普通の人(完全版)

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前から気になっていた1冊。2021年8月にリニューアル発売。

読み始めてしばらくは「なんやねん、これ」と思うていたが、じわじわと水丸ワールドに引き込まれていったのであった…。

1982年からの連載ということは…当時、僕は弱冠2歳である(オッといけねぇトシがバレる)。
あぁ、東京ってこんなのだったんだぁ…と、なぜか「たけしの挑戦状」の風景が頭をよぎりつつ、今はなき良き時代に思いを馳せるのであった…。

帯にデカデカと「そう、これは今を生きる、私やあなたのお話です。」と書かれているけれどほんまか?
たぶんほんまなのだ。だいぶ時代は変わったはずだけど、帯がこう言い切っているのが頼もしいではないか。

「普通」ってなんだ?安西水丸は普通以上でも普通以下でもない普通を、蒸発する前に、固まってしまう前に、見事に切り取っているではないか。

ヒドイ顔の普通の人たちがたくさん出てくるけれど、1コマ1コマたいへん豊かな表情を見せてくれる。
知らぬ間にディテールの白沼(しらぬま)に足をひきずりこまれてゆく…。
ディテールといえば、基本的に4+8+8+8+8の36コマ漫画の構成なのだが、35で終わってたり37で終わってたりすることが3度ほどあり、どこが抜け落ちて(重なって)いるのかな?と探すのも楽しかった。(ウォーリーを探せでウォーリーを探し終えたあとのアイテム探しみたいに)

どの話も最初の4コマは朝起きるシーンからスタートする。特に理由はないらしい。小島信夫の短篇集の解説で保坂和志氏が「カフカの『変身』でグレーゴル・ザムザがある朝巨大な虫になってしまったことに原因がないように」と書いているように、そう、たいていのことに理由はないのだ。

2016年の7月に、京都駅ビルの美術館「えき」で催された安西水丸さんの展示会に出かけた。嵐山光三郎さんのトークショーもあって、その頃すでに亡くなられていた水丸さんや、春樹さんの話もあって楽しかったなぁ。

【著書紹介(出版社Webより)】
1989年刊行の『普通の人』(JICC出版局)、1993年刊行の『平成版 普通の人』(南風社)にこれまで書籍未収録だった雑誌読切りの「最初の普通の人」を加えた完全版として堂々復刊!

日常スペクタクル巨編!

古今東西、老若男女。時代は変われど、人は変わらず。
稀代のイラストレーター・安西水丸が贈る普通の人のおかしな日常記。

円満家庭の主人。軽薄な会社員。眠る女とミステリ作家。かわいい名前の妻を持つ養豚家。
毒づく全身ブランド男。育児不和の夫婦。過大な自己評価の編集者。愛の不在に揺れる女。刀剣で鍛える親父の娘―ほか。

鋭い観察眼(ナイフ)が切り取るフツーの光景。
そう、これは今を生きる、私やあなたのお話です。

解説:村上春樹 『普通の人を褒める』(1993年南風社『平成版 普通の人』解説を再録)

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