ある眼科医の憂鬱
「俺、何を言っても冗談みたいに聞こえちゃうんだよ。」
そう言った彼の顔色は、やはり冗談染みていました。
ポーカーフェイス過ぎる彼は捉えどころのない色男で、新世紀エヴァンゲリオンの登場人物に喩えるなら「加持さん」のような人でした。ここでは敬意を持って加持さんと呼ばせていただきます。
加持さんは大学の部活の先輩で、弓の上手い人でした。飄々としたユーモアに溢れていました。部活の遠征で加持さんの車に乗せてもらうと、
「俺、燃費重視だからブレーキ踏まないよ〜」
といって山道をノーブレーキで駆け巡るジェットコースターでした。
加持さんは医師としての進路を決めるときに、心底悩んでいました。いや、とても悩んでいるようには見えませんでしたが、悩んでいると言っていました。脳外科医になるか、眼科医になるか。
「俺が言うと、冗談みたいに聞こえちゃうからさ」
「脳外科ってシビアじゃん?いきなり俺が出てきてさ、あなたのお父さんは死ぬかもしれないですって言われて、信じられる?俺は信じられないよ。ほんとほんとって言っても、え、ドッキリ?みたいな。」
「うん。脳外科やめよ。眼科になろう。」
心底悩んでいたのが嘘のように、雑談の中で進路が決まりました。
あれから10年。
某感染症が流行する前、たまたま住んでいるところが近いこともあって、加持さんを慕う有志数人で飲み会をしました。加持さんは脳外科医への憧れを捨てきれていないようでした。
加持さんは健在でした。
捉えどころのない飄々とした姿は、夜の街に消えていきました。
彼の言葉が何故「冗談」に聞こえてしまうのか、私はその答えに未だ辿り着いておりません。彼は本気で悩んでいるらしい(そうはみえない)ので、何か気づくことがあれば、ご指摘いただければ幸いです。
拙文に最後までお付き合い頂き誠にありがとうございます。願わくは、貴方の真摯な言葉がまっすぐ人に届きますように。ピチョン。
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