固有名詞」と「前提とするレベルの高さ」によって、どのような書籍が世界史独学の入門にふさわしいか検討してきた。
なかにはいきなりAやBのカテゴリーから入れるという人もいるだろう。しかし、ここではなるべく、Cを多めにして、リストの対象にくわえておきたい。
しかし、なんの準備もなしにCの書籍を読みこなしていくのは、「未知」と「既知」の「仕分け」ができず、ひじょうに骨が折れる。
だからこそ、【守】の段階においては、基礎的な用語にあらかじめ出くわし、できるかぎり頭に留めておくことが、挫折を防ぐ鍵となるだろう。

だが、よほどのことがない限り、高校の時に学んだ世界史の内容が、アタマに残っている人なんて、ふつうは一握りだろうと思う。そもそも高校生のときにはまったく関心がなかったのに、大人になってあとから興味が出て勉強し始める方も少なくないはずだ。

しかし高校生のときのように、打算や強制力が働いているわけでもない状況で、世界史の内容を自力で記憶していくのは、結構大変だ。具体的な独習法については、また別の機会にまとめるとして、今回は、以下の【守】の部分で、学習に役立つ書籍を紹介していくことで代えたい。そして次の【破】では、【守】で学んだことに、別の視点を導入しく。最後に【離】では、過去の世界を、さらに様々な視点からとらえるヒントとなる書籍を紹介していくことにしたい。

では、具体的に書籍を紹介していこう。

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【守】

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【守】は、世界史を学んでいく上で必要な基礎知識をインストールし、「既知」を蓄えていくステップにあたる。
高校生のときの勉強に、もう一度チャレンジしてみるという方法もあると思うが、ここでは、次の【破】のステップに備えるために必要な力をつけるために有効な書籍を紹介していきたい。

世界史の「全体像」に触れるための本

通常はE・H・カー(1962)『歴史とは何か』岩波新書とか小田中直樹(2004)『歴史学って何だ?』PHP新書などの歴史学入門から始めるところであるだろうが、ここでは何よりもまず、世界史の「全体像」に触れておくことをオススメしたい。

とはいえ、いきなり古代から現代まで、詳細な点にあたるのは、いくらなんでも大変だ。そこで手軽なのは、なんといっても漫画である。

世界史学習漫画には、近藤二郎・NPO法人世界遺産アカデミー・監修(2018)『学研まんがNEW世界の歴史 全14巻』学研山川出版社編(2018)『小学館版学習まんが 世界の歴史全17巻』小学館(2009)『集英社 まんが版 世界の歴史 全10巻』集英社文庫 がある。 また、一巻ものとしては、予備校講師の執筆した佐藤幸夫氏斎藤整氏ゆげ塾などもある。

ここでは、特に次のシリーズをピックアップしたい。

【001】羽田正監修(2021)『角川まんが学習シリーズ 世界の歴史全20巻セット』KADOKAWA


漫画だからといって侮ってはいけない。後で紹介する羽田正さんが監修する漫画シリーズで、現在販売されている漫画学習シリーズではいちばん新しく、内容的にも優れている。たとえば、集英社版や学研版と比較すると、出来事や人物の重点の置かれ方がまるで違ったり、世界史のヨコの繋がり(同時代の関係性)が強調されていたりと、新しいアプローチで描かれた世界史を体感することができるはずだ。

いや、自分は漫画が苦手だ、本が読みたいという方なら、シリーズものの世界史がよいだろう。

【002】『世界の歴史シリーズ』中公文庫

読書猿さんのエントリにまとめられているように(2010.10.23 世界史を走破する通史/各国史16シリーズ200冊をまとめてみた(読書猿))、シリーズものの世界史にはいくつもの選択肢がある。
ひとつ選ぶとすれば、中公文庫の世界史シリーズだ。
初学者向きなのは新版(緑色の表紙)のほうだが、旧版にも名著は多い(先ほど1980年代以降のものを読んでいこうといった手前ではあるが、なんといっても叙述に圧倒的な魅力がある。とくに、堀米先生による第3巻「中世ヨーロッパ」は、今なお不朽の名作だ)。

どれを入り口にするにしても、なにより大事なのは、期間を決めて最初から最後まで通読することだ。

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一点ものなら?

シリーズものは時間も予算もオーバーだということなら、一点ものとして、以下のような著作がある。

【003】大阪大学歴史教育研究会編(2014)『市民のための世界史』大阪大学出版会

カリキュラムの矛盾や入試問題に災いされて、高校生の歴史認識は後退している。本書はそのような現状を跳ね返し、歴史を学ぶ意義や面白さを知ってもらうことをモットーに、全国の高校教員と協力して作られた。人名や年号は極力減らす、「像を結ぶ」「因果関係や背景がわかる」説明を目指す、要所に学習者への問いかけを挟むなど様々な工夫をして、歴史に親しむ習慣を養う。市民向けや入試の副読本にも使える画期的な教科書。

国別の世界史ではなく、ヨーロッパ中心の世界史でもなく、新しい世界史の語り方を組み立てようという動きは、2000年代以降、ますます盛んになっている。大阪大学教育研究会編集の本書は、新しい研究動向も踏まえながら、世界史の展開をおさえるのに最適だ。


【004】小田中直樹、帆刈浩之・編(2017)『世界史/ いま、ここから』山川出版社

Amazonレビューのなかに、「『市民のための世界史』の上位互換本」と書かれた人がいるが、まさにその通り。西アジアや南アジア、アフリカなど、あまり馴染みのない地域の記述の詳しさに辟易してしまうかもしれないが、これに取り組むことで、だいぶ明るい見通しがひらけてくるだろう。巻末のブックリストも参考にできる。

【005】岡本隆司(2018)『世界史序説―アジア史から一望する』ちくま新書

アジア史の観点から世界史を一望。そのとき「ヨーロッパの奇跡」「日本の近代化」はどう位置づけられるのか。西洋中心の歴史観を覆し「来るべき」世界史をえがく。

さらにコンパクトなものをということなら、これを。本書は、一般向けの書籍を多数刊行している、中国近現代史の岡本隆司氏が、アジア史の観点から世界史の語り直しを図ったもの。多少、固有名詞が多く、初学者にとっては知識量がやや多いかもしれないが、一読をおすすめしたい。次に挑戦するとしたら、ややレベルアップするが、アジアに視点を置いた世界史の概説としては、南塚信吾、秋田茂、高澤紀恵・編(2016)『新しく学ぶ西洋の歴史:アジアから考える』ミネルヴァ書房がよいだろう。また、北村厚(2018)『教養のグローバル・ヒストリー:大人のための世界史入門』ミネルヴァ書房は、グローバルなネットワークの変遷に注目したもので、教科書代わりとしてもお薦めできる。

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「◯時間でわかる世界史」系


【006】山﨑圭一(2018)『一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書』

著者は世界史を(1)ヨーロッパ(2)中東(3)インド(4)中国に分け、「世界の一体化」以降は(1)欧米(2)インド(3)中国に分け、それぞれを「主人公」として語っていく。
もちろん、そんなふうに世界史をとらえるのには無理があるし、内容については、「?」という点(「たとえ話」が実態と大きく逸脱しているところ)も少なくない。しかし、厳密さは、しばしば初学者を挫かせる。まずはざっくりと1冊を読み通せたという成功体験を積むには最適だ、とは思う。「言い切る」ところから始めたほうがいいこともあるのだ。そもそも自身の全授業をYouTube動画として発信しているのも、凄すぎる。

まあ、1冊でわかるわけがない、というのが至極当然な話。○時間でわかる系の書籍は、まとめ上げようとするあまり、著者の思い違いや主観が混じりやすいことにも注意したい。初学者向きであっても、なるべく注釈の付されている書籍を、自分は薦めたい。

【007】荒巻豊志(旧版2003、新版2010)『荒巻の新世界史の見取り図 上・中・下』東進ブックス

受験世界史の参考書の中から一冊を、と言われれば、これを推したい(3冊だが)。世界史の全体像を意識した構成になっている。受験勉強で世界史に取り組んだ人にとっては、思い出すのにちょうどよいのではないか(そうでなければ、お薦めしない)。

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もちろん、できれば良質なものから入るのが真っ当だと思う。はじめから自走して読むことのできる人は、このリストは参考にせず、各分野の研究史を抑えながら、ディシプリンどおり概説書や基本書にあたっていくことを強くお勧めする。
ただ、今回のリストは、それがなかなかできない人向けのものである。何度も繰り返すように、【守】の段階では、できるかぎり挫折しないという点が大切だ。あまりに粗雑なものでは困るが、どんなルートでもよいから、とにかく「完走」することが大切だ。細かくはのちの【破】・【離】のステップで、修正させていけばいい。基本的な用語に、できる限り出くわしておこう。

その際、次の【破】のステップと並行させながら進めていくのもアリだ。自分の関心があるジャンル(時代や地域、民族や人)を持ち、それを深めていくことは、独学のモチベーションを保つ上でも重要だからだ。
たとえば、世界遺産や映画やアニメに没頭するのもよいだろう。私はあまりしっくり来ないが、予備校講師の神野正史さんの以下のシリーズも、個々のトピックの魅力を大いに伝えてくれるものの一つだ。

【008】神野正史『世界史劇場シリーズ』ベレ出版

「おもしろい」のツボは十人十色。良質なコンテンツを通して個々の「好きな分野」を持ちつつ、その分野が世界史の全体像の中で、どんな位置を占めるのか、全体を意識しながら学んでいくのがよいだろう。

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教科書は、使ったほうがいい?

自分が広大な海のどこを彷徨っているのか確認するには、GPSとして教科書を携帯しておくことが不可欠だ

教科書には嫌な思い出があるかもしれない。だが、日本の世界史の教科書は、世界的にみても、世界のさまざまな地域をできる限りフラットに扱おうとしており、ひじょうによくできた組み立てになっている。その反面、さまざまな地域の「寄せ集め」のように思えてしまうのが難点でもあるのだが。

日本でもっとも多くの学校で採択されている高校世界史の教科書は、山川出版社の『詳説世界史』だが、個人的には東京書籍と帝国書院を推したい。教科書会社各社の特色としてはまた別の機会にするが、まずは選り好みせず1冊用意し、学習のお供とするのをおすすめする。
なお、山川出版社は、数年前に話題になったように、一般向けに再編集した教科書も出版している。

【009】木村靖二ほか『詳説世界史』山川出版社

なお、「みんなの世界史」では、詳説世界史の章立てをベースに、最初から最後まで解説しているので、こちらもお供にしていただけると嬉しい。現在、少しずつ世界史の史料を足し、増改築をしている。

手元にあるといいのが、タペストリー

合わせて手元にあるとよいのが資料集だ。世界史の教科書は苦手だが、資料集は眺めていたという人も多いのではないか。現在、浜島書店(ニューステージ世界史詳覧)と帝国書院(タペストリー)のものを採択している中学校・高校が多いと思う。

【010】川北稔、桃木至朗・監修(2021)『最新世界史図説タペストリー』帝国書院

タペストリーは、大阪大学の桃木至朗さんと川北稔さんが監修していて、内容の正確性、資料選定のおもしろさの面でピカイチだと思う。私はタペストリー派だ。

なお、受験勉強用に関しては、浜島書店のニューステージのほうが使いやすいという声が多いように感じる。色使いや図表の整理、情報の精選が上手なのは、ニューステージのほうだと思う。

では、結局どちらがよいのか?

ここでは、タペストリーを推しておきたい。
世紀別の地図のレイアウトが優れていて、眺めているだけでも勉強になる。読書猿さんもタペストリーを推薦されていた。

…というわけで、自分が広い海のどこを泳いでいるのか確認するために、教科書+資料集は用意しておくことをオススメする。

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【破】

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さて、【破】の段階では、【守】で学んだ「既知」の知識を武器にして、実際に歴史家がどのように過去の世界をとらえているか、読書を通して共有していこう。
文章のなかには多くの「未知」もあるだろう。
しかし、【守】で出会った「既知」に助けられながら、「未知」に立ち向かっていこう。

その際、現代文講師の小池陽慈先生(note:@gendaibun )の提唱するように、「本文メモ」をとっていくのがいい。


歴史家の文章は、おおざっぱにいえば「事実」とそれに対する「解釈」によって構成されている

一般に、ほとんどの歴史に関する書籍は、「事実」によって占められている。「解釈」の比率が多くなれば、それは史論といったほうがいいだろう。

しばしば「事実」の多さに圧倒されるかもしれないが、その中のどこかに、著者の「解釈」は必ず顔を覗かせるものだ(その徴候がまったく感じられない場合もあるけれど)。

「本文メモ」をとる上で重要なのは、まずは時系列に「事実」を整理していくこと。必要があれば地図も描いてみよう。

また、さらにどの部分が「事実」に関するもので、どの部分が「解釈」に関するものなのか。その「解釈」に関する「説」(定説)は何であり、あるいは「説」にはどのようなものがあり、それらに対し、著者はどのような「説」を持っているのか。また、その根拠は何か。こういった「仕分け」をしながら、読み進めていこう。

そうやって積み重ねていった「本文メモ」は、必ずや自分の財産になるはずだ。

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長い時間軸に注目する

・ビッグ・ヒストリー

【011】デヴィッド・クリスチャン、シンシア・ストークス・ブラウン、クレイグ・ベンジャミン(長沼毅・監修、石井克弥ほか訳)(2016)ビッグヒストリー われわれはどこから来て、どこへ行くのか――宇宙開闢から138億年の「人間」史明石書店
宇宙が生まれて以来138億年の歴史の中に、人間の歴史を位置づけたもの。過去の世界を、人間が地球上に存在しなかった頃から振り返る視野の広さに、圧倒されるはずだ(大型本だが、ハードカバーではないので持ち運びしやすい)。

コンパクト版としては、以下がある。

・地球史・生命史に注目する

【012】松井孝典(2017)『われわれはどこへ行くのか? 』ちくまプリマー新書

【013】吉川浩満(2021)『理不尽な進化—遺伝子と運の間』ちくま文庫

地球と生命の進化をめぐる学説の整理に。地球史・生命史の事象と人間の歴史との関わりについては、ルイス・ダートネル(東郷えりか・訳)(2019)『世界の起源—人類を決定づけた地球の歴史』河出書房新社や、藤井一至(2018『土—地球最後のナゾ 100億人を養う土壌を求めて』光文社新書もおもしろい。


・人類史に注目する

【014】尾本恵市『ヒトと文明—狩猟採集民から現代を見る』ちくま新書

世界史を勉強する際、ついつい定住農耕民ばかりに注目してしまいがちだ。もともと人類は、みんな狩猟採集民だった。そこから目を逸らさず、しっかりと理解しておくべきだ。

【015】ジェームズ・C・スコット(立木勝・訳)(2019)『反穀物の人類史――国家誕生のディープヒストリー』みすず書房


著者は政治学者。遊牧民や狩猟採集民は、国家の側からは「辺境」にいる遅れた人々とみなされてきた。しかし、彼らこそが、国家の支配から逃れるために、主体的に「辺境」へと移動していった進んだ人々だったのだ。筆者特有の用語もあり、ちょっと難しいかもしれない。

【016】水野一晴(2018)『世界がわかる地理学入門――気候・地形・動植物と人間生活』ちくま新書

世界は、単調で均一な「ゲーム盤」のようなものではない。さまざまな地形、気候が分布し、多種多様な生き物が暮らしている。世界各地に足を運んだ地理学者・水野一晴氏によるこの著作のよいところは、そうした自然のもとで、人間がどのように暮らしてきたか、その関わりを豊富な写真とともに紹介してくれるところだ。
世界史の舞台となる多様な地形や気候についても、ここで理解を深めておこう。

【017】テルモ・ピエバニ、バレリー・ゼトゥン(小野林太郎・監修、ナショナル ジオグラフィック・編集、エラリー・ジャンクリストフ、篠原範子、竹花秀春・訳)(2021)『人類史マップ サピエンス誕生・危機・拡散の全記録』


最新の知見にもとづいたビジュアル地図をもとに、人類の歴史をたどることができる。人類史や生命史に関しては、ほかに篠田謙一(2019)『新版 日本人になった祖先たち―DNAが解明する多元的構造』NHKブックスや、。


・環境に注目する

【018】上田信(2016)『東ユーラシアの生態環境史』世界史リブレット

扱っている内容はかなり具体的だが、これを読めば、人間の歴史を環境の中ででとらえるということはどういうことか、ざっくり掴むことができるだろう。同じ著者による上田信(2002)『トラが語る中国史―エコロジカル・ヒストリーの可能性 』山川出版社を推したいところだが、現在新刊を手に入れるのは難しい。原宗子(2009)『環境から解く古代中国 』(あじあブックス)大修館書店も、中国史を環境の視点から読み直したエッセイ仕立ての文章で編まれていて読みやすい。

・気候に注目する

【019】田家康(2019)『気候文明史—世界を変えた8万年の攻防 (日経ビジネス人文庫)』日本経済新聞出版社

地球の地質年代は、前12000年頃以降は「完新世」とよばれる温暖期に入る。
しかし、長期的にみると、3〜4世紀、14〜15世紀、17世紀〜19世紀を代表とする寒冷期が繰り返され、そのたびに人間の文明は大きな影響を受けてきた歴史がある。その基本的な見取り図を得るのに、本書は最適だ。田家康の著作では、エルニーニョに注目した田家康(2011)『世界史を変えた異常気象―エルニーニョから歴史を読み解く』日本経済新聞出版社もおもしろい。ブライアン・フェイガン(東郷えりか、桃井緑美子・訳)(2009)『歴史を変えた気候大変動』河出文庫は、書名に「気候大変動」とあるが、これはヨーロッパの小氷期に比重を置いた作品。小氷期と太陽活動との関係は、やや古いが桜井邦朋(1987)『太陽黒点が語る文明史―「小氷河期」と近代の成立』中公新書がわかりやすい。 

ただし、本書でもとりあげられている「中世温暖期」(9〜13世紀)が、2021年に発表されたIPCC第6次報告書で、そこまで温暖な時期とはいえなかったとされているように、気候に関する学説の進展は著しいことにも留意しよう。

・「コロンブスの交換」に注目する

ヨーロッパ人は、なぜアメリカ大陸を最も簡単に征服できたの?

「1492年にコロンブスがアメリカに到達した」という出来事が、世界史的に見てどんな意味があったのかについても考えてみよう。

【020】アルフレッド・W・クロスビー(2017)『ヨーロッパの帝国主義ー生態学的視点から歴史を見る』

ヨーロッパ人の勝因は、家畜、作物、雑草から病原菌・ウイルスにいたるまで、生態系そのものを南北アメリカ大陸に移植させたことにあったのだと見たものだ。

クロスビー説に対しては、南北アメリカの先住民人口の激減が全部が全部 “ウイルスのせい”っていうのは、虫の良すぎる話なのでは? というツッコミもある(デイヴィッド・アーノルド(飯島昇蔵、川島 耕司・訳)『環境と人間の歴史―自然、文化、ヨーロッパの世界的拡張』新評論)。

上記2冊はそれなりに難しい。噛み砕いた説明は、以下がオススメだ。

【021】山本紀夫(2017)『コロンブスの不平等交換—作物・奴隷・疫病の世界史』角川選書

15世紀末にコロンブスが大西洋を横断して以来、ヨーロッパからはサトウキビや小麦・牛・馬などがアメリカ大陸に持ち込まれ、アメリカ大陸からはトウモロコシ・ジャガイモ・トウガラシなどがヨーロッパに運び込まれた。世界のグローバル化が始まり、食文化にも多大なる影響を与えた。新旧両大陸による交流は「コロンブスの交換」と呼ばれるが、はたして正しい名称なのだろうか。コロンブスの功罪を作物・家畜・疫病の観点から掘り下げる。
◆目 次
序 章 黄金より役立つもの
第一章 コロンブスが持ち帰った穀類――トウモロコシ
第二章 アンデスからヨーロッパへ――ジャガイモ
第三章 サトウキビと奴隷制
第四章 ヨーロッパ由来の家畜の影響――馬と牛
第五章 先住民の悲劇――疫病
終 章 コロンブスの功罪

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世界に豊かな国と貧しい国があるのはなぜ?

世界史の展開を過去から現在に向かって追っていくと、15世紀頃以降、各地で発展した文明の絡み合いが緊密になっていく様がみてとれる。これは「世界の一体化」とか「世界の構造化」と呼ばれ、1980年代以降「世界システム論」という学説によって説明されることが多くなっていった。
ウォーラーステインの著作にふれるのが一番よいが、ウォーラーステインの日本への紹介者である川北稔氏による、次のすぐれた入門書がある。

【022】川北稔(2016)『世界システム論講義―ヨーロッパと近代世界』ちくま学芸文庫

“近代世界を一つの巨大な生き物のように考え、近代の世界史をそうした有機体の展開過程としてとらえる見方”、それが「世界システム論」にほかならない。この見方によって、現代世界がどのような構造をもって成立したかが浮き彫りとなる。すなわち、大航海時代から始まるヨーロッパの中核性、南北問題、ヘゲモニー国家の変遷など、近代のさまざまな特徴は、世界システム内の相互影響を分析することで、はじめてその実相を露わにするのだ。同時にそれは、歴史を「国」単位で見ることからわれわれを解放する。第一人者が豊富なトピックとともに説く、知的興趣あふれる講義。

これを読んでから【077】松井透2021 に進むとよいと思う。

【023】川北稔(1996)『砂糖の世界史』岩波ジュニア新書

「世界システム論」を具体的に紹介したものとしては、本書はもはや”古典”の域に入る。奴隷廃止運動を、なぜ工場経営者が後押ししたのか? なぜ労働者の間に、高価だった砂糖入り紅茶がひろがっていったのか? 世界大の仕組みに注目してみると、人々の生活や感性の変化がわかるということに気づかされるはずだ。

茶や綿織物とならぶ「世界商品」砂糖.この,甘くて白くて誰もが好むひとつのモノにスポットをあて,近代以降の世界史の流れをダイナミックに描く.大航海時代,植民地,プランテーション,奴隷制度,三角貿易,産業革命―教科書に出てくる用語が相互につながって,いきいきと動き出すかのよう.世界史Aを学ぶ人は必読!

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モノに注目する

先ほどの【023】のように、モノに注目をして過去の世界をとらえるのもオススメだ。ただたんに雑学的な情報を集めただけでなく、モノを通して、世界の人々の暮らしの変化や考え方、感じ方、社会や経済のあり方が浮かび上がってくるような描き方をした良書を、いくつか紹介しておこう。

【024】山本紀夫(2008)『ジャガイモのきた道』岩波新書

【025】下山晃(2005)『毛皮と皮革の文明史―世界フロンティアと掠奪のシステム』ミネルヴァ書房

入手しにくいものを挙げてしまい申し訳ないのだが、これがおすすめだ。北アメリカにしぼったものには、木村和男(2004)『毛皮交易が創る世界―ハドソン湾からユーラシアへ』(世界歴史選書)がある。

毛皮に注目して世界史をみることで、盲点となりがちな北極圏に住む狩猟採集民やトナカイ遊牧民との関わり、さらには太平洋の島じまの人々にも、スポットライトを当てることができる。
寒冷地方の遊牧民については、高倉浩樹、曽我亨(2011)『シベリアとアフリカの遊牧民―極北と砂漠で家畜とともに暮らす』 (東北アジア学術読本) 東北大学出版会がオススメだ。

【026】ケネス・ポメランツ、スティーブン・トピック(福田邦夫・訳)『グローバル経済の誕生: 貿易が作り変えたこの世界』筑摩書房


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感染症に注目する

新しい視点といえば、疫病の世界的大流行をきっかけに、感染症の世界史が注目されている。この分野は、すでに研究の積み上げが豊富で、2020年以降、さまざまな一般向け書籍が公刊された。なかでも、脇村孝平さんの次の書籍は、具体的な10の感染症に関し、世界史の事象との関連を的確にとらえており、興味深く読めるだろう。

【027】脇村孝平(2020)『10の「感染症」からよむ世界史』日経ビジネス人文庫

もちろん、マクニール(2007)『疫病と世界史 上・下』 中公文庫を読むのが最善だが、息切れしてしまう人は、まずは山本太郎氏の、同(2020)『疫病と人類――新しい感染症の時代をどう生きるか』朝日新書の第二部だけでも読んでみるとよいとおもう。

なお、2020年に新装版として復刊した、見市雅俊氏の名著『コレラの世界史』は、上記『砂糖の世界史』と合わせ読みすると、効果てき面だ。

【028】見市雅俊(2020)『コレラの世界史』(新装版)

読む前に、こちらの動画を観てみると、その射程の広さがわかると思う。

薄い書籍だが、飯島渉(2018)『歴史総合パートナーズ 4 感染症と私たちの歴史・これから』清水書院もオススメだ。

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欧米研究者による世界史本

【029】ジャレド・ダイアモンド(倉骨彰・訳)(2012)『銃・病原菌・鉄―1万3000年にわたる人類史の謎 上・下』草思社文庫

欧米の研究者の執筆した、スケールの大きな世界史本も、新しい視点を与えてくれる。この手の本がブームになるきっかけとなったジャレド・ダイアモンドの著作も、世界史を長期の視点でとらえるヒントを授けてくれる。なぜ南北アメリカ大陸の文明が、ヨーロッパ人によりいともかんたんに征服されてしまったのかを、家畜化可能な哺乳類と栽培か可能な穀物の分布により解き明かす手法に対しては、「地理的な決定論だ」という批判も少なくない。わかりやすいストーリーや法則は、たしかに過去の世界の理解を容易にする。しかし、現実世界は、もっともっと複雑だ。進化生物学者であるダイアモンドの説も、ひとつの切り口として学んでいくのがよいと思う。

【030】サピエンス全史(柴田裕之・訳)(2016)『サピエンス全史』河出書房新社

言わずと知れた、イスラエルの歴史学者ハラリの著作。講義用のテクストがもとになっているというが、ストーリーテリングが、やはりうますぎる。約7万年前におきたという「認知革命」を軸に「虚構」が人間を人間たらしめていったという組み立てで、狩猟採集時代から現代の金融資本主義までを疾走するのは圧巻だ。が、個人的には、世界史を「人類みんな」でつくりあげていく“ストーリー”のように扱うノリには、あまり乗ることができないところがある。

なお、古典的な世界史には、ウィリアム・H. マクニール(増田義郎、佐々木昭夫・訳)(2006)『世界史 上下』中公新書が、大学生協ランキングなどでとりあげられ、定期的に話題になるが、内容的に往時を偲ばせるものとなっていると言わざるをえないし、決して読みやすい内容とはいえない。近年、息子のジョン・H・マクニールとの共著も ウィリアム・H・マクニール、ジョン・R・マクニール(2015)『世界史Ⅰ ・Ⅱ—人類の結びつきと相互作用の歴史』楽工社 として訳出されたが、少々扱いづらい(できるならば、原著にあたったほうがよい)。

彼に限らず、欧米発の世界史本は、「欧米が世界を制覇したのは、欧米が優れた何か(=X)を持っていたからだ」という議論に終始しがちだ。なかには、21世紀に入り中国が台頭している事実を前に、「中国はXを持たないから、いずれ凋落する」といった文明論的な史論も見られる。

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各地域・国の歴史

大きな見取り図を描いたら、それぞれの地域や国ごとに、深掘りしていくことにしよう。

各国史については、いくつかのシリーズが入手可能だが、もっとも手堅いのは山川出版社のこのシリーズ。

【031】『◯◯史』(世界各国史シリーズ)山川出版社

2021年からは、よりコンパクトな形に再編集されたものが刊行されている。いずれにせよ、初学者が読み通すのは、やや骨が折れるかもしれない。
より手軽なのは、中公新書の『物語◯◯の歴史』だ。気になったものに当たれば、お気に入りの巻に、必ず出会えるはずだ(ラインナップが膨大なので、このリストには含めないことにする)。

『一冊でわかる◯◯史—世界と日本がわかる国ぐにの歴史』河出書房新書は、国によってクオリティに差ががある。世界歴史体系は、『新版世界各国史』の上位版。


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地域・国別の入門書

以下、冊数に限りがあるため、惜しくも漏れた書籍については補足部分を参照してほしい。

アメリカ史

まずは、ヨーロッパ人の到達する以前のアメリカ大陸に関する書籍。

【032】山本紀夫(2011)『天空の帝国インカ—その謎に挑む』PHP新書

アンデス文明については、これをお薦めしたい。

【033】網野徹哉(2008→2018文庫)『興亡の世界史—インカとスペイン帝国の交錯』講談社学術文庫

スペインに征服されていく時代については、こちらが必読。

【034】青山和夫(2013)『古代マヤ 石器の都市文明―諸文明の起源』(増補版)京都大学学術出版会

最近まで、マヤは好奇の眼差しで見られ、「謎の文明」とされてきた。この「謎」に挑戦し、考古学と関連諸科学の学際的研究が組織されたのは20世紀後半である。旧大陸とは異なる神殿ピラミッド、王権、マヤ文字、農業体系…。さらには、大きな地域差を有した「石器の都市文明」であったことが解明された。この古代マヤの全容を通史として、わが国を代表するマヤ研究者が、100枚を超える豊富な図版を駆使して「新しいマヤ文明観」をいきいきと描いた好著に、最近の発見や現地調査の成果を加えた最新版。

ジャングルの神秘に包まれた文明というイメージのつきまとうマヤ文明を、考古学的な発見を踏まえて覆そうとする筆者の著作。同(2012)『マヤ文明――密林に栄えた石器文化』岩波新書 よりも、こちらのほうが説明と図版が豊富でとっつきやすい。

【035】ウィリアム・T. ヘーガン(西村頼男、島川雅史、野田研一・訳)(1998)『アメリカ・インディアン史 第3版』北海道大学出版会

北アメリカのインディアンについては、手軽な概説はあまり多くないが、こちらをお薦めしておきたい。北アメリカのミシシッピ文化などについては【011】に豊富に記載があるので、こちらで学んでいくのもよいだろう。

【036】和田光弘(2019)『植民地から建国へ 19世紀初頭まで』岩波新書

アメリカ合衆国の歴史については、岩波新書のシリーズアメリカ合衆国史を推薦したい。これが難しいと感じたら、アメリカの歴史を掴む上で重要なキーワードである「移民」に注目し、貴堂嘉之(2018)『移民国家アメリカの歴史』岩波新書からあたるのもよいだろう。

【037】清水透(2017)『ラテンアメリカ五〇〇年――歴史のトルソー』岩波現代文庫

スペイン人による征服以後のラテンアメリカの歴史については、こちらがよい。現代史までを貫く通史としては、高橋均(2018)『ラテンアメリカの歴史』(世界史リブレット)山川出版社や、高橋均、網野徹哉(2009)『世界の歴史18 ラテンアメリカ文明の興亡』中公文庫もよい。また、浜忠夫(2007)『ハイチの栄光と苦難―世界初の黒人共和国の行方』刀水書房も強く推薦したい。

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オセアニア史

オセアニアの歴史について学べる書籍は多くない。まずは、地域の環境や暮らしの特性をつかむことが重要だ。

【038】印東道子(2017)『島に住む人類—オセアニアの楽園創世記』臨川書店

大航海時代、「楽園」と称賛されたオセアニアの生活風景。その暮らしの場はいかにして築かれたのか。豊富な図・写真とともに解説する。
【目次】はじめに
一章 島の暮らしを読み解く
研究の歴史/オセアニアは「天然の実験室」
二章 人はいつから島に住んだのか
海を渡った旧石器文化集団/あとから来た新石器文化集団/ポリネシアからアメリカ大陸への往復
三章 島で生きる工夫
狩猟と漁労/栽培と飼育/島嶼間交流
四章 島の食料事情
植物食/動物食/調理の工夫/保存食と航海食
五章 物質文化と技術
航海用具/漁労具/工具・利器/ロープ・繊維/土器/交換財・貨幣
六章 社会形態の違いとその背景
部族社会/ビッグマン社会/首長制社会(階層社会)/ミステリー・アイランド
七章 グローバル時代に生きる島人
歴史に翻弄された島々/伝統とハイテク/辺境の島はいま/海面上昇に脅かされる島々
終章 島に住む
参考文献・初出一覧・索引

【038】を読んだら、次は、小野林太郎(2018)『海の人類史—東南アジア・オセアニア海域の考古学』雄山閣に進むとよいだろう。ポリネシアの「文明」の特質について論じた著作で、小野氏の文章はとても読みやすい。山川各国史シリーズの『オセアニア史』は記述がやや散漫で、物足りなく感じるが、合わせて読むことで理解も深まるだろう。なお、秋道智彌、印東道子編(2020)『ヒトはなぜ海を越えたのか オセアニア考古学の挑戦』雄山閣は、論文集といった感じで、いきなりは難しい。

【039】古田靖、寄藤文平=イラスト(2014)『アホウドリの糞でできた国』アスペクト

近現代の太平洋が置かれた位置を知るには、ナウルの運命を外して考えることはできない。リン鉱山が枯渇し、近代的なライフスタイルが小さな島々に持ち込まれると、現地の人々や環境にどんなことが起きるのか? なぜそんなことが起きねばならなかったのか?
そういった問題意識については、平岡昭利(2015)『アホウドリを追った日本人――一攫千金の夢と南洋進出』岩波新書も、資源を求める日本やアメリカと太平洋の島々との接点を知ることのできる好著だ。


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東アジア

東アジアは、ユーラシア大陸東部の、モンゴル、中国、朝鮮半島、日本、北ベトナムあたりを指す。まずは中国の歴史を追っていくのが常道だ。
中国の歴史というと、三国志演義とか水滸伝、貞観政要といった古典を通して人間模様に注目した学び方もあるだろう(たとえば陳舜臣さんや山本七平さんなどの著作)。
だがここでは、「中国」という世界を、遊牧民の世界や海域世界などを含め、大きく捉えることができる書籍をとりあげておきたい。

【040】渡邉義浩(2019)『始皇帝 中華統一の思想 『キングダム』で解く中国大陸の謎』集英社新書

秦の統一が、どのような意味を持ったのか。『キングダム』を読んだことがある人なら、いっそう楽しく読めるはずだ。

秦から唐にかけては、中国の古典的な国家制度の基礎が固まった時代だ。そのベースが固まった漢(とくに後漢)という王朝が、どのような国家だったのか。渡邉義浩(2019)『漢帝国―400年の興亡 』中公新書をお薦めしたい。読み進めるのは簡単ではないが、こちらに挑戦しておくと、その後の理解が進むはずだ。
とはいえ、このリストはあくまで、初学者向けであるので、長大な中国の歴史のラフな「見取り図」を持つことのほうが大事ではないかと考えた。

【041】岡本隆司(2019)『世界史とつなげて学ぶ 中国全史』東洋経済新報社


【042】上田信(2005→2021文庫)『海と帝国—明時代』(中国の歴史シリーズ)講談社学術文庫

そうしたら、中国史を、海域世界とのつながりに注目して読み解いてみよう。中国の歴史シリーズのなかでも、この巻は出色の作品だ。

【043】村井章介(2012)『世界史のなかの戦国日本』ちくま学芸文庫

世界史の流れの中から日本列島を眺めると、意外な景色が浮かび上がってくる。群雄割拠の中から織田・豊臣を経て徳川安定政権を生んだ戦国時代。しかし15、16世紀の日本では、商業圏の拡大という別の覇権争いが始まっていた。サハリン・沿海州貿易を手中に収めようと画策する蛎崎氏、東南アジアにまで及ぶ西南海貿易で富を築いた琉球王国とその座を狙う島津氏、南蛮貿易のためにおたずね者まで取り込む松浦氏、当時の世界基軸通貨=銀貨をめぐり暗躍する倭人ネットワーク…。地域史をより広い視点で理解する「グローバル・ヒストリー」の先鞭をつけた歴史学の名著。

さらに、村井章介氏によるこちらの著書をよむと、日本の歴史と東アジアとの関係性が見えてくるだろう。なお、中国と草原世界とのつながりについては、下記で紹介する。

このように、中国史をさまざまな地域とのつながりのなかでとらえたものに、岩波新書の「シリーズ中国の歴史」(2019〜2020)がある。

難易度的に、次のステップにあたるだろうが、先取りして読むに値する内容だ。また、先に挙げた【042】を含む講談社の中国の歴史シリーズ(2020〜2021に文庫化)も、新視点が多く盛り込まれ、刺激的だ。

なお、王朝ごとにみていくには、たとえば次のようなルートが考えられる。
先秦(佐藤信弥(2016)『周―理想化された古代王朝』中公新書)→秦漢(渡邉義浩(2019)『漢帝国―400年の興亡 』中公新書)→魏晋南北朝(川島芳昭(2020)『中国の歴史5 中華の崩壊と拡大 魏晋南北朝』講談社学術文庫)→隋唐(氣賀澤保規(2005→2020文庫)『中国の歴史 6 絢爛たる世界帝国—隋唐時代』講談社学術文庫)→宋(與那覇潤(2011→2014文庫化)『中国化する日本 増補版 日中「文明の衝突」一千年史』文春文庫※史論)→元(杉山正明(2010)『クビライの挑戦—モンゴルによる世界史の大転回』講談社学術文庫)→明(檀上寛(2012)『永楽帝――華夷秩序の完成』講談社学術文庫)→清(平野聡(2018)『興亡の世界史 大清帝国と中華の混迷』講談社学術文庫)。

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東南アジア

【044】古田元夫(2021)『東南アジア史 10講』岩波新書

東南アジアについては、出版されたばかりのこちらをぜひお薦めしたい。

東南アジアの地名や人名には、馴染みのないものも多く、読み進めることは大変だとは思うが、「海の東南アジア」と「陸の東南アジア」という2つの世界が、グローバルな関係性の中でどのように変化していったのか、その複雑さがよくわかる。まだ一般にはあまり馴染みのない、「大交易時代」とか「華人の世紀」(アンソニー・リード)に関する叙述のあるのもよいし、「冷戦に巻き込まれた東南アジア(代理戦争の犠牲者)観」を見直そうとしている点もよい。初学者は、「どうして東南アジアに日本町があったのか?」「どうして東南アジアには今でも中国にルーツをもつ人々がいるのか?」という問いを持ちながら、読み進めていくとよいだろう。

【045】桃木至朗(1996)『歴史世界としての東南アジア』山川出版社


東南アジアの社会や経済、国家には、われわれが慣れ親しんでいる常識や固定観念の通用しないことが多い。西洋のモデルを当てはめて考えようとして、誤った理解に至ることも少なくないのだ。東南アジアの世界をどのように考えていけば良いか、学説の歴史も踏まえながらコンパクトにまとめられたものとしては、桃木至朗氏による世界史リブレットがある。

南アジア

南アジアとは、現在インド、ネパール、バングラデシュ、パキスタン、スリランカ、モルディブなどが分布するエリアだ。

コンパクトな1冊としては、やはりこちらが信頼できる。

【046】中村元(2004)『古代インド』講談社学術文庫

神話に興味のある方は、沖田瑞穂(2020)『インド神話』岩波少年文庫が魅力的なガイドだ。

【047】水島司『一冊でわかるインド史』(世界と日本がわかる 国ぐにの歴史)河出書房新社

上記の中村元(2004)と重複するが、入門としてはこれがもっともコンパクトで信頼できる。

【048】中里成章(2008)『インドのヒンドゥーとムスリム 』山川出版社

インドにはいまでもイスラーム教徒が暮らしている。両者の関係を歴史的にたどるには、このリブレットがコンパクトだ。

西アジア

西アジアは、(1)古代オリエント文明〜イスラーム教が広まる以前、(2)イスラーム教が広まった後、(3)「近世帝国」の時代、(4)植民地化以降の時代に分けて学んでいく。

【049】中田一郎(2007)『メソポタミア文明入門』(岩波ジュニア新書)

(1)メソポタミアの入門書としては、これ一択と言ってもいい。楔形文字の成立や人々の考え方にまで分け入った、平易な語り口のおかげですいすい読める。

選択肢としては、小林登志子(2020)『古代メソポタミア全史-シュメル、バビロニアからサーサーン朝ペルシアまで』中公新書 もあろう。(1)については、これがわかりやすい。これをスプリングボードにして、前田徹(2020)『古代オリエント史講義: シュメールの王権のあり方と社会の形成』山川出版社 に取り組んでみるのもよいだろう。アラビア半島の歴史は、蔀勇造(2018)『物語 アラビアの歴史—知られざる3000年の興亡』中公新書 があるが、マイナーな固有名詞が多めでいきなり読むのは骨が折れるかもしれない。

(2)イスラーム教成立後の歴史は、これがよい。

【050】小杉泰(2006→2016文庫化)『興亡の世界史 イスラーム帝国のジハード 』


(3)「近世帝国」の時代

16世紀頃〜18世紀頃にユーラシア大陸で栄えた国々を「近世帝国」と総称する。これについては、前にこちらでも書いた。

【051】鈴木董(1992)『オスマン帝国—イスラム世界の「柔らかい専制」』講談社現代新書

まずはこれを入り口にしてみるとよいだろう。騎馬遊牧民を中心とする軍事力を核とし、さまざまな民族や宗教の集団をつつみこむ「柔らかい専制国家」という体制は、同時期のムガル帝国や清にもみられるものだ。

(4)植民地化以降の時代

【052】山井教雄(2005)『まんが パレスチナ問題』講談社現代新書

近現代の西アジアにとって「パレスチナ問題」は避けては通れぬ重要トピックだ。この本は「まんが」というよりは、イラスト付きの解説と言った方がいいかもしれない。より硬派なものに挑戦したければ、臼杵陽(2013)『世界史の中のパレスチナ問題』講談社現代新書 をおすすめする。現代史に比重を置いたものとしては酒井啓子(2010)『〈中東〉の考え方』講談社現代新書を。

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中央アジア

中央アジアは、最近では「中央ユーラシア」と呼ばれることが増えている。大きくとると、東から、モンゴル、チベット、現在のカザフスタンのあたりを通って、現在のウクライナのあたりに至る、広いエリアを指す。内陸で乾燥した気候ゆえ、農業ではなく遊牧生活を営む人々が歴史的に暮らしてきた。

【055】岡田英弘(1999)『世界史の誕生—モンゴルの発展と伝統』ちくま文庫

世界史はモンゴル帝国とともに始まった!地中海文明と中国文明の運命を変え、東洋史と西洋史の垣根を超えた世界史を可能にした、中央ユーラシアの草原の民の活動。モンゴルの発展と伝統から世界の歴史を読み直す。

日本には「騎馬遊牧民」なるものは歴史的に存在しない。だから、「騎馬遊牧民」とはどんな人々なのか、イメージしづらいところがある。しかし、世界史における「騎馬遊牧民」のプレゼンスは、とっても高い。とはいえ、歴史は定住農耕民によって書かれるのが普通だから、「騎馬遊牧民」に関する情報はネガティブで断片的なものとなりやすい。本書はそれを覆す史観をコンパクトに提供してくれる名著中の名著だ。

【056】杉山正明(2016)『興亡の世界史—モンゴル帝国と長いその後』講談社学術文庫

類書としてはこれや、

【057】杉山正明(2014)『大モンゴルの世界—陸と海の巨大帝国』角川ソフィア文庫

これもオススメできる。中国史を学習した前によむのが理想的だろうが、勉強のしやすさ的には、中国史の学習後に「視点を逆にする」ために読んでいくのがよいだろう。

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アフリカ史

【059】宮本正興・松田素二『新書アフリカ史(改訂新版)』講談社現代新書

アフリカ史といえば、これで決まりだ。分厚く通読するのは大変だが、16世紀以前までと、それ以降に分け、ヨーロッパ史の学習と連動させる形でちょびちょび読み進めていくとよいと思う。


【060】宇佐美久美子(1996)『アフリカ史の意味』山川出版社

世界史リブレットから1冊選ぶと、これ。アフリカ史が、どんなふうにとらえられてきたのか、つかむことができる。ヨーロッパ的な「世界史」認識に興味を持った方は、岡崎勝世(2003)『世界史とヨーロッパ』講談社現代新書へ、さまざまな地域の「世界史」認識については専門的だが、秋田茂ほか編(2016)『「世界史」の世界史』ミネルヴァ書房荒川正晴ほか編(2021)『岩波講座世界歴史1 世界史とは何か』所収、巻頭の小川幸司氏の章へ進んでみるのもよいだろう。

【061】富永美津子(2001)『ザンジバルの笛』未來社

東アフリカのザンジバルの歴史に注目し、あたかもフィールドワークのような多面的に描いた名著。

【062】布留川正博(2019)『奴隷船の世界史』岩波新書

黒人奴隷貿易の歴史はこちらが入門向きだ。

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地中海・ヨーロッパ史

地中海周辺の歴史は、(1)古代ギリシア、(2)ヘレニズム時代、(3)古代ローマの順に追っていこう。

【063】伊藤貞夫(2004)『古代ギリシアの歴史—ポリスの興隆と衰退』講談社学術文庫

古代ギリシアに関しては、まずはこちらを推したい。

やわらかいものとしては、周防芳幸(2004)『物語 古代ギリシア人の歴史~ユートピア史観を問い直す~』光文社新書 が優れた入門だが、各章に挿入される物語が性に合わない人もいるかもしれない。

【064】桜井万里子・本村凌二(2017)『集中講義! ギリシア・ローマ』ちくま新書

もう一冊を、ということなら、こちらが良い導きになる。よりかっちりとしたものをということなら、おなじ共著者による、同(2017)『世界の歴史〈5〉ギリシアとローマ』中公文庫がよい。手に入りにくいので外したが、橋場弦『賄賂とアテナイ民主政―美徳から犯罪へ』 (historiaシリーズ) 山川出版社も名著だ(historiaシリーズにはほかにも、高山博(2002)『歴史学 未来へのまなざし―中世シチリアからグローバル・ヒストリーへ』山川出版社熊野聡『ヴァイキングの経済学―略奪・贈与・交易』山川出版社橋場弦(2008)『賄賂とアテナイ民主政―美徳から犯罪へ 』山川出版社など良書が多いが、入手しにくいものもある)。

【065】森谷公俊(2016)『アレクサンドロスの征服と神話』講談社学術文庫

興亡の世界史シリーズのなかでも、特に刺激的な一冊。「アレクサンドロスの征服」を、さまざまな史料を渉猟しつつ、その“神話”と“現実”をあきらかにする。

【066】本村凌二(2018)『教養としての「ローマ史」の読み方』PHP

ローマに関しては、さまざまな書籍がある。もちろん塩野七生さんの『ローマ人の物語』シリーズもよいだろう。いろいろあるので選びづらいが、入門書としては次が読みやすいと思う。

【068】加藤隆(2016)『別冊NHK100de名著 集中講義 旧約聖書—一神教の根源を見る』NHKブックス

地中海の古代世界と中世世界をつなぐのが「キリスト教」の信仰だ。キリスト教の信仰について、まずは『旧約聖書』について、教義だけでなく、時代背景も含めて理解しておくことをオススメしたい。


中世ヨーロッパ

ローマの次は中世のヨーロッパに進もう。入門としては地域別に当たっていくのが近道だ。

【069】阿部謹也(2010)『中世の星の下で』ちくま学芸文庫

中世の西ヨーロッパの人々の暮らしや価値観を知るには、阿部謹也さんのこちらに是非ふれてみるのがよいだろう。しっくり来れば、阿部謹也(1988)『ハーメルンの笛吹き男―伝説とその世界』ちくま学芸文庫 に進んでもよいと思う。

【070】坂井英八郎(2003)『ドイツ史10講』岩波新書

中世ヨーロッパを理解する際、鍵になるのは「ドイツ」だ。やや歯応えはあるかもしれないが、取り組む価値のある一冊。

【071】井上浩一(2008)『生き残った帝国ビザンティン』講談社学術文庫

「ヨーロッパ」と聞くと、イギリスやフランス、イタリアばかりが浮かぶかもしれない。だが、それは「西ヨーロッパ」だ。ビザンツ帝国に代表される「東ヨーロッパ」についても、しっかり学んでおこう。井上浩一氏のこの著作は、聞きなれない言葉も多く登場するだろうが、外すことのできない名著だ。

近世ヨーロッパ

近世というのは、おおむね1500年前後から1800年前後までの時期区分を指す(【079】岸本美緒1998も参照)。

【072】羽田正(2007→2017文庫化)『興亡の世界史—東インド会社とアジアの海』講談社学術文庫

大航海時代以降の、ヨーロッパ諸国のアジア進出についてつかむには最適。進出先の東南アジアの状況については【044】を参照。

【073】近藤和彦(2017)『近世ヨーロッパ』 (世界史リブレット)山川出版社

「近世」の「ヨーロッパ」について知るための、最良の入門書。整然と釘られた「国」単位でヨーロッパを見るのではなく、王室、地域、都市など、さまざまなレイヤーに注目すべきことを教えてくれる。

【074】岩崎周一(2017)『ハプスブルク帝国』講談社現代新書

ハプスブルク帝国は、近世のヨーロッパを理解するには避けて通れない大国だが、その国家体制は非常に複雑だ。この本は定説を踏まえ、それに注釈や見直しをくわえる叙述もあるため、決して簡単に読み進めることはできないかもしれない。中野京子(2008)『名画で読み解く ハプスブルク家12の物語』光文社新書 も、非常に読みやすく、惹き込まれる書籍だ。

【075】土肥恒之(2007→2016文庫化)『興亡の世界史—ロシア・ロマノフ王朝の大地』

ロシアについてはこちらがオススメだ。扱う空間がとっても広いので、地図をかたわらに置きながら読み進めていったほうがよいだろう。

近代ヨーロッパ

【076】遅塚忠躬(1997)『フランス革命―歴史における劇薬』岩波ジュニア新書

岩波ジュニア新書ではあるが、なかなか手強い一冊。フランス革命が「複合的な革命」であったことを図式的に示しつつ、当時の人々の声を丹念に拾い上げていくことで、フランス革命のもたらした「自由」と「平等」とは、いったい何だったのかに迫る。産業革命については、【023】を参考に。全ヨーロッパに関するものとしては、君塚直隆(2019)『ヨーロッパ近代史』ちくま新書が、ルネサンス期から第一次大戦までをカバーしてくれる。ロシア革命についてリストに含めることができなかったが、松戸清裕(2011)『ソ連史』ちくま新書を挙げておく。密度の濃い一冊だ。

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【離】

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さて、最後の【離】では、これまで学んで来たことをベースに、より多様な視点で過去の世界をとらえるヒントとなる書籍を紹介していきたい。

多様な視点を導入することで、それまで「こういうものだ」と納得していた「既知」の知識を、グラつかせていくのだ。

“知っているつもり” になっていた「既知」の知識が、視点のとり方や史料の解釈によって、実はまったく違うものに見えてくる。

「既知」を「未知」化させ、さらに「既知」となった「未知」を再度「未知」化させていく

これには、原理的に、終わりはない。
しかし、どこかでケリをつけなければ、収拾がつかないわけだから、ある程度自分にとって納得のいく解が得られたら、その都度そこで落ち着けばいい(参照:千葉雅也(2017)『勉強の哲学—来たるべきバカのために』文藝春秋note@masayachiba)。
“知っているつもり” を適度に揺さぶり続ける営み。それを楽しむことができたなら、【離】の読書は成功だ。

その際、特に「序」や「はじめに」の部分に着目してほしい
冒頭部分には著者が、どのような視点を過去の出来事に向けているのか、どんな視座(見る位置)から過去の出来事をとらえようとしているのかといったことが、これまでの研究の整理とともに、宣言されていることが多い(あるいは冒頭部分は具体的な叙述から始まる場合、その後のパートに記されていることがある)。

歴史家の問題意識は、現代の世界で問題となっていることとリンクしていることも少なくない。
・現代の世界にある問題のルーツは、どこにあるのか?
・現代の問題は、過去の世界でも問題だったのか? 
・現代の問題とはどのように異なるものだったのか?
現代という「一点」に縛られているわれわれは、どうしてもその他の可能性について考えることが難しくなりがちだ。でも、過去の世界に目を向けると、同じような問題に対して、実に多様な対応がなされたことや、問題そのものの捉え方自体が異なるケースに出くわすことがしばしばある。
【離】のステップでは、以上のように「過去の世界に起きたことが、どのように現代につながっているのか」という視点も、ぜひ意識して読書してみよう。

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時代を切り取る

まずは、より大きな視野で、同時代の世界の「つながり」をとらえることのできる書籍から。

【077】後藤健(2015)『メソポタミアとインダスのあいだ: 知られざる海洋の古代文明』筑摩選書

紀元前のメソポタミア文明とインダス文明をつなぐ「エラム」文明に注目し、古代の交易ネットワークの存在をあぶり出していく様は、とっても刺激的だ。

【078】妹尾達彦(2018)『グローバル・ヒストリー』中央大学出版局

ユーラシア大陸の交易ネットワークがどのように発展していったかは、騎馬遊牧民の動向に注目していくとよい。その際に参考になるのが、妹尾達彦氏の提案する見取り図だ。また、東南アジアの扱いが薄いので、【044】古田元夫2021 で補うとよい。具体的な動向をつかむには森安孝夫(2007→2016)『興亡の世界史 シルクロードと唐帝国』講談社学術文庫が必読。入門レベルを超えるが、クリストファー・ベックウィズ(斎藤純男・訳)(2017)『ユーラシア帝国の興亡—世界史四〇〇〇年の震源地』もよい。さらに、テュルク(トルコ民族)について小松久男(2016)『テュルクを知るための61章 (エリア・スタディーズ148) 』明石書店 にあたっておくと、抜け落ちがちな中央アジアの歴史(たとえば現在「◯◯スタン」という名前のついている国々)をしっかりカバーしておくことができる。

【079】岸本美緒(1998)『東アジアの「近世」』(世界史リブレット)山川出版社

われわれはどうしても、「中世」から「近代」(=いわゆる近代化)を経て、「現代」の世界にステップアップしたと考えがちだ。
しかし、実際には、「近代」に至るには、「近世」の時期に起こった変容が重要で、その変化はグローバルに共有されたものでありながら、各地域ごとに特色を持つものだった、という見方がされるようになっている。
日本における「近世」論の有力な紹介者の一人である岸本美緒氏の本書は、中国や日本など、東アジアに焦点を当てながら、「近世」のもつ特徴を浮かび上がらせてくれる。
この本で銃砲の普及に関心を持った方は、より専門的な岸本美緒編(2019)『1571年 銀の大流通と国家統合 (歴史の転換期)』(歴史の転換期シリーズ6)山川出版社に進むのもよいだろう。

【080】松井透(1991→2021文庫化)『世界市場の形成』ちくま学芸文庫

ちくま学芸文庫は、エリック・ウィリアムズ(2020)『資本主義と奴隷制』シドニー・ミンツ(2021)『甘さと権力—砂糖が語る近代史』家島彦一(2021)『インド洋海域世界の歴史 ――人の移動と交流のクロス・ロード』など、手に入れにくかった経済史、経済人類史関係の名著の文庫化を刊行してくださっている(シドニー・ミンツはようやく今年読むことができた)。
松井透氏の本書は、イギリスの産業革命が、いかにアジアなど世界市場に支えられて形成されたのかを、膨大なデータによって論証したもの。【022】川北稔の次に読むとよい。

【081】南塚信吾(2018)『「連動」する世界史—19世紀世界の中の日本』岩波書店

「シリーズ 日本の中の世界史」は、近現代の世界の中に日本を位置づける岩波書店のシリーズ。このうち、南塚信吾氏のこの著作は、帝国主義の時代から第一次世界大戦までの世界各地の動きを、「欧米」と「アジア」の緊張と緩和に焦点を当てて描いたものだ。なお、木畑洋一(2014)『二〇世紀の歴史』岩波新書は1870年代から1990年代初頭までを「長い20世紀」という時代として切り取り、「帝国」がいかに形成され崩壊していったかを描く、スケールのおおきな叙述。

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人々の内面世界や生活に注目する

【082】ウーテ・フレーフェルト(櫻井文子・訳)(2018)『歴史の中の感情 失われた名誉/創られた共感』

われわれが過去の世界を見るとき、そこを生きる人々が、われわれと同じような感情や感覚を持っているものとみなしがちだ。
だが、本当にそうだろうか?
文字記録に残されない「感情」や「認知」。これをどのように扱うべきかということについて、歴史学がどのように応答し、研究を発展させていったのかについても知っておこう。内容的にはやや難しい。

【083】池上俊一(1990)『動物裁判』講談社現代新書

動物との関わりという点ではこちらや、ロバート・ダーントン(海保眞夫、鷲見洋一・訳)(2007)『猫の大虐殺』岩波現代文庫。いずれも、歴史の教科書に太字で記されるような「事件」や「出来事」そのものを描いたものではなく、従来であれば見過ごされていたような記録された事件や出来事から浮かび上がってくる、人々の内面世界をつかもうとするものだ。なお、ここでいう、「人々」というのは、支配階級ではなく、一般民衆を指す。従来の歴史学が「支配者の政治」ばかりに注目し、民衆が政治に左右される受け身の存在としてのみ描かれてきたことへの反省から、1970年代以降「社会史」という分野が注目されるようになったということも知っておこう。近藤和彦(2014)『民のモラル—ホーガースと18世紀イギリス』もおすすめ。角山榮、川北稔・編(1982)『路地裏の大英帝国―イギリス都市生活史』平凡社も、文庫化されないかなあ(お願いします)。

【084】問いからはじめる教育史 (有斐閣ストゥディア) 単行本(ソフトカバー) – 2020/10/20
岩下 誠 (著), 三時 眞貴子 (著), 倉石 一郎 (著), 姉川 雄大 (著)

昔の人たちはどんな教育を受け、どのくらいの人が文字を読み書きすることができたのか? 「教育史」というと、非常に特殊な分野のように思えるかもしれないが、本書を読めば非常に射程の広い議論を含んでいることがわかるだろう。入門書としては、もっとも読みやすいものの一つだと思う。
クラーク・ナーディネリ(森本真美・訳)(1998)『子どもたちと産業革命』 (技術史クラシックス) 平凡社もおすすめしたいが、こちらは入手しにくい。

【085】大黒俊二(2010)『声と文字』(ヨーロッパの中世6)岩波書店

中世ヨーロッパにおける文字文化に扱ったこれを読むことで、われわれがイメージするような「文化」が、現在と中世ヨーロッパの間でどのように違うのか、考えてみるとよいだろう。なお、「ヨーロッパの中世」シリーズは名作揃い。歯応えはあるが、挑戦する価値あり。

【086】吉見俊哉(2012)『「声」の資本主義—電話・ラジオ・蓄音機の社会史』河出文庫

メディアの技術革新が人々をどう変えたかという点に注目した一冊。技術革新については、ダニエル・R. ヘッドリク(原田勝正、老川慶喜、多田博一・訳)(1989)『帝国の手先―ヨーロッパ膨張と技術』日本経済評論社が、今でも広く参照される基本書だ。

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ジェンダーに注目する

【087】三成美保、小浜正子、姫岡とし子・編(2014)『歴史を読み替える ジェンダーから見た世界史』 

ジェンダーとは、その社会や集団で「普通」とされる男女の性差のこと。ただし、ジェンダーは、単純に文化によってつくりだされた性差というわけではない。世界史を振り返ってみると、身体をどのように見るかという知と深く関連し、変遷していったこと、明らかになってくる。全時代を見渡したテキストとしては、現在これ以外のものは存在しない。関心のあるページを、学習を進めるなかで参照し、挙げられた参考文献にあたっていくのがよいだろう。ジェンダー史を学んだ人は、ジェンダーに注目せずに過去の世界をみることが、いかに断片的な歴史の捉え方であるか、よく思い知っている。

【088】長谷川まゆ帆(2007)『女と男と子どもの近代』山川出版社

入門書として1冊挙げるなら、こちらを薦めたい。

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ナショナリズムに注目する

【089】塩川伸明(2008)『民族とネイション―ナショナリズムという難問』岩波新書

世界史を学習していて避けて通れないのが、「ナショナリズム」「民族」「国民」「帝国」のような用語だ。これらについては、いちど整理する時間を設けておいたほうがいいだろう。ベネディクト・アンダーソン、アントニー・D・スミス、アーネスト・ゲルナー、エリック・ホブズボームなど、古典的な書籍は多くある。解説とともに読み進めていくのがよいだろう。ナショナリズムや民主主義、自由主義、保守主義といった政治的な概念については、佐藤優(2020)『16歳のデモクラシー—受験勉強で身につけるリベラルアーツ』晶文社もオススメ

日本とのつながりに注目する

【090】三谷博、並木頼寿、月脚達彦・編(2009)『大人のための近現代史 19世紀編』

日本史の見え方が一変することも、世界史を学ぶ効用のひとつだ。前近代については【043】村井章介 がおすすめ。【003】〜【005】にも、日本とのつながりは折に触れて述べられている。近代史は、やや歯応えはあるが、これがよいだろう。

グローバル・ヒストリー

【091】水島司・島田竜登(2018)『グローバル経済史』放送大学教育振興会

現在の国と国との境界線を「あたりまえ」のものとみず、異なる地域との間の人、モノ、カネ、情報などの「つながり」に注目して世界史を描く新しいアプローチを「グローバルヒストリー」という。南アジア、東南アジア、東アジアを、グローバル・ヒストリーに位置付ける試みとしては、こちらが非常に読みやすい。

水島司(2010)『グローバルヒストリー入門』山川出版社も、薄い本だが、このなかから気になった著作に手を出してみるとよいだろう。パミラ・カイル・クロスリー(2012)『グローバル・ヒストリーとは何か』岩波書店 は、なぜ「グローバル・ヒストリー」というアプローチが生まれていったのかという学説史の変遷を、水島(2010)よりもさらに詳細にたどってくれる。現在のところ、グローバル・ヒストリー入門の決定版ともいえるのは、ゼバスティアン・コンラート(小田原琳・訳)(2021)『グローバル・ヒストリー: 批判的歴史叙述のために』岩波書店。グローバル・ヒストリーの視点による研究成果の紹介としては、水島司(2008)『グローバル・ヒストリーの挑戦』山川出版社が読みやすい。国際的グローバル・ヒストリー教育研究ネットワークの成果をもとにした、羽田正(2017)『グローバル・ヒストリーの可能性』山川出版社 はより専門的。

思想に注目する

【092】飲茶(2015)『史上最強の哲学入門』河出文庫

東洋編はこちら。西洋哲学についてはネオ高等遊民さんのブックリストを参照。各時代の思想がどのように連関していたのかについては、(2020〜2021)『シリーズ世界哲学史』筑摩書房に挑戦するのもアリだ。

【093】橋爪大三郎(2006)『世界がわかる宗教社会学入門』

世界の諸宗教を比較しつつ俯瞰するには、こちらがオススメだ。このリストには文学や芸術に関する書籍を含めることができなかった。「西洋」美術は池上英洋(2012)『西洋美術史入門』ちくまプリマー新書を。ほかにイスラーム美術の小林一枝(2011)『アラビアン・ナイト』の国の美術史―イスラーム美術入門』八坂書房を挙げておこう。個人的には、文学や芸術については、つべこべ言うまえに、できる限りホンモノにあたったほうがよい、というふうに思う。過去の世界に想いを馳せる上で、文学のもたらしてくれる想像力は、とっても大切だ。最近では読みやすい新訳も多く出ている。気になった時代や地域の作品に、積極的に手をのばしてみよう。

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平和と開発について考える

【094】山内進(2011)『北の十字軍 「ヨーロッパ」の北方拡大 (講談社学術文庫) 』

「聖戦」というとイスラーム教のジハードが真っ先に浮かぶかもしれないが、キリスト教世界であった中世ヨーロッパにおいても「聖戦」は十字軍という形でお墨付きを与えられていた。この聖地イェルサレムの奪回をねらった十字軍とは別に、ポーランドやリトアニアなど北方にキリスト教を広めるための「北方十字軍」が存在したことは、あまり知られていない。山内進氏によるこの著作は、「聖戦」なるものが、なぜ、どのように正当化されたのか、考えるヒントを与えてくれる。

【095】石田勇治(2015)『ヒトラーとナチ・ドイツ』講談社現代新書

20世紀の2つの大戦について考えるための書籍は、枚挙にいとまがない。ここでは石田勇治氏の新書を紹介しておく(下掲は、本書を下敷きとした日本記者クラブにおける講演動画だ)。

世界史リブレットの山本秀行(1998)『ナチズムの時代』山川出版社も読みやすく、意外性にあふれている。なお、第一次世界大戦については、藤原辰史(2011)『カブラの冬』人文書院を挙げておきたい。


【096】平野克己(2013)『経済大陸アフリカ』中公新書

SDGs(国連持続可能な開発目標)の実施期限まで、あと10年を切った。SDGsの是非や手法に対する批判も挙がるようになっているが、なぜSDGsが提唱されるにいたったのか、その前史に注目することで、SDGsを世界史のなかに位置付けて議論することが大切だと思う。ジェトロ研究員を務める平野克己さんの本書のうち、とくに第4章は、開発の歴史を世界史のなかに位置付ける試みだ(平野克己(2009)『アフリカ問題―開発と援助の世界史』日本評論社が下敷きとなっている)。
なお、冷戦期の歴史については、北村厚(2021)『20世紀のグローバル・ヒストリー:大人のための現代史入門』ミネルヴァ書房をもとに、【005】で紹介した南塚信吾、秋田茂、高澤紀恵・編(2016)『新しく学ぶ西洋の歴史:アジアから考える』ミネルヴァ書房下斗米伸夫(2004)『アジア冷戦史』中公新書などにより、まずは全体像をつかんでいくとよいと思う。開発援助の歴史は、植民地帝国の崩壊と米ソ冷戦、さらに独立国の開発主義と切っても切れない関係がある。このへんの展開については、イギリス帝国がどのように崩壊していったのかを、秋田茂(2012)『イギリス帝国の歴史』中公新書を通して整理しておくことをお薦めしたい。

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世界史を学ぶということについて

以上に挙げた書籍は、歴史学の専門家によって執筆されたものがほとんどだ。


だが、世の中で歴史をとり扱っているのは、なにも歴史学の専門家だけとは限らない。事実、歴史に関心のある人の多くは、映画や小説、漫画といったエンタメ、それに歴史をあつかった特集や読み物を通して、歴史の面白さに触れたいという思いを持っているのだと思う。専門的な書籍をガツガツ読むことで歴史に接しているわけでもないだろう。普段生活している中で、「過去の時代にあったことを現在に活かしたい」という思いから、歴史に教えを乞う人も少なくない。VUCAの時代といわれる現代にあって、歴史には不確実な世の中を照らす「灯台」としての役割も期待されるようになっている。

ただ、歴史に触れようとする人が多くなればなるほど、問題も生じる。歴史を語っていると標榜しつつ、事実をおろそかにする語り口によって、他者を攻撃する材料に用いられるようなケースだ。これは一見すると、歴史に関心のある人が増えているようにも見えるのだが、大元となっている事実そのものには、たいして関心が払われていないことも少なくない。こういう状況に対して、歴史学者がエビデンスを振りかざし事実を挙げてチェックしても、議論は平行線を辿りがちだ。

実は、こうした状況の根源には、歴史を語るということそれ自体のはらむ難しさがある。

過去の出来事を再現するには、どのような手法が必要で、そこにはどのような限界があるのか(たとえば歴史家が歴史を叙述するとき、その背後には、歴史家が組み立てようとする物語の筋書きが、どうしても混入してしまうのではないかという議論がある)。
過去の出来事を、どのように事実として認め、叙述していけばよいか。
文字として記録されなかった出来事の真偽を、どのように定めていくことができるのか(記録がないものは「なかった」とすることができるのか。語ることのできない/語りの届かない人の声を、どのように記録できるのか)。
歴史とは何であり、どのように語られるものなのか。
どのように教えられ、どのように学ぶべきなのか。

世界史を学ぶにあたって、こういった歴史の語り方をめぐる事柄にも、ぜひ関心を広げてみるとよいと思う。

【097】遅塚忠躬(2015)『史学概論』東京大学出版会

高価だが、丹念にたどっていくことで、得られるものは大きい。文庫化を望みたい。

【098】保苅稔(2004→2018文庫化)『ラディカル・オーラル・ヒストリー――オーストラリア先住民アボリジニの歴史実践』岩波現代文庫

「ケネディに会った」というアボリジニの語りは、「歴史」と言えるのか? 人々が共有し、継承している、過去の世界のできごとを、どのようにとらえていったらよいか。著者渾身の筆致に、ぜひ出会ってほしい。
他者を内在的に理解するという点でいえば、以下を読むことが、過去の世界の人々を理解する上で、良い入門書になるのではないかとも考え、ブックリストに含めることにした。【098】において「他者」とは、人間以外の動物や無生物も含むことに注意しよう。

【097】松村圭一郎(2017)『うしろめたさの人類学』ミシマ社

世界史における「経済」は、お金を介した市場における等価交換だけとは限らない。本書を通して、「贈与」や「再分配」といったやりとりが結ぶ人間どうしの「つながり」についても、理解を深めたい。

【098】奥野克巳(2018)『ありがとうもごめんなさいもいらない森の民と暮らして人類学者が考えたこと』亜紀書房


【099】リンダ・S・レヴィスティック、キース・C・バートン(松澤剛、武内流加、吉田新一郎・訳)(2021)『歴史をする: 生徒をいかす教え方・学び方とその評価』 新評論

これは、私が教育現場で歴史をおしえていることもあり、推薦したい著作。本書も含めた議論については、渡辺竜也(2019)『歴史総合パートナーズ 9 Doing History:歴史で私たちは何ができるか?』清水書院がよい。

【100】小川幸司(2011-2012)『世界史との対話〈上・中・下〉―70時間の歴史批評』地歴社

小川幸司さんの授業実践をもとにまとめられた3巻本。世界史教育界だけでなく、歴史家のなかでも話題となった。過去の世界に対する「問い」を持ち、主体的に考える大切さを感じることができる。

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なお、本稿を執筆中に、アザラシさん(note@yskmas_k_66)が、すぐれた100選を出された。

「言語論的転回」とは、

歴史学が過去の世界の出来事を記述するには、言語化された史料が必要だが、けっして言語化されることのない、人々の内面(認知や感情)とか、記憶といったものは、復元しようがない。
だとしたら、数少ない言語化されたエビデンスをもとに過去の世界を記述しようとする歴史学の試みは、根本的に破綻しているのではないか?

といったもので、1980年代以降の歴史学に揺さぶりをかけた議論である。そうした批判に応答する形で、歴史学は「感情史」や「文化史」(ピーター・バーク)といった新たなフロンティアを開拓してきた。今回の選書を踏み台にして、アザラシさんの選書もぜひ参照していただきたい。


みんなの世界史
世界史&日本史、世界&日本をつなぐ公立高校教員。 通訳案内士(英語)合格。歴史を深く、わかりやすく翻訳。関心:SDGs/旅/教育/AL/エンタメ。世界史のまとめ https://bit.ly/2Fi1IIX /生徒用https://bit.ly/2O5GsJ