見出し画像

ウィスキーと短編小説 《詩》

「ウィスキーと短編小説」

ウィスキーのオンザロック

グラスを傾け溶けて行く
氷と琥珀を見ていた

その中に幾つかの短編小説が浮かび上がる


折り重なる断片に

愛だとか悲しみだとか

モザイク的に絡みつく

無数の挿話の羅列が
比喩的に空間を飛び交い

やがて現実に変わる


そうじゃない 

僕は其の物語と現実との違いを

次第に見分ける事が
出来なくなって来ただけだ

執拗なまでに個人的な世界観の中

酔いに似た感覚が僕を包み込む

虚実を隔てる一枚のヴェールが
迷宮的に揺れた

一応の一貫性の背景は

僕が作り出した小世界であり

まとまりの無い混沌が垂直に垂れ下がる

僕と物語の物理的な結び付きが
具体化され証明された時

全ての短編小説は
僕自身の現実的な事柄だと知る

湾曲した猥雑と直線的な光

保守的な沈黙と許されざる者

背負うもの決して語らず


暴力的な程の強く深い眠りの中で

夜空を見上げている僕が居る

そして 
星はあらゆる仮説を語り始める

もしも 

あの日 あの時 あの場所に…

愛しき人が僕の名前を呼んでいる

確かに君の声だった


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?