このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる ハプワース16、1924年

書影

さて前回のnote
https://note.com/seishinkoji/n/n445e2914e9fe
にいろいろ書いたけれど、「大工よ、屋根の梁を高く上げよ」の次の「シーモア―序章―」の次にあたる「ハプワース16、1924年」から読みはじめた。

かなり難解だった。久々の感覚。訳者の金原瑞人さん、こんなのよく訳されたなぁ…。

https://www.shinchosha.co.jp/book/591006/
を読んでみると確かに

それは良かった。苦労した甲斐があります。ぼくはこれまで五百作品ほど翻訳してきましたが、「ハプワース16、1924年」は、翻訳の難しさで一位か二位です。

と、おっしゃっている。

とにかくキャッチャー・イン・ザ・ライ(以下:キャッチャー)のホールデン君もそうとうませていたと思うけれど、ハプワース~のシーモア7歳の手紙のこのませ方は、もう、ませ方なんてもんじゃない。
1965年、サリンジャー最後の小説。このあと死ぬまで45年間、サリンジャーは何も書かず(書いたかもしれないけれど発表せず)に過ごす。

この短篇集の最初の2つはホールデン君に関わる話で、キャッチャーの断片に近いところがあったけれど、やっぱりホールデン節、かなりいい。
また、キャッチャーを読み返したくなった。スペンサー先生は、キャッチャーでは味わえなかった新ネタを披露してくれているし、やっぱり笑えた。

サリンジャーの好きなとこはくすくす(ときにげらげら)笑えるとこ!

3~6つ目までのはホールデン君の兄、ヴィンセントや戦争にまつわる話だけど、6つ目の「他人」ではヴィンセントのかつての戦友ベイブが、妹のマティと共に、ヴィンセントのかつての彼女に、彼が戦死したことを伝えにいく話で、これはラストシーンがすごくよかった。無垢な妹は、兄が戦争から帰ってきたことを喜んでいるし、二人たわむれる中で、平和のありがたみがひしひしと伝わってくる。

サリンジャー作品は、ホールデンとフィービー、ズーイ(ゾーイー)とフラニー、ベイブとマティ、のように兄妹の関係性がとてもピースフルなアクセントになっていることが多い。

この短篇集のおもしろいところは、最初の作品「若者たち」と最後の作品「ハプワース~」がどちらも収められていること。
ここまで変容してしまう作家って、珍しいのではないでしょうか。

というわけで次は「サリンジャー 生涯91年の真実(晶文社)」を読んで、さらにサリンジャーの魅力と秘密にせまっていきます。

【著書紹介文】
ああ、人生って、目を見開いてさえいれば、心躍る楽しいことに出会えるんだね――。「バナナフィッシュにうってつけの日」で自殺したグラース家の長兄シーモアが、七歳のときに家族あてに書いていた手紙「ハプワース」。『ライ麦畑でつかまえて』以前にホールデンを描いていた短編。長い沈黙の前に、サリンジャーが生への祈りを込めた九編。

(書影と著書紹介文は https://www.shinchosha.co.jp より拝借いたしました)

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