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金魚とハムスター

「先生にね、おしえてあげたんだ。
 ぼくのうちでは金魚とハムスターを飼ってるんだよって。」

 息子よ。ハムスターとは初耳ぞ。

 子どもは無邪気です。彼らの発想は自由の象徴のようなもので、私の想像を軽々と飛び越えて日常を彩ります。息子が幼稚園の先生に飼ってるといったハムスターとは一体何のことでしょう。私は首を傾げました。


 先日、居間の片付けをしました。生活していると色々なものが増えていきますから、時々気合を入れてモノを減らす必要があります。個人的にはとっ散らかった部屋も快適に思いますが、客人を招く可能性がある以上、そういうわけにもいきません。それに室内のエントロピーが一定の水準を超えると軍曹の怒りスイッチが起動して全てが塵と化す危険もあります。

 片付けの基本は要るものと要らないものを分けて、捨てたり売ったり、モノを減らすことだよ。と諭しながら一緒に部屋を綺麗にしていきます。書斎の整理もしないとなぁ、などと考えながら有象無象の仕分けを進めます。壊れた玩具、特に幸せセットとかガチャ的なグッズはサヨナラのタイミングかもしれません。息子と娘に確認しながら、ポイポイします。

「これはどうする?」

 瞬間、息子の目の色が変わりました。

「ハミィィィィーーーー!!」

 歓喜の声と共に突進してきた息子は彼が「ハミィ」と呼んだ掌サイズのソレを高く掲げ、もう一度叫びました。

「ハミィィィィーーーー!!」

 ここにいたんだね、ハミィ。そう言った息子は近年稀に見る優しい表情です。慈しむように掌に乗せ、それから満面の笑みで頬擦りをしています。なにこれ。なにがはじまったの。私を置いてけぼりに息子はキッチンに向かいます。キッチンといってもリアルなそれではなくて、ちびっ子サイズの木造りのやつです。

 おなかすいた?いまつくるかね。などと言いながら息子は小さな木製フライパンで仮想目玉焼きを作ります。

「ほら、ハミィ。ひまわりの種だよ。」

 それ目玉焼きですやん。どう見ても目玉焼きなひまわりの種を、息子は「ハミィ」に近づけました。

「おいしいィィーーハミィィーーー!!」

 一人二役です。語尾はハミィ。

 ようやく分かりました。飼ってるハムスターとはコイツのことですね。いつかの旅先で渋々回すことを承諾したガチャから生まれた愛玩鼠の玩具です。フニフニと心地良い触り心地のソフビ人形は、息子を虜にしていました。しばらく見掛けなかったからすっかり忘れていましたが、息子にとっては金魚と同列に「飼っている」と感じるほど、思い入れの強い代物だったのでしょう。


 幼稚園の先生は、渡邊家をムツゴロウ王国のように想像しているかもしれません。犬は義実家ですし、猫は近所の野良猫ですし、ハムスターは人形です。金魚は12匹居りますが、鳥もトカゲも室内には居りません。

 まぁいっか。

 私は生き物が好きです。植物も動物も、人間も好きです。ハムスターも飼ってみたいと思いますが、軍曹が渋い顔をしそうなので今は止めておきましょう。瓢箪から駒、嘘から出た誠、思う念力岩をも通すと云いますから、息子の想像力を尊重していたら、いつの日か生き物パラダイスな場所に住めるかもしれません。


 それから毎日、息子は「ハミィ」と一緒です。食事も遊びも風呂も眠る時も、彼の手には小さな命が輝いています。



 拙文に最後までお付き合い頂き誠にありがとうございました。願わくは、貴方の大切に思う気持ちが、生物にも非生物にも命を宿しますように。



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