私たちがレイモンド・カーヴァーについて語ること
訳者の村上春樹さんが関わったレイモンド・カーヴァーに関する著述は本当にこれで最後になる(これから刊行されなければ…)。
本書はサム・ハルパートという方がインタヴューし、編集したもの。
まず、このハルパートさんのインタヴューの傾向として、基本的には短いセンテンスで質問し、インタヴュイー(ほとんどがカーヴァーと親交のあった作家、前妻のメアリアン・カーヴァーと2人の子の1人であるクリス・カーヴァー)が多くを語るという点では良いのだが、いささか「〇〇という短篇小説は実際にあった話なのでしょうか?」的な質問が目につき、やや辟易するところも。
訳者もあとがきに書いているが、その点で芸術家としてのカーヴァーをリスペクトし、サム(・ハルパート)の質問にやや対立するように応えていたのがリチャード・フォード。
フォードは、サムの何かしらカテゴライズしたい、観念化したいような質問に対し、丁寧に冷静に受け止めつつきちんと持論も展開しているところがよかった(好き嫌いは分かれるかも)。
サムはそんなテンポでカーヴァーの前妻であるメアリアンにもインタヴューしていくもので、メアリアンからは「作品になることで傷ついた」「私たちは人生を切り売りし、レイ(レイモンド・カーヴァー)は亡くなり、私はアイデンティティを失った」などの悲痛な答えもみられた。
(その点で、カーヴァー逝去時の妻であったテス・ギャラガーが本作に声を寄せていないことにもいろいろ想いをめぐらせることができる)
(しかしカーヴァー自身、メアリアンとの出来事から作品にしていくことに罪悪感に苛まれていたということ)
と、やや厳しいことを並べていくと、本書の目的は何なの?とまで考えてしまうけれど、温かい仲間たちのインタヴューはとても良い。本書のもっともよいところはそこにあると思う。
まずは、ジェイ・マキナニー。彼はカーヴァーを尊敬し、彼に導かれて作家になる。カーヴァーは自分のおかした過ちを繰り返させないように接していたようす。
ほか、トバイアス・ウルフ、そして僕(誠心)が1つ前の投稿で書いたウィリアム・キトリッジのインタヴューもよかった。
あまり日本人にはみられないようなおおらかさ、朗らかさを感じるのは僕が日本のことをどんどん嫌いになってきているからなのかもしれない。
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レイモンド・カーヴァー傑作選からはじまり、特に名作と言われる短篇集(概ね『大聖堂』まで)を読んだのはずいぶん前のような気がする。
ひととおり巡ってまた読み返してみるとずいぶん違った感じ方をするのではないかと思った。
僕は比較的再読に価値を置くタイプで、自分の読書記録を読み直すこともあり、それも再読の際の楽しみになっている。
訳者があとがきで、カーヴァーのことを全く知らない人がこれを読んでもおもしろいのではないか、と書いていて、中盤まではそんなことあるかな…と思っていたけれど、最後まで読んでみてそれがわかるような気がした。
結局のところ、物語を通じて自分自身を見ている、再発見している、見たくないところを見ている、のだなぁ…と。
バイ・ザ・ウェイ、僕は1980年生まれなのだけど、小説にしても音楽(最近は日本の音楽が全般的に苦手で専ら洋楽)にしてもどうも80年代に愛着がある。80年代全盛で活躍していた人たちはすでに60代から80代になっていて、どんどんいなくなっていって、それはまことに寂しい。(が、どうにもならない)
(訳者は今月末に中央公論新社から「フィッツジェラルド傑作選10」なるものを出すようだがこれも終活のひとつに見えてしまう…)
引き続き、村上春樹翻訳小説全巻読破に向けてフィッツジェラルド、チャンドラーと読んでいきます。
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最後に、サムの質問とトバイアス・ウルフのこたえを転載(P355)します。
-『親密さ』の中では主人公は別れた奥さんに会いに行きます。これは本当に起こったことなのでしょうか?
それは彼の頭の中では起こったかもしれない。それらの出来事の多くはきっとレイの頭の中で起こったことに違いない、と僕は考えている。しかしそれはまことにリアルだ。大事なのは、それらの物語が「信じられる」ということに尽きる。それらは何にも増してリアルな小説なんだ。そこに描かれた出来事がそのまま、彼の人生で実際に起こったかどうかなんて、どうでもいいことじゃないか。もしそれが本当のことかどうか知りたければ、本人に訊ねてみればいいんだよ。彼は何だって包み隠さず僕らに教えてくれた。彼はエッセイ『ファイアズ(炎)』の中で自分の人生について語っている。彼は自分の父親についてのエッセイの中でそれを語っている。彼は詩の中で自分の人生について語っている。
-じゃあ、彼は自分の経験を芸術のために、色づけなしで用いていたということですか?
もちろん色づけをしていたよ。彼は芸術家だ。何だって色づけした。
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