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anarchism - 玩具の街 - 《小説》

「anarchism」 - 玩具の街 -

ねぇ 誠君

これから行きたいところがあるの

良い? 一緒に行きたいの 

いつもは私独りで行く場所

玲子さんは  

そう言って僕の手を少し握って
直ぐに離した 

指先の感覚と温もり 

そして汗の湿り気 

そんなものを僕は指先に感じた


駅前通りの外れにある
デパートのビルに入り

エレベーターで屋上まで上がった

其処には幾つかの

ベンチと水の足りてない

枯れかけた観葉植物が
置いてあるだけの空間だった

こっちこっち 

屋上の金網のフェンス 

非常階段のある箇所

其処の場所だけ

土台のコンクリートが
一段高く作られていて

街を遠くまで見下ろせる場所だった

幾重にも重なり

伸びて行く電車の線路

大通りの側に
市役所そして警察署その先の

海沿いに建ち並ぶ
工業地帯のコンビナートが見えた


全部小さく見えて 

まるで玩具みたいでしょう


真下を見てよ車が沢山だよ 

ミニカーみたい

渋滞してる 

馬鹿みたい
何やってるんだろね皆んな

此処から飛び降りたら
自由になれるかな

楽になれるかな
苦しみは消えるのかな


そう言って玲子さんは僕に囁いた

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