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一輪の切り花 《詩》

「一輪の切り花」

希望と同じ数だけの
絶望が其処にあり

生と同じ数だけの
死が此処に満ちている


行き交う車が僕の視線を塞ぐ

僕は其処にある何かを

見落としている


僕の前に再び姿を見せた影は

俺もまた此処にいる 

そう暗示している

望まない時 

あるいは強く否定する光が

大きな鉄の門扉を閉ざす

常緑樹が作り出す影は

其の葉色とは裏腹に 

黒に近い鈍色をアスファルトに映す

単純で保守的な風が直線的に吹く

車椅子に座った白髪の老婆

鏡の前に飾られた花瓶 

一輪の切り花


その花には
匂いも色彩も無く錆び付いていた

僕は黙って壁の時計を見つめていた

知らなくて良い事は
知る必要は無い

誰だって傷付きたくは無い

僕に傷付く資格があるのだろうか

資格なんて無くたって

傷付くべき時には

自然に傷付く 

そして僕はまた黙り込む 


ずれ落ちてひん曲がった鉄の花

絶望と同じ数の希望が
此処にある 

そう信じたい

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