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スポーツを止めるな! 地域スポーツクラブのオンライン化への取り組み

政府が大規模イベント開催の自粛を要請した2月末から、はや2ヶ月が経った。

様々な経済活動がストップしているが、その中の一つ、スポーツも深刻な状況が続く。スポーツエンターテインメントが直面している課題については、ある媒体で公開に向けて執筆しているところなので、ここでは、グラスルーツにおけるスポーツ環境の課題について触れてみたい。

僕は、20年間のライブエンターテイメントビジネスに携わる傍ら、5年ほど前からスポーツライターとして取材・執筆活動をしてきた。一方で、グラスルーツにも関わらなければ、本当の意味でスポーツ文化の中に身を置いているとは言えないと考え、小学生の指導現場で4年、その後も街クラブのフロントスタッフとしてトップチームの立ち上げなどを行ってきた。さらに4年前からは地元で出会った大久保翼と共に「ファルカオフットボールクラブ」を立ち上げ、自分なりに地域スポーツの課題に向き合ってきたつもりだ。

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※ファルカオフットボールクラブは、サッカーを通じ、自主性と表現力を高めるべく埼玉県久喜市で活動している。

学校教育から脱却しつつあるスポーツ

1872年、欧米の先進国にやや遅れをとり、教育に組み込まれて始まった日本のスポーツ。学制公布と同時に「体育」として始まったスポーツだったが、第二次世界大戦が終わるまでは、身体的側面で兵士や労働者の育成を行うことが目的だったため、教師による一方的な注入主義的指導が行われてきた。そんな歴史的背景の名残りは今も色濃く残っている。その一つが部活動だ。

僕は部活動に熱心な教師の方を何人も知っているし、彼らの教育的姿勢は尊敬に値すると感じているので、すべての部活動に対して否定的な意見を持っているわけではない。

だが、明らかに専門性に欠けたスポーツ指導が行われているケースがあることも否定はできないし、熱心さが裏目に出てしまい暴言が目立つ教師も見てきた。さらには教員の時間外労働の問題も重なったため、近年はスポーツ教育を民間のスポーツクラブへ移管する動きが進められてきた。

そんな中で注目を集めてきたのが、地域のスポーツクラブである。特に総合型地域スポーツクラブは、生涯スポーツ社会の実現のため1995年より文部科学省により進められてきたスポーツ振興によって、増加の一途を辿ってきた。地域社会において、幅広い世代の人々が、興味や関心、そして競技レベルに合わせて、様々なスポーツに触れる機会と場所を提供する役割を担ってきたのだ。

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だが、そのスポーツクラブは、新型コロナウィルスの猛威により、まさにいま瀬戸際に立たされている。

グラスルーツのスポーツ環境に横たわる課題はとても根深いが、いまの状況下で僕が最も大きな問題だと感じているのが指導者の流出である。

専門的な知識と能力でスポーツ指導ができる「プロコーチ」たちの多くは、30歳を過ぎたあたりから必ずお金の問題に直面する。特に家庭を持ったり、子供が産まれたりすると、指導だけで生活していくことができなくなり、スポーツ指導の現場から離れてしまうケースをたびたび見てきた。せっかく指導者ライセンスを取得し、現場で経験を積み、ノウハウが蓄積されてきたタイミングで、プロコーチたちは、スポーツの現場から身を引いてしまうのだ。

この点については、本田圭祐が経営する「ソルティーロ ファミリア サッカースクール」でゼネラルマネージャーを務める鈴木良介氏は以下のように話している。

「草の根のスポーツ界で大きな問題の一つは、指導者の給料が上がらないということです。なぜ給料が上がらないのか。スクール事業は、子供たちからの月謝で成り立っています。もし指導者の給料を上げようとすると、スクール生を増やすか、スクール生からいただく月謝を値上げするかの2つしか選択肢はありません。でも、スクール生を増やすといっても、指導者1人当たりの目が届く範囲には限界があります。では月謝を上げればいいのかといったら、これも難しい。わたしたちはサッカーの普及活動をしているわけです。サッカーをやる子供たちを増やしたいのに、月謝を高く設定してしまえば、高い月謝を払える人しかサッカーができないというおかしな構図になってしまいます」。

いま、地域のスポーツクラブでは、指導者の雇用を守るのが非常に厳しい状況となってきている。野外での活動ができないため、収入は激減。これ以上長引けば、雇用を維持していくのは難しく、残念ながら指導者の流出は一気に加速してしまうだろう。

高まるスポーツへのニーズ

一方で、外を見渡すとどうだろうか。自粛がながびく中、普段なら人が全くいないような公園で、小学生や中学生がサッカーをしたりバトミントンをしたり、野球をしたりしているではないか。

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街中では、ランニングをしたりサイクリングをする人の姿をこれまで以上にみかけるようになった。僕の仕事仲間の中年男性は、この自粛要請を機にダイエットを始め、毎日5kmのランニングを続けているそうだ。知り合いのパーソナルトレーナーに話を聞くと、オンラインによるパーソナルトレーニングの依頼も徐々に増えていると言う。

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※これは大切な友人でパーソナルトレーナーも務める元格闘家・大山峻護さんのオンライントレーニングの様子。なんと60名以上の人が参加しみんなで運動を楽しんだ。

自粛によって、人々がスポーツを強烈に求め始めているのは皮肉だが、それだけ僕らはみんなとスポーツを楽しみたいし、スポーツを学びたいという根源的欲求を持っているのだ。

今こそスポーツもオンラインに舵を切るとき

3月上旬、僕に一本の電話があった。声の主は「ファルカオフットボールクラブ」で代表を務める大久保翼だった。

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青森山田高校で選手権に出場し、世代別の日本代表にも選ばれた彼とは4年前にファルカオフットボールクラブを一緒に立ち上げて以来の付き合いだ。そんな彼から以下のような相談が来た。

「瀬川さん、この状況が長引いたらクラブの維持が難しくなるかもしれません。いまから動かないと手遅れになるんじゃないか。オンライン化を進めたいんですが、どうしたらいいか相談にのってもらえませんか」。

ちょうど半年ほど前、僕は鈴木良介さんが本田圭佑選手とともに立ち上げたオンライン指導のプラットフォーム「NOWDO」のことを取材したことがあった。この時は正直なところ、オンラインへの需要はほんの一部しかないと感じていた。だが、新型コロナウィルスのおかげで、世の中は一気にリモートワークへの移行が進んだ。まさにいまこそ草の根のスポーツも、オンラインへ舵を切るべきタイミングだと感じた僕たちは、オンラインサービスを立ち上げることにした。

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僕は、スポーツでは成功しなかったタイプの人間だ。だが、スポーツからたくさんのことを学び、スポーツの価値を身にしみて感じてきた人間でもある。そこで改めて僕がスポーツで学んだことを整理してみたら、いまオンラインで提供すべきことが見えてきたのだ。僕が整理したスポーツの価値は以下の通りだ。

1. スポーツは、人と人の出会いの場となる。
2. スポーツは、人との付き合い方を教えてくれる。
3. スポーツは、ルールと他者への尊敬を教えてくれる。
4. スポーツは、競争心をあおり、努力する術を身につける教育的なツールである。
5. われわれは、アスリートにヒーロー像を求め、スポーツを楽しむ。そしてスポーツを通じて社会への適応方法を学ぶ。

確かに皆で体を動かすというスポーツ特有の行為は、オンラインでは制約がある。だが、列挙した内容をみれば分かる通り、スポーツという共通語の元で集まった仲間たちとコミュニケーションをとることによって、スポーツは人が成長するための大切なプロセスとなることに気づいた。 それなら、オンラインでもできることがあるのではないか、と考えたのである。

ファルカオ・オンラインサッカー講座とは

ファルカオ・オンラインサッカー講座は、スポーツに対する情熱をもつ人たちに、スポーツの学びをオンライン上で提供するものである。そしてこの講座によって、参加者たちとコミュニケーションを図り、スポーツが成長のプロセスとなることを試みるものでもある。

オンライン上にスポーツコミュニティが形成され、そのコミュニティの中から、人と出会い、人との付き合い方を学び、他者への尊敬の念を持ち、努力する姿勢を身につけながら、成長してもらえるものと信じたい。

このオンライン講座の立ち上げにあたっては、指導者集めは大久保翼が担当し、オペレーションは理事の齊藤純希が担当、ランディングページ作成やプラットフォームの選定、さらには講座の内容のコンサルティング、デザイン業務など、サービス全体の設計とプロデュースを僕が担当した。さらに集まった指導者たちと講座の内容や指導方針、オペレーションなどを入念に打ち合わせしたつもりだ。

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※講座内容の検討の様子。こうして指導者が発表しながら、皆で意見を出し合って設計を重ねた。

仲間に加わってくれた指導者は、現役Jリーガーや海外で活躍するプロ選手ら。これからさらに仲間を増やしていく予定だ。

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短い時間の中で、高い志を持った仲間たちと、新しいサービスを作り上げることができるのは、僕にとっても、非常にエキサイティングな経験だ。

いま世の中でオンライン化に困っているスポーツクラブがあったら、ぜひオンライン化に向けてチャレンジしてみて欲しい。新しい活路を必死なって探した者だけが味わうことができる喜びがあることだけは、自信を持って言うことができる。

最後はいささか、宣伝めいてしまったようで恐縮だが、この内容がオンライン化を進めたくて悩んでいるスポーツクラブを運営する方々の参考になれば嬉しい。また、地域スポーツクラブの新しい動きについて情報があれば、ぜひ連絡をいただきたい。

また、オンラインで指導をしてみたいというプロの指導者や、オンライン化に向けて困っているクラブの代表者の方は、ぜひ以下の問い合わせフォームからご連絡をいただければと思う。微力ながらも、何か力になれることがあればと考えている。

これまで培ってきた日本のスポーツ文化を絶やさないためにも、指導者の流出を止めるためにも、アクションを起こしていこう。


瀬川泰祐の記事を気にかけていただき、どうもありがとうございます。いただいたサポートは、今後の取材や執筆に活用させていただき、さらによい記事を生み出していけたらと思います。