中国旅行記
現在私は中央大学法学部2年に籍を置き、司法試験(予備試験)に向けて法律学習に勤しんでいるつもりである。一見単調に見える机に向かう毎日を送る私だが、本年の夏休みにはご縁があって1週間、中国へと旅行にいった。私自身にとって初の海外経験である。この文は貴重な体験とそこで得られた学びの総括である。
それまで無縁だった中国に行くことになったのは、全くの偶然だったが、運が良かったことで、中国人の友人に誘われてのことだった。私は選択必修外国語としてドイツ語を履修しているが、同じクラスで1年次から仲の良かった友人が中国出身だった。彼と私は、日本に長期滞在する外国人という点で共通し、同じ学科、同じクラスということもあり、一緒に試験勉強するうちに親しくなった。そして、私のことを知った彼の父に招かれ、好奇心旺盛な私は二つ返事で行くことに決めた。
私たちが1週間という短い期間で回った都市は、瀋陽と大連であった。
瀋陽は遼寧省の省都であり、中国東北部の主要な工業都市の一つである。その歴史は古く、かつては清の初代皇帝ヌルハチが築いた遼陽という都市として栄え、清の前身である後金の首都としても知られている。この地は、その後も清朝の時代における政治や文化の中心地としての役割を果たし続けた。現代の瀋陽は、都市としての急速な発展を遂げており、多くの高層ビルやモダンなインフラが立ち並ぶ都市景観を持つ一方で、伝統的な建築や歴史的遺跡も多く残っているようだった。中でも瀋陽故宮は、北京の故宮と並び称される歴史的建造物であり、清の初期の歴史を知る上で欠かせない場所で、世界遺産でもある。今回の旅で実際に足を運ぶ機会に恵まれた。
また、瀋陽は経済の中心地としてもその役割を果たしている。歴史的な背景から、多くの日系企業が進出し、市の経済成長率は非常に高い、と友人に教わった。多くの人々が仕事や学びのためにこの都市を訪れるようで、常に車道が大渋滞だったことから人口が多いことを肌で感じた。
瀋陽の滞在中、特に印象的だったのはコリアンタウンを訪れたことだ。このエリアには多くの在中国朝鮮族の人々が住んでおり、彼らの文化や生活を間近で感じることができる。街中を歩きながら、朝鮮語で書かれた看板や朝鮮がモチーフとなった建物を見ることができ、独特の趣があった。
次に訪れた大連は、瀋陽とは異なる魅力を持つ海沿いの都市であった。遼寧省の南部に位置する大連は、中国の北東部で最も重要な港湾都市の一つとして知られている。夏には涼しい気候と海の美しさから、多くの観光客が訪れるリゾート地としても有名である。大連の歴史は、19世紀末から20世紀初頭の日露戦争を経て、日本やロシアなど、様々な国々の支配を受けてきた。そのため、市内にはロシア風の建築や日本の時代の影響を受けた建築物が点在しており、異文化の融合を肌で感じることができる。特にロシアの影響を受けた建築群は、異国情緒あふれる街並みを作り出していた。また、海岸線沿いを散歩した際にはビーチや公園が広がっており、金石灘の丘から眺める海は美しかった。
大連滞在中には、都市の急速な発展を具体的に感じさせられる経験もした。その代表的なものが、訪れた大型ショッピングモールでの体験だ。このモールは都市の中心部に位置しており、その規模は東京のものと比べても大きく、驚かされた。モールの中には、世界的に有名な高級ブランドの店舗が数多く並んでおり、大連が国際都市としての地位を確立していることを感じさせた。友人によれば、中国の人々はファッションやブランドに非常に敏感で、新しいトレンドやアイテムに対する関心が高いとのことだった。
中国の食文化との接触は、私にとって驚きと発見の連続であった。瀋陽について最初に訪れた大衆食堂での一杯100円のラーメンは、日本のものとは一線を画し、シンプルながら美味しかった。さらに、塩で味付けされた骨付き鶏肉は、そのジューシーさと香ばしさが絶妙に絡み合い、一口食べると手が自然と次の一口を求めて止まらなくなった。
次の日の昼食で訪れたお店では、様々な具材が詰まった水餃子や蒸し餃子が私の舌を楽しませてくれた。その他にも、名前がわからなかったが中華料理を数多く食した。それぞれが独特の味付けであり、日本の料理とは異なる風味が広がった。全てが私の口に合ったわけではなかったが、異文化との接触を、食を通して深く感じることができた。
瀋陽のコリアンタウンを訪れた際には、冷麺を食べることを欠かすわけにはいかなかった。冷麺はその絶妙な味わいとバランスで、一度食べれば忘れられないものであった。友人の父が瀋陽でも特に評判の良い店を選んでくれ、念願だった冷麺の深い味わいを堪能することができたのは、この旅の中でも特に印象的な瞬間であった。機会があれば、また食べたいと思う。
中国では日本と異なり、スイカやメロンが驚くほど安価であり、多くの食堂やレストランで頻繁に供された。果物の新鮮さと甘みが日本とは異なる気候や土壌の恩恵を受けていることを実感させられた。
中国のお酒文化もまた、私にとって刺激的な出会いだった。友人父に招待され晩餐会では「貴州茅台酒」を頂いた。それは中国最高級のお酒ブランドの酒で、アルコール度数53%という強烈なキックと深い風味が印象的であった。さらに、雪花ビールは日本のビールとは異なる爽やかさと飲みやすさを持ち合わせており、私の舌に特に合った。このように、食やお酒を通じて、中国の魅力の一側面を体感することができたのは、この旅の大きな収穫であった。
この探訪での特筆すべき点は、瀋陽滞在中に受けた特別な招待である。友人父の知り合いがパートナー弁護士として所属する法律事務所に訪問する機会を得たのだ。この事務所は瀋陽の都心部に位置し、その洗練された内装は東京の大手法律事務所と遜色なく、一流ファームとしての格式を感じさせた。オフィスの中を見学し、VIPルームへと通され、弁護士先生へ中国の法律家の制度や昨今の法律実務でのAIの活用といったテーマについて質問をした。それだけでなく、事務所として中国で成功するための秘訣として、政府との連携の重要性についても教えていただき、これらは日本では決して得られないであろう貴重な成果となった。
この旅行を通して、私は中国の深い歴史や文化、そして経済都市としての発展を目の当たりにした。しかし、それ以上に、中国の人々の親しみやすさに触れることができたのは、この旅の最も価値ある経験であった。特に、友人のご両親には感謝しても仕切れない。彼らとの会話や食事は、私にとってかけがえのない思い出となった。
この旅行を通して、私は自分の夢や目標に対する情熱を再確認することができた。私の夢は、自身の語学力を活かし、ITやAI・ロボット法、知的財産などの領域で、東アジアを中心に活躍する法律家として名乗りをあげることである。この旅行は、その夢に向かっての第一歩となった。特に中国の法律事務所を訪問した際の経験は、私の法律家としての将来において、大きな意味を持つことになると確信している。
最後に、この旅行を通して得た経験や学び、そして出会った人々に心からの感謝の気持ちを込めて。中国での滞在は短かったが、その中で得た経験や思い出は私の一生の宝物となるであろう。私は夢の実現のために、司法試験(予備試験)に向けた学習に励もうと誓った。そして、いつか再び、次は弁護士として中国を訪れ、更なる学びや経験を積み重ねていきたいと思っている。