必要になったら電話をかけて


カーヴァー没後十余年を経て発掘された未発表短篇集。
村上春樹翻訳ライブラリーとしては2008年が初版。

「ビギナーズ」が2010年に刊行されているけれど、これは「愛について語るときに我々の語ること」のオリジナル版であったため、愛について~と併読したため既読(8つ前の投稿)。

つまり、これにてレイモンド・カーヴァーの全作品を読破したことになる。

今回の未発表短篇5篇については、「未発表」であったがゆえに、発表されることに故人はどんな気持ちなのだろうか…ということがよぎった。というのは、この5篇にまとまりがないというか、訳者も指摘するように甘かったり読みづらいものもいろいろとあり、さらには「どこかで読んだような…」というのもいくつかあり(なるほど未発表だから、ここから発展させて発表したわけだ)最後の1冊にして、何か気が抜けるものがあったからだ。しかしすべてを翻訳しきった村上春樹さんは本当にすごい…!エネルギッシュですね。

結局のところ、僕(=誠心)が村上春樹翻訳全小説読破を少しずつ進めているのもひとつの「姿勢」だと思うし、例にもれず春樹さんの「姿勢」をここでも感じ取ることになった。

解題の一部(P180~181)を転載にして、終わりにします。

 この十四年にわたって、僕なりにこつこつと訳出作業を続け、ここにいちおうの完成を見て、それで強く実感するのだけれど、我々の人生にとって大事なのは、自分にとってまっとうと思える決意をどこまでも維持することであり、自分にとってまっとうと見える姿勢をどこまでも継続することである。流行は移り、風向きは変化し、人々の口にする言葉も違ってくる。評価は上がったり下がったりする。しかし我々の人生の営為は基本的には、あくまで累積的なものなのだ。我々は時代の波に振り回されることなく、自分の道をみつけ、それを一歩一歩前に進んでいくしかない。僕らは僕らなりの個人的な「秘蹟」を探し求め、そこで見いだされたものを心から大事にしていかなくてはならない。たとえとるに足らないように見えるささやかなことであったとしても、それはしっかりと誠実に護られなくてはならないのだ。それが僕がレイモンド・カーヴァーという作家から、そしてまた彼の全作品を翻訳するという作業から学んだ、もっとも大事なことであるような気がする。
 読者のみなさんに、レイモンド・カーヴァーの残した作品を楽しんでいただけたとしたら、僕としてはとても嬉しい。そしてそのうちのいくつかの作品が、流行や風向きを超えて、みなさんの心の奥深くに残ったとしたら、更に嬉しい。それだけの価値のある作家であり、作品であると信じている。

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?