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その気付き、零れ落ちぬように。

 目が醒めると頭痛がした。

 否、頭痛で目が覚めたのかもしれないが、どちらが先でも大差ない。私は強烈な片頭痛発作の到来を予見した。過去、ほとんど全ての薬を試したが、どれもこれも効果は乏しかった。自分で自分を治療するようになって、希望の光が差した。そのときの状態に応じた漢方薬と鍼灸治療を併用することで頭痛発作は治療し得る現象に成り下がり、本治によって頭痛の頻度も激減した。

 そこへ来て、今日の頭痛。深夜の寝室を抜け出してリビングに向かう。ドアを閉める音が頭に響いて不快だった。隣の部屋の灯りだけ点けて、静かに治療を始めた。幾つかの漢方薬を内服して、反応のある兪穴ツボに鍼を置いていく。痛みが引いてくると、睡魔が私をソファに沈めた。

 娘に声を掛けられて目を開けると、6時半を過ぎていた。いつも5時半には起きて家事をするのだけれど、今日は寝過ごした。残念。左側の頭痛は鈍く残り、しかし程度は僅かなものになっていた。これなら動けるだろうと、朝食の用意を始めた。

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 息子を幼稚園に送り届ける道すがら、私は最近の記憶を想起した。いつの間にか増える仕事、遅刻しないようにと焦る気持ち、家庭のこと家族のこと。考え事は月毎に増えて、比して余裕が減っていることに気付いた。これを息子に伝えたいと思った。

「なぁ、パパ気付いたんだけどさ。」

「なあに?」

「パパ、最近余裕がなかったよなーって思って。余裕っていうのは、のんびりした気持ちのこと。のんびりした気持ちを忘れて、急いだり、イライラしたりしてたような気がするんだよ。どう思う?」

「うーん…そうだね。よゆーなかったとおもうよ。」

「だよなぁ。うん。反省した。今からのんびりするよ。」

「オッケー。」

 息子の笑顔に救われた。息子は言葉を続けた。

「ねぇ、またパパの失敗した話を聴きたいんだけど。」

 彼は私の失敗談を聴くのが大好きだ。滑り台を駆け上がって前の子の足にぶつかって鼻血を出して倒れた話や、学校の池を飛び越えるのに足を滑らせてずぶ濡れになった話、園のプールが怖くて一人だけプールサイドを逃げ回った話、合宿に靴下の替えを忘れて足が臭くなった話。数え切れない失敗談を繰り出すうちに、瑣末な問題は霧散していった。

 健康に越したことはない。然れども身体の不調は、ときに警告としての役割を果たすことがある。頭痛は私にとって鋭敏な指標なのだろう。のんびりした気持ちを忘れないように、忘れてもすぐに思い出せるように、私は記録を残す。


 万事、自然に任せればいい。
 閑雲野鶴の境地を、私は生きていく。



 拙文に最後までお付き合い頂き、誠にありがとうございました。願わくは、私と貴方の生きにくさがふわりと浮いて溶けますように。




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